電子帳簿保存法のタイムスタンプの概要と改正内容、利用のポイント

電子帳簿保存法の法改正により、電子取引など特定の条件下における電子データ保存が義務化されました。2022年1月の施行により、電子データは紙とは異なり簡単に修正および削除ができるため、対象のデータが原本であることを証明する必要があります。

そこで第三者の機関から発行されるタイムスタンプを用いて、電子データの正当性を証明する手段があります。電子帳簿保存法は国税関係帳簿書類を取り扱う全ての企業が対象のため、タイムスタンプの仕組みと役割、導入方法について知っておきましょう。

電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは

タイムスタンプは、改ざんや複製が簡単に行えてしまう電子データに対し、原本であることを証明するための仕組みです。電子帳簿保存法により電子保存する機会が増えるため、タイムスタンプの概要と仕組みを把握しておきましょう。

改ざんされていないことを証明する技術

タイムスタンプは、一定の時刻に電子データが存在していたことと、一定の時刻以降改ざんされていないことを証明する技術です。タイムスタンプを付与することで電子化された文書が原本であることを示せます。電子データは紙と違い、複製や編集が簡単に行えます。そのため対象の電子データが原本であることを保証するためにタイムスタンプが用いられます。

具体的には、タイムスタンプに記載されている情報とオリジナルの電子データから得られる情報を比較することで証明します。タイムスタンプの情報を調べると、その時刻に存在し、改ざんされていないことを確実に確認できます。

タイムスタンプ発行までの流れ

タイムスタンプは以下の流れで付与されます。

  1. 電子データで保存する紙の書類を用意する
  2. スキャンやスマートフォンなどでの撮影により電子データを作成する
  3. 電子データにタイムスタンプを付与するよう時刻認証業務認定事業者(TSA)へ依頼
  4. 第三者機関である時刻認証業務認定事業者がタイムスタンプを発行する

時刻認証業務認定事業者(TSA)とは、一般社団法人日本データ通信協会から承認を受けることでタイムスタンプの付与が許された企業を指します。時刻認証局とも呼ばれ、対象企業には時刻認証業務認定マークが与えられます。

タイムスタンプの仕組み

タイムスタンプの付与が原本の証明になる理由は、ハッシュ値にあります。ハッシュ値とは対象のデータに付くランダムな文字列のことで、この文字列により原本であることを証明します。全く同じハッシュ値のデータを作成することは非常に困難なため、改ざんされていない原本そのものであるという証明が可能です。

タイムスタンプを付与するために依頼人が、取引データにハッシュ値を付けて時刻認証業務認定事業者へ送付します。時刻認証業務認定事業者は、ハッシュ値に時刻情報を偽造できないように付けて依頼人へ返却します。

依頼人は、取引データの原本に付いたハッシュ値と、タイムスタンプのハッシュ値を比較し、改ざんされていないことが証明できます。

出典:「タイムビジネス認定センター」(一般社団法人日本データ通信協会)

タイムスタンプの導入に必要なこと

タイムスタンプの仕組みを利用するには幾つか準備が必要です。導入コストがかかりますが、電子帳簿保存法に則って電子データを保管するために必要な技術です。

インターネットが利用できる環境を整備する

インターネット上でタイムスタンプを付与してもらうため、安定したインターネット環境が必要です。インターネット環境が整備されていない場合、タイムスタンプに加えて電子帳簿保存法に対応したソフトやクラウド、経費精算システムが利用できないことがあります。

時刻認証業務認定事業者と契約する

データの信頼性を確保するため、時刻認証業務認定事業者と契約してタイムスタンプを取得できる環境を整えます。時刻認証業務認定事業者は、一般財団法人日本データ通信協会の認定事業者を指します。時刻認証業務認定事業者と直接契約を結ぶこともできますが、多くの場合は、大塚商会またはベンダーと契約し仲介に入ってもらい、タイムスタンプ機能が施されたシステムを使用するのが一般的です。

タイムスタンプを付与できるシステムを導入する

タイムスタンプを書類に付与できるシステムを導入します。また、付与できるだけでなく電子簿保存法に対応しているシステムやソフトを導入するのが望ましいでしょう。電子帳簿保存法に対応したシステムには、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)より認証を受けていることを証明するマークが記載されています。

大塚商会が提供するシステム「eValue」シリーズはJIIMAより認証を受けており、国税関係書類を保存するために満たすべき法的要件を全て満たしています。またそのほかにJIIMAより認証を受けているシステムとメーカーは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の公式サイトで確認できます。

導入するシステムを決めたら、導入コストがどれくらいかかるのかを事前に把握しておきましょう。

出典:「電子帳簿ソフト法的要件認証製品一覧」(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA))

電子帳簿保存法のタイムスタンプ要件の主な改正ポイント

2022年1月に行われた電子帳簿保存法の改正後、タイムスタンプにおいて要件緩和されました。具体的にはタイムスタンプの付与期間や有無についての緩和であり、電子データの管理に対する負担が軽減されます。具体的な内容を確認してみましょう。

タイムスタンプの付与期間の緩和

タイムスタンプの付与期間が最長約2カ月とおおむね7営業日になりました。従来は3営業日以内に付与する必要があったため、大幅な期間延長といえるでしょう。これまでタイムスタンプ関連に携わっていた担当者の負担減にもつながり、業務のためだけに出社する必要もなくリモートワークがはかどります。

また、タイムスタンプは必ず自社が付与しなければならないわけではなく、取引先の企業が付与しても問題ありません。

タイムスタンプの付与に替えられる要件

改ざんされていないとして、タイムスタンプは電子データの真実性を確保するために必要です。しかし保存した電子データに対し、正当な理由がない削除および訂正ができないよう事務処理規程を企業内で定め、真実性の確保に努めること でタイムスタンプの付与に替えられます。

タイムスタンプを付与する環境整備はお早めに

電子帳簿保存法とタイムスタンプについて解説しました。法令に則って電子データを保存するには、原則として対象のデータが原本であることを証明するためにタイムスタンプの付与が必要です。

タイムスタンプを付与するには、インターネット環境を整えたうえで、タイムスタンプの付与機能が付いたシステムの導入または時刻認証業務認定事業者との仲介役としてベンダーと契約を結ぶ方法があります。また、保存した電子データを修正または削除できない、できるとしても記録が残るシステムを導入すればタイムスタンプは不要です。どちらのシステムを導入するのが自社にとって使い勝手がいいのか判断しましょう。

今後も電子データ化への流れは急速に進むことが予想されるほか、経理業務が複雑になりやすい「インボイス制度」の本格化や経理業務の効率化が求められるケースも増えつつあります。そのため、導入費用がかかるとしても、タイムスタンプの付与を含めたクラウドサービスなどのIT環境の構築と活用・運用できる体制の整備は、企業経営において重要なポイントではないでしょうか。

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本記事の監修者

岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。

  • 保有資格

    ・税理士・CFP

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