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第47回 セクハラ、パワハラにハラハラ、ドキドキする上司たちへ~恐れず、適切に部下と向き合うための実践ガイド~
セクハラ、パワハラなどのハラスメントを恐れて、指導や関与を避ける“放任上司”が増加しています。今回は、指導とハラスメントとを分ける判断基準と、部下との信頼関係を築く実践的なヒントを紹介しましょう。
セクハラ、パワハラにハラハラ、ドキドキする上司たちへ~恐れず、適切に部下と向き合うための実践ガイド~
「部下を食事に誘ったらセクハラと思われるかも」
「厳しく言えばパワハラだと通報されるかもしれない」
こうした不安から、部下とのコミュニケーションを避ける上司が増えています。
ハラスメント対策の意識向上は職場の健全性を維持するために重要ですが、恐れすぎるあまり“部下にできるだけ関わらないようにしよう”と考える上司が増えていることが、新たな問題になっています。
指導を避ければ、部下は成長のチャンスを失います。ミスや改善点が放置されれば、周囲の不満や業務の質にも影響が及びます。また、上司が自分に関心を持ってくれていないと感じた部下は、孤立感や不安を抱くようになります。関わり合いを持たなければハラスメントは避けられても、信頼の欠如や孤立、業務不全といった別のリスクを生むこととなるのです。
今回は「ハラスメントかもしれない」と感じて指導やコミュニケーションをためらってしまう管理者に向けて、安心して関わるための視点・基準・行動のヒントをお届けします。
指導とハラスメントとの違い、どこに線を引く?
まずは、管理職が最も悩みやすい「どこまでが指導で、どこからがハラスメントか?」という点を、以下の表に整理しました。
視点 | 適切な指導 | ハラスメントの可能性が高い行為 |
---|---|---|
目的 | 成長・改善のための支援 | 支配・攻撃・排除が目的化 |
対象 | 業務の行動・成果に対する指摘 | 人格への否定やあてこすり |
言い方 | 冷静で尊重のある伝え方 | 感情的・威圧的・嘲笑的 |
頻度・継続性 | 必要なときに限定して伝える | 長期間・執拗に繰り返す |
場の選び方 | 個別対応や適切なタイミング | 周囲の前で恥をかかせるような言動 |
このように、「何を」「どう」伝えるかに加え、その言動が「相手の成長を支援する目的と敬意」に基づいているかどうかが、指導とハラスメントとを分ける本質です。
不安を感じたときのセルフチェック4項目
とはいえ、理屈では理解しても、「それでも怖い」と感じてしまう瞬間もあるはずです。そんなときには、以下の四つの視点で自身の言動を確認してみてください。
1.これは業務上必要な指摘か?
単なる感情発散ではなく、改善の意図があるか?
2.伝える目的は明確か?
部下を委縮させたいのではなく、前向きな意図があるか?
3.言い方やタイミングに配慮しているか?
相手が冷静に受け止められる状況であるか?
4.第三者が聞いても不適切と感じないか?
立場や価値観が違う人から見たらどうか?
この四つをクリアできるよう意識することで、自信を持って部下と接したりコミュニケーションを取ったりすることができます。
関係性は“特別な場”より“日常のやりとり”で深まる
「昔は飲みに誘えば何でも話してくれたのに……」「もう誘えない時代なのか」と嘆く管理職もいらっしゃるでしょう。ですが、飲食を共にするなど特別な場でなければ信頼関係が築けないわけではありません。
今は、以下のように、“日常の中の対話”をコツコツ積み上げることが効果的です。
- 定期的な1on1面談:形式的でない対話の場として設ける
- 「ちょっといい?」と声をかける小さな関与:ミスの指摘よりも、困っていることの確認を優先する
- 雑談やフィードバックを業務中に自然に交える:日頃から話す雰囲気があれば、指導も受け入れやすくなる
- 意見を一度受け止める姿勢を示す:指導だけでなく、部下からの提案・悩みにも耳を傾ける
これらの積み重ねが、部下にとって「安心して関われる上司」であると感じさせ、いざというときに厳しいことを伝えても、信頼関係を壊しにくくしてくれます。
最後に~関わることを恐れず、誠実に向き合う勇気を
ハラスメントを避けたい気持ちは自然なことです。
しかし、「関わらない」ことでリスクを回避しようとする態度は、部下にとっては“見捨てられた”と感じる原因にもなりえます。管理職に求められているのは、ハラスメントを回避するために黙ることではなく、信頼関係の下で、誠実に考え、丁寧に伝えることです。
あなたの言葉が部下のためを思っていることであれば、恐れず伝える価値があります。関係性づくりは「伝えないことで守る」のではなく、「伝えながら築く」ものなのではないでしょうか。