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在庫管理を効率化する必要性とは? ずさんな在庫管理が招く経営リスク
この記事では、在庫管理の効率化が求められる背景から、現場で起こりがちな課題、具体的なポイントや活用すべきシステムなどを解説します。
在庫は、企業の資産であると同時に大きなコスト要因にもなり得る存在です。適切な在庫管理ができていないと、販売機会の損失や顧客からの信頼低下、さらには経営そのものを揺るがすリスクにもつながりかねません。現在、企業を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しており、市場競争の激化や物流の不安定化、コストの上昇など、在庫管理の重要性はますます高まっています。
本記事では、在庫管理の効率化が求められる背景から、現場で起こりがちな課題、放置してしまうことで生じる経営リスク、そして改善のための具体的なポイントや活用すべきシステムまで、分かりやすく解説していきます。
目次
1.在庫管理の効率化が求められる背景
かつては現場の感覚や経験則で行われることも多かった在庫管理。しかし現在では、企業を取り巻く環境が急速に変化し、従来のやり方では対応しきれない時代になっています。
企業間競争の激化に伴う市場環境の変化
近年、BtoB市場ではデジタル化やグローバル化が急速に進み、顧客ニーズが多様化しています。これにより、企業はこれまで以上に柔軟でスピーディーな対応を求められるようになりました。国内市場だけでなく、海外企業との競争も激しさを増す中で、同じ製品やサービスを提供していても、「どれだけ早く・正確に供給できるか」が競争優位性を左右する重要なポイントとなっています。
特にBtoB取引においては、納期の厳守が信頼関係の基盤となるため、納品の遅れや在庫切れによる対応の遅れは、顧客離れの要因になりかねません。必要なときに必要な量を供給できる体制を整えておかないと、より迅速に対応できる競合他社に顧客を奪われてしまうリスクも高まります。
このような環境下では、過不足のない適正在庫を維持し、需要の変動にも柔軟に対応できる仕組みが不可欠です。企業は、供給の安定性とスピードの両立を図るために、従来の感覚的・属人的な在庫管理から脱却し、効率的かつ戦略的な在庫管理手法へと転換していく必要があります。
サプライチェーンの不安定化
世界的な経済変動や地震・台風などの自然災害といった予測困難な要因により、サプライチェーンの安定性が大きく揺らいでいます。原材料や部品の調達を海外に依存している企業にとっては、物流の遅延や調達コストの高騰に加え、最悪の場合は供給が完全に止まってしまうリスクすら存在します。また、たとえ国内調達であっても、特定の企業や一つの供給ルートに依存している場合、災害や事故、需要の急変によって供給が不安定になるリスクは常に付きまといます。
こうした背景から、企業は一層のリスク分散を図る必要に迫られており、調達先の多様化だけでなく、在庫を戦略的に管理するための可視化や適正化といった、在庫管理の高度化にも積極的に取り組むことが求められています。
物流コスト、保管コストの増加
近年、燃料費の高騰や人手不足の深刻化などを背景に、物流コストが年々上昇しています。内閣府経済社会総合研究所の調査を見ても、SPPIのうち、「倉庫」や「こん包」、「3PL」(サードパーティーロジスティクス)といった、配送に至るまでの保管や出荷に関するサービス価格も上昇しており、ここ数年、物流費全般が上昇していることが分かっています。
輸送業界でもドライバー不足や働き方改革に伴う労働時間の制限により、運送業者による運賃の引き上げが相次いでおり、さらにEC市場の拡大などによって配送需要も増加しています。これらの要因が重なり、企業にとって輸送にかかるコストの負担はますます大きくなっています。加えて、グローバルなサプライチェーンにおいては、国際情勢の変化による貿易摩擦や関税の影響も物流コストの増加要因となっています。
サプライチェーンの不安定化により、安定供給を維持するために「念のため」の在庫を多めに抱えざるを得ない企業も少なくありません。こうした過剰在庫は、保管スペースの拡大や管理工数の増加を招き、結果として倉庫費用や在庫管理コストの上昇にもつながっています。
2.在庫管理における主な課題とは?
