ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第33回 自社分析のすゝめ(2)---「現場を知る」ということ
前回は「品質(Q)、コスト(C)、納期(D)」を例に、客先と自社との認識ギャップを知るための手段として自社分析の必要性について説明しました。
今回は自社分析への具体的な取り組みの一つとして、現場における正確な作業時間の取得について考えたいと思います。
前回述べたようにコストを正確に知ることは「価格競争力の強化」に不可欠です。
そして仕入れ方法を始めとする生産・販売コストの改善を考える上で、現場の作業時間を正確に知ることは大変重要となります。
コイルセンターにおける生産コストについて以下のような話をよく耳にします。
【A社】
利益=「入ったもの(売上)-出て行くもの(仕入+経費)」であり、最終的にいくら儲かったのかが重要。生産コストの把握に設備投資や労力をかけることは無駄である。
一方で以下のような要望を持つ会社もあります。
【B社】
委託加工が多いため、採算管理や今後の取引先との交渉の元資料として、取引先毎に加工伝票単位で詳細な作業時間を把握し、加工前の想定との比較を行いたい。
それぞれのコイルセンターの経営背景を考慮する必要がありますが、いわゆる「どんぶり勘定」からの脱出は時代の流れであり、出来るだけ正確な作業時間の把握が求められています。
しかし、正確な生産ラインの稼働時間および作業時間の採取・計測には困難が伴います。
多くのコイルセンターでは現場作業者は安全面にも配慮しながら機械操作等の各作業を行い、作業完了後に各作業にかかった時間を作業日報に記入します。
仮にスリッターにおいて通板終了後リコイラーのEND部巻き取りを行い、直後にアンコイラーで次加工の母材をセットしたとします。この場合、同じ時間に並行して行われた作業がどの加工指示書の作業に当たるのか判別できません。どうしても作業日報への記入時間は大まかな時間となりがちです。
この現状を変える新しい動きとして、ITを利用することで作業者の手を介することなく正確な作業時間の取得を目指す動きが出てきています
以下は自社内の「存在するのに気付づかれず埋もれている」データに目を向け、ある仕組みを導入し活用しているコイルセンターの事例です。
【データ取得事例】
スリッターラインにおいて、母材セットから巻き取り後のリコイラー搬出・巻き戻し(コイルバック)等、各作業の詳細な時間を秒単位で自動採取。前段取り・後段取りで前後の工程と重複した時間、1枚の加工伝票のトータルな実績時間とその詳細についても人の手を介することなく取得している。
[効果]
・精度の高い作業時間の把握が可能となり稼働率・時間当たりの加工量(T/H[トンパー])の全体感はもとより、取引先毎に実際の加工に要した作業時間を取得することができる。
・更に作業者の時間ロス(空白時間)の把握や、作業方法・設備レイアウト改善に向けた基礎データとしても活用可能。
このように既存の「手入力」という視点を転換し、自社内に埋もれているデータから作業時間を計測できれば、最終的な目的である「生産コストが適正に付加された価格」に大きく近づくのではないでしょうか。
前回は客先要望と自社の認識のギャップを知ることの大切さを説明しましたが、「出来るはずがない」という自社の内面にある固定概念を認識することもまた大切と言えます。
以上で、「己を知るということ」を終了とさせて頂きます。
また、三由浩司の「ものをつくるチカラ」は今回にて一旦終了とさせて頂きます。
第33回までの皆様のご愛読と暖かいご声援に心より御礼申し上げます。
次回より、「ものをつくるチカラ」は三山裕司が執筆致します。
次回は12月12日(金)の更新予定です。
次の記事を読む