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第46回 新人入社3カ月、変わるべきは彼ら? それとも上司?
古代エジプトの記録にも「最近の若者は……」の文字が? 実は“若者への違和感”は時代を超えた、あるある現象。指示待ち、承認欲求、明確な正解を求める――今どきの新入社員に戸惑う声が増えています。けれど、本当に変わるべきは彼らなのでしょうか? 今こそ、上司自身の関わり方を見直すチャンスかもしれません。
新人入社3カ月、変わるべきは彼ら? それとも上司?
4月に入社した新入社員たちも、気付けば3カ月半がたちました。そろそろ職場にも慣れ始め、「もっと自分で考えて動いてほしいな」「なんでこんなに指示待ちなんだろう」と感じている上司の方も多いのではないでしょうか。
そんなとき、つい口をついて出てしまいそうになるのが「最近の若い者は……」という一言。でも、ちょっと待ってください。実はその言葉、古代エジプトの記録にも登場するといわれることがあります。実際の記録が確認されていないため真偽はさておき、どうやら、“若者に戸惑う大人”という構図は、時代を超えて繰り返されてきたようです。
それならば、いっそ視点を変えてみてはいかがでしょうか? 「最近の若い者は……」と嘆くのではなく、「今の若者は、どうすれば力を発揮できるのか?」と問い直す。その方がずっと前向きで、実践的です。そして、これからの組織をつくっていくためには、その問いに向き合う“上司力”が問われています。
昔と今の「新人」、何が違うのか?
かつての新人教育といえば、「取りあえずやってみろ」「先輩の背中を見て学べ」「会社は“学校”じゃないぞ」といった、経験や根性がものを言う時代でした。叱られながら学び、時には理不尽にも耐えながら成長してきた方も多いでしょう。
一方、今の新入社員は、次のような特徴を持っています。
- 受け身な姿勢:自分から動くよりも、まず指示を待つ傾向が強い
- 承認欲求が強い:SNSに慣れ、「評価されること」に安心感を持つ
- 正解やはっきりした指示を求める:曖昧なゴールや指示には不安を感じやすい
ある管理者の方はこう話します。
「最初は“なんで指示しないと動かないんだ”とイライラしたけれど、試しに“どう思う?”と聞いたら、意外な視点や提案が返ってきました。『考える機会がなかっただけ』と気付きました」
新入社員の特徴は、単なる“甘え”ではありません。教育、社会構造、テクノロジー環境の影響を受けて形成された、いわば“時代の産物”なのです。
違いを「壁」ではなく「前提」として受け入れる
「自分の若い頃はもっと……」と思いたくなる気持ちも分かります。ですが、それを基準に若手を判断、評価しては、溝が深まるだけです。
彼らが育った時代は、私たちの時代とは別物。どちらが良い悪いというわけではなく、比べる意味はあまりありません。それよりも、「違っていて当然」と受け入れることが、リーダーとしての第一歩ではないでしょうか。
実は今の若手も、成長したいという気持ちは昔と変わらないでしょう。ただ、その育て方や関わり方が変わっただけです。むしろ、終身雇用が揺らぎ転職が一般化した今、仕事で早く成長したいという意識は、かつてより強くなっているかもしれません。
上司力をアップデートする四つの視点
では、どうすれば彼らの力を引き出し、成長を後押しできるのでしょうか? 四つの視点をご紹介します。
1. 対話型のコミュニケーション
「どう思う?」と問いかけることで、思考が促され、行動につながります。
2. こまめな承認
小さな行動や成果にも「ナイスチャレンジ」「頑張っているね」とフィードバックをする。小さな行動にもしっかり目を向け、“その場で伝える”姿勢が信頼につながります。
3. 期待値の明確化
「言わなくても分かるだろう」は通じません。曖昧な指示ではなく、目的や期待値、成果物を言葉にしましょう。
4. 心理的安全性の確保
失敗を責めるのではなく、チャレンジをたたえる。「この職場は、挑戦していい場所だ」と思わせる安心感が、成長のエンジンになります。
もちろん、新入社員は一人一人には異なる個性がありますので“正解”はありません。ここで紹介した四つの視点をヒントに、自分なりの関わり方を少しずつ磨いてみてはいかがでしょうか。
成長する上司こそ、未来をつくる
新入社員の“質”が変わったのなら、上司も“接し方”をアップデートすべきタイミングです。それは、部下に迎合するという意味ではなく、変化を観察し、対応し、生かすことのできる上司になるということ。今の50代・60代も、かつては「新人類」と呼ばれました。その後の「指示待ち族」や「マニュアル世代」も、いまや中堅・管理職となり、組織を支えています。
そう、次の世代を育てる“順番”が、今まさにあなたに回ってきたのです。
「最近の若い者は……」ではなく、「今の若者に、自分はどう関わるべきか?」――その問いかけこそが、上司自身の成長のスタート地点になるのではないでしょうか。