在庫管理は、事業運営においてコストや納期、顧客満足度に直結する重要な業務です。しかし、現場レベルでは依然としてアナログな手法に頼っているケースや、適正在庫を把握できないなどのケースも多く、さまざまな課題が慢性的に発生しています。
非効率的になりがちで人的ミスが起こりやすい
在庫管理において、いまだに手作業や紙ベースでのアナログな管理方法が根強く残っている企業もあります。こうした環境では、在庫の数量を手でカウントして帳票に記録し、それを後からシステムに入力するというプロセスになりますが、このような複数工程を人の手で行う場合、入力ミスや記録漏れ、カウントミスといった人的ミスが発生しやすくなり、在庫データの正確性が損なわれるリスクが高まります。
さらに作業が人に依存しているため、担当者によって作業品質にばらつきが出たり、属人化が進んだりすることで、業務の平準化が難しくなるという課題もあります。これにより、確認作業や修正作業に余分な時間がかかり、結果として作業全体の効率も低下します。
適切な在庫数が維持できず過不足が起こる
在庫管理においてよく見られる課題の一つが、「過剰在庫」や「在庫不足」といった、在庫数のバランスが取れない状態です。需要の変動を把握する仕組みがなく、過去の経験や勘に頼っていると、実際の需要とズレが生じやすく、結果として必要以上に在庫を抱えてしまったり、逆に品切れで機会損失を生んでしまったりする事態につながります。
また、販売・生産・物流など部門ごとに在庫管理の情報が分断されており、在庫状況を共有・把握できない体制も、過不足を引き起こす一因です。
在庫データが膨大で、迅速なデータ抽出が難しい
企業が扱うSKU(Stock Keeping Unit:在庫管理単位)が増えるにつれて、在庫情報の管理はどんどん複雑になります。特に多品種少量生産やカスタマイズ対応が求められる業態では、管理すべき品目数が膨大になり、正確な在庫状況を把握するのが難しくなります。
さらに複数の拠点や倉庫で在庫を分散管理している場合、それぞれの拠点で個別に在庫情報を管理していると、データがバラバラになり、一元的に在庫全体を把握することが困難になります。これにより、在庫の重複や欠品、過剰在庫といった非効率な状態を招く恐れがあります。
紙ベースや表計算ソフトでの管理では、運用の仕方によっては情報更新のタイミングにばらつきが出たり、集計や抽出作業に時間がかかったりするといった課題が生じることがあります。そのため、必要なときに必要な在庫情報を即座に取り出すことができず、意思決定のスピードや精度にも影響を与えてしまいます。
3.ずさんな在庫管理がビジネスに与える影響
在庫管理の非効率やミスは、単なる業務上の手間にとどまらず、企業全体の業績や信頼にも大きな悪影響を及ぼします。ずさんな在庫管理がどのようにして経営リスクへと発展するのか、具体的な影響と共に解説します。
販売可能在庫が不足し、販売機会を逃す
在庫管理が適切に行われていないと、需要に応じた商品を用意できず、販売可能な在庫が不足する事態が発生します。特に欠品が続くと、購入の意思がある顧客であっても他社の商品に乗り換えてしまい、売上機会を逃す結果につながってしまいます。
一度失った顧客を取り戻すには、キャンペーンや値引きといった追加の販促施策が必要になり、余計なコストがかかって利益率を圧迫します。最終的にはリピート率の減少や顧客離れ、ひいては市場シェアの縮小にもつながる可能性があります。
顧客満足度が低下し、企業イメージに傷がつく
在庫管理が適切に行われていないと、「納期回答が遅れる」「指定日に納品できない」「一括納品の予定が、直前に分納になってしまった」など、顧客対応に不備が生じやすくなります。こうした小さなトラブルの積み重ねが、顧客の不満や不信感を生み、企業に対する評価やブランドイメージの低下を招きます。
特にBtoB取引では、一度信頼を損ねると取引停止や他社への乗り換えといったリスクも高まります。既存顧客との関係が揺らげば、継続的な収益の確保が難しくなり、長期的には売上の減少や市場での競争力低下といった深刻な経営課題に発展する可能性もあるのです。
不良在庫を抱えることで倒産のリスクが高まる
在庫を過剰に抱えすぎると、保管にかかる倉庫コストや、売れ残りによる廃棄ロスの負担が増大します。特に売れる見込みの低い不良在庫が多くなると、商品を現金化できずに資金が滞留し、企業運営に悪影響を及ぼします。場合によっては、利益を生むはずの事業が不良在庫のコストにより圧迫され、経営全体の健全性を損なう恐れがあります。
さらに在庫状況を必要なときにすぐ把握できないままでは、仕入れやマーケティング戦略の見直しが遅れ、経営判断のタイミングを逃してしまうことにもつながります。こうした状態が続くと企業としての持続可能性が危ぶまれ、長期的な経営リスクへと発展していくのです。
4.在庫管理効率化のためのポイント
在庫管理の不備は販売機会の損失や顧客離れ、コストの増加、さらには経営の根幹を揺るがすリスクにまで発展しかねません。こうした事態を未然に防ぎ、安定した供給体制と持続可能なビジネス運営を実現するためには、在庫管理の効率化が欠かせません。
