第45回 戦略総務と戦略人事のKPI設計術 〜見えない貢献を“可視化”する〜

営業成績や顧客満足度だけがKPIではありません。総務や人事といった間接部門にも、的確なKPI設計と運用によって組織への貢献度を測ることが求められています。本コラムでは戦略総務・戦略人事それぞれに適したKPI設計の視点を紹介します。

戦略総務と戦略人事のKPI設計術 〜見えない貢献を“可視化”する〜

企業経営において、営業利益や成約数、顧客満足度といったKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、業績を定量的に捉えるうえで欠かせないものです。しかし、その一方で総務や人事といったバックオフィス部門は「成果が見えづらい」「何を測ればいいのか分からない」といった理由から、KPIの導入や活用が進みにくいのが実情です。いまや総務も人事も、単なる事務処理部門ではなく、組織の“戦略実行の担い手”としての進化が求められる時代。こうした部門の価値を組織全体で共有、認識するには、KPIという「見える化の武器」を持つことが重要です。
今回は、戦略総務・戦略人事におけるKPIの考え方と、導入・運用のポイント、そして失敗を防ぐ設計視点までを解説します。

なぜバックオフィス部門にKPIが必要なのか?

まず押さえておきたいのは、「KPIは管理のための数字ではなく、活動の進捗(しんちょく)や成果を可視化するためのツール」であるという前提です。
バックオフィス部門にKPIが必要な理由は、大きく三つあります。

1. 見えづらい貢献の「可視化」
総務や人事は、直接利益を生み出すわけではないため、貢献が曖昧にされがちです。KPIによってその働きを可視化すれば、経営層や現場との信頼関係を築く材料になります。

2. 戦略部門としての「自覚と証明」
KPIの導入は、「自部門は経営に貢献しているか?」という問いを常に持つ姿勢を促します。これは、単なる事務処理から戦略的業務へと進化するための第一歩です。

3. 改善サイクルの起点になる
KPIがあることで、成果を数値で振り返り、原因分析と改善がしやすくなります。これは個人評価だけでなく、チーム力や業務改善にもつながる「見える化」の効果です。

1. 「戦略総務」のKPI設計の考え方と例

戦略総務の本質は、「人が働くための土台(どだい)づくり」にあります。物理的な環境だけでなく、制度・文化・安全面も含め、組織全体のパフォーマンスを支える役割です。そのため、KPIも“インフラの整備度”や“組織の快適性”を可視化するものが適しています。

1. KPI設計の視点
戦略総務としての貢献を定量化するには、「社員が安心して働ける環境が整っているか」「制度や文化が機能しているか」といった切り口から指標を考えることがポイントです。

  • 物理的環境の整備(快適性・安全性)
  • 社内の運用効率・制度の活用度
  • コミュニケーション・文化の促進

2. 具体的な指標例
上記の視点に基づき、日々の業務や取り組みの成果が数値として把握できるような指標を設定します。定性要素はアンケートなどで可視化する工夫が効果的です。

  • オフィス環境満足度(社員アンケート)
  • 備品・設備の故障対応までの平均所要時間
  • オフィス管理コストの削減率
  • 社内イベント実施数/参加率
  • 社内相談・問い合わせ窓口の件数推移と満足度

定性的な内容も、「社員アンケートの定期化」や「満足度評価スケール」で定量化することで、数値としての改善指標が生まれます。

2. 「戦略人事」のKPI設計の考え方と例

戦略人事は、単に人を採用・管理するのではなく、組織に必要な人材を計画的に獲得・配置・育成し、パフォーマンスを最大化する役割を担います。そのため、「人の質と動き」に着目したKPI設計が有効です。

1. KPI設計の視点
戦略人事のKPIでは、「適切な人材を採用できているか」「育成や評価が機能しているか」「組織に定着し力を発揮しているか」といった、人材戦略の実行度を測る観点が求められます。

  • 採用と定着の最適化
  • 人材の育成・スキル向上
  • 評価・報酬の納得性
  • エンゲージメントと組織文化の可視化

2. 具体的な指標例
上記の視点を基に、採用活動の成果や人材活用の質、職場の活性度などを数値で捉えられる指標を設定します。定量要素と定性要素とを組み合わせるのが効果的です。

  • 採用計画達成率(充足率)
  • 入社1年以内の離職率
  • 研修受講率・受講後アンケート変化
  • 評価制度の納得度調査結果
  • エンゲージメントスコア(年次推移)
  • 異動後の上司評価(配置の適正度)

ポイントは、“量”だけではなく“質”も併せて見ること。単に「何人採用したか」ではなく、「どんな人材が定着し、成長して、業務で成果を生み出しているか」に重きを置いた設計が望まれます。

KPIを生かすための運用のポイント

KPIは作って終わりではありません。以下の三つの運用視点が、生かされるKPIをつくります。

1. 「測りっぱなし」にしない
KPIは毎月・毎四半期など、定期的にチェックし、数値の背景を振り返ることが重要です。結果だけでなく「なぜ上がったか/下がったか」のプロセスと共に共有しましょう。

2. 「KPI疲れ」を防ぐ
数値を追うことが目的化すると現場は疲弊します。KPIは3~5個程度に絞り、現場に納得感のある設計を心掛けましょう。

3. 「目的とズレた数字」を追わない
“処理件数”や“対応スピード”などの、量や効率性だけを追い過ぎると、質を犠牲にする危険があります。満足度や納得度など、質的なKPIと必ずセットで設計します。

まとめ

戦略総務も戦略人事も、これからの企業において「成果を生む場・人を整える」重要なエンジンです。そして、その価値を組織に伝え、さらに高めるためにKPIという物差しが必要になります。今、あなたの会社では、総務や人事の働きがどれだけ可視化され、戦略と接続できているでしょうか?
「なんとなくやっている」「誰かが回している」から脱し、組織の中核としての役割を把握する一歩として、KPIの再設計に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

ワークデザイン研究所/石山社会保険労務管理事務所

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
石山社会保険労務管理事務所

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