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第44回 企業のインフラから経営戦略推進のパートナーへ ~変化の時代に求められるバックオフィスの進化~
かつては“縁の下の力持ち”とされた総務部と人事部は、いまや経営戦略の実行を支える重要なパートナーです。今回は「戦略総務」「戦略人事」としての役割と意義を再確認し、両者の連携が組織にもたらす価値を実務的視点で解説します。
企業のインフラから経営戦略推進のパートナーへ ~変化の時代に求められるバックオフィスの進化~
企業の持続的成長を支えるうえで欠かせないのが、かつては“縁の下の力持ち”とされてきた総務部と人事部です。しかし、現代のビジネス環境では、単なる事務部門、バックオフィスにとどまらず、企業戦略の実行を支える中核的な存在としての役割が求められています。
今回は「戦略総務」と「戦略人事」の意義を再確認し、両者の連携によって企業にもたらされる価値について考察します。
1. 戦略総務──企業活動の“土台”を整える存在へ
総務部は、オフィスの維持管理や備品の発注、各種契約書の管理、福利厚生の運営など、組織の“なんでも屋”と称されることもある、非常に守備範囲の広い業務を担っています。従来は「裏方」として目立たない存在でしたが、働き方の多様化、法令対応の複雑化、社員の安全衛生管理など、組織運営の重要性が高まるにつれ、その戦略的価値が再認識されるようになってきました。
「戦略総務」は、単なる“なんでも屋”ではなく、組織のパフォーマンスを最大化する“基盤づくり”を担当します。例えば、社員の生産性向上を意識したオフィスレイアウトの見直しや、労働環境改善に向けた衛生管理の強化、リスク管理の徹底など、総務部の取り組みが企業全体の活力を左右するといっても過言ではありません。
また、総務は組織の「カルチャー」をつくる部門でもあります。社内行事の企画や社内報の運営、社員相談窓口の設置といった取り組みを通じて、企業文化を形成し、社内コミュニケーションを促進し、職場の心理的安全性を高める存在としての役割も担います。
2. 戦略人事──“人”を起点に組織を動かす力
一方の人事部は、「人」に関するあらゆる機能を担う、組織の心臓部ともいえる存在です。採用、育成、評価、配置、退職まで、社員のライフサイクル全体に関わる業務を通じて、組織の活力を生み出します。
「戦略人事」とは、単なる労務管理や採用担当ではなく、経営戦略を“人の側面から”実現する部門を意味します。例えば、新規事業の立ち上げに向けた人材の獲得や、企業変革を支えるリーダー育成、社員のエンゲージメント向上施策など、人材を戦略的に活用する視点が求められます。
また、近年では人的資本経営の観点から、人事部に対して「人材の価値を可視化し、経営資源として最大限に活用する」役割が求められています。これは従来の人事評価や給与制度といった枠を超え、社員一人一人の能力をどのように引き出し、組織の成果に結びつけていくかを描く、極めて重要な仕事です。
3. 総務と人事との連携が、組織の成長を加速する
戦略総務と戦略人事は、それぞれ異なるアプローチで組織を支える存在ですが、両者が密接に連携することで、より大きな相乗効果を生み出すことができます。
例えば、「働きやすい職場環境」をつくるという目的において、総務がオフィスの物理的な改善を進め、人事が制度設計や評価基準を整えることで、制度と環境の両面から社員の生産性を高めることが可能になります。また、社員エンゲージメント向上の取り組みにおいても、総務が社内コミュニケーションを支える仕組みを整え、人事がキャリア支援や教育制度を設計することで、社員が企業に対して「貢献したい」と感じる土壌が整います。
両部門の連携によって、「人が生きる場」をつくることができるのです。
おわりに
戦略総務と戦略人事は、それぞれの専門性を持ちながらも、企業を内側から支え、強くするための“両輪”です。総務が「働く場」を、そして人事が「働く人」を支えることで、企業は変化の時代を乗り越えていく力を蓄えることができます。
自社にとっての“戦略総務”や“戦略人事”とはどのような存在か、今の役割と、あるべき姿との間にどんなギャップがあるのか。まずは、その問いを、自分たちの職場に向けてみてはいかがでしょうか。
追記
なお、本テーマについては、2013年の第1回コラムで「総務部門は“企業のOS”」と表現しました。10年を経て、環境が変化し、いまや総務・人事には“プラスα”の役割が期待される時代となっています。
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