必要なときにいつでも確認できるよう在庫データを可視化する
在庫管理を効率化する第一歩は、在庫情報の「見える化」です。正確な在庫数や入出庫状況をいつでも必要なタイミングで把握できる仕組みが整っていれば、欠品や過剰在庫といったトラブルのリスクを大幅に軽減できます。これにより、季節要因や突発的な需要変動にも柔軟に対応しやすくなり、無駄のない仕入れや生産計画の策定が可能になります。
さらに、実店舗・倉庫・ECサイトなど、複数の販売チャネルの在庫情報を一元管理することで、「在庫があるのに追加発注してしまった」「在庫はあるのに、チャネル間で在庫情報が共有されず販売機会を逃した」といった機会損失を防ぐことができます。情報の分散や確認作業の手間も減るため、業務全体の効率化にもつながります。
業務プロセス全体を通じた連携強化
在庫管理は単なる倉庫内の作業にとどまらず、調達・生産・物流・販売・経理など、企業活動のあらゆるプロセスと密接に関わる業務です。そのため、どこか一つの部門だけで完結するものではなく、部門間での情報共有と連携が重要です。
在庫情報が共有されていないと、必要なタイミングでの在庫補充が遅れたり、逆に余分な在庫を抱えたりする原因になります。特に販売計画や仕入れ状況、出荷スケジュールなどがバラバラなままだと、欠品や納期遅延によって顧客満足度の低下を招きかねません。
そのため、在庫情報などの各種情報を基に業務プロセス全体の連携を強化し、各部門が常に同じ情報を基に判断・行動できる体制を整えることが、効率的かつ柔軟なオペレーションを実現する鍵となります。
5.在庫管理効率化を支援するシステムとは?
在庫の「見える化」や部門間の情報連携、正確かつ迅速なデータ管理を実現するためには、属人的な手作業や表計算ソフトによる運用では限界があります。そこで注目されているのが、在庫管理を支援する各種システムの導入です。
生産管理システム
生産管理システムは、製造業において生産計画・工程管理・在庫管理を一体で最適化するための基盤となるシステムです。原材料や部品の使用状況と在庫量を把握し、必要なタイミングで必要な量だけを確保することが可能になります。
これにより、過剰な資材の仕入れや生産工程の遅延による在庫不足といったリスクを軽減し、スムーズで無駄のない生産体制を実現します。さらに受注状況や市場ニーズの変化に応じて柔軟に生産計画を調整できるため、在庫回転率の向上やコスト削減にもつながります。
販売管理システム
販売管理システムは、受発注・売上・請求といった販売に関わる業務を一元的に管理できるシステムです。販売動向を把握できるため、需要の増減に応じた在庫補充や生産調整が可能になり、欠品や過剰在庫といったリスクを最小限に抑えられます。
また、蓄積された販売データを分析することで、売れ筋商品の傾向を把握し、在庫配置の最適化や回転率の向上にもつなげられます。結果として、無駄のない在庫運用と共に、売上の最大化にも寄与する重要な仕組みです。
倉庫管理システム
倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)は、倉庫や店舗の在庫状況を可視化し、入出庫や棚卸といった在庫業務を自動化・効率化するためのシステムです。手作業での在庫管理にありがちな記録ミスやカウント漏れを防ぎ、常に正確な在庫数を維持できます。
さらにクラウド型のシステムを活用すれば、複数拠点にまたがる在庫を一括で管理することができ、事業規模の拡大や運用形態の変化にも柔軟に対応可能です。
RFID
RFID(無線自動識別)は、ICタグを使ってモノの情報を読み取る自動認識技術です。バーコードのように1点ずつ読み取る必要がなく、複数のモノを同時にスキャンできるため、棚卸や在庫管理の効率が大幅に向上します。
倉庫内の在庫の可視化が可能になり、販売機会の損失や出荷ミスなどを防止する効果があります。これにより、現場の作業負担を減らせるため、全体の業務効率化につながります。
POSシステム
POS(販売時点情報管理)システムは、店舗で商品が売れたタイミングで「何が・幾つ・いくらで売れたか」といった販売情報を即時に記録・集計できるシステムです。
バーコード読み取りによる会計処理で、レジ対応のスピードが向上し、待ち時間の短縮や人的ミスの削減に貢献します。複数店舗における売上・在庫をデータ化できるため、店舗ごとの売れ筋商品を把握でき、欠品・過剰在庫のリスクを軽減します。
まとめ
本記事では、在庫管理の効率化が求められている背景や、在庫管理に慢性的に潜んでいる課題、場当たり的な在庫管理で起こりうるリスクなどについて解説しました。
在庫管理は、企業の業務効率や競争力に影響を及ぼし得る重要な要素であり、課題やリスクを的確に把握し、適切な対策を講じることが求められます。生産管理システム、販売管理システム、在庫管理システム(WMS)など、業種・業態にあったシステムを活用することで、在庫の過不足を防ぎ、業務効率の向上やコスト削減を実現できます。
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