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タイムカードの打刻ルールを見直そう! 不正・違反を防ぐ例
タイムカードの打刻ルールを明確化して労働者に周知徹底し、適切に運用することは、法令順守の経営を行うための重要な取り組みにあたります。職場における打刻ルールが曖昧な状態では不正や違反が横行し、適切な勤怠管理を行えません。
当記事では、勤怠管理の方法を見直したい担当者に向けて、タイムカードの打刻ルールを検討する際のポイントをご紹介します。適切な勤怠管理のため、出勤・退勤時の打刻ルールの考え方や出張・リモートワーク中に労働時間を把握する方法も解説します。
タイムカードの「打刻ルール」を定める必要性
改正された労働安全衛生法が2019年4月に施行され、客観的な資料による労働時間の把握が法的義務化されました。
参照元:客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました(出雲労働基準監督署・PDF)
労働時間を正確に把握する手段の一つとして、タイムカードの適切な運用があります。その実現のためには法律に沿った形で打刻ルールを設定し、就業規則などに明文化し従業員へ周知することが必要です。
不正打刻や思わぬ法律違反のリスクも
打刻ルールが曖昧な企業では不正打刻や打刻漏れが頻繁に発生しかねず、修正や確認業務に多くの時間を要します。打刻ルールが曖昧で労働時間を正確に把握できなければ、思わぬ法律違反を犯すリスクもあります。法令順守の経営を行うためには、極力早いタイミングで打刻ルールの策定や実情に合わせた見直しに取り組みましょう。
タイムカード導入時に明文化すべき五つの打刻ルール
タイムカードを適切に運用するためには、打刻のタイミング・方法などを就業規則にて明文化し、従業員にしっかり周知しておくことが重要です。以下では具体例を交えて、法律違反を回避するために特に重要なタイムカードの打刻ルールやポイントを解説します。
1. 打刻のタイミング
労働時間を正確に把握するためには、いつタイムカードの打刻を行うかを具体的かつ明確に定めましょう。
出勤時
出勤時の打刻は、出勤と同時に行う必要があります。出勤後は原則として労働時間に該当するためです。法律上、制服へ着替える時間や朝礼に参加する時間も労働時間に含まれますから、打刻後に行うルールを徹底しましょう。
退勤時
退勤時には、業務終了と同時に打刻します。時間外労働時間を適正に管理するためには、退勤の打刻を行った後、急に残業の必要が生じた場合の対処法も明確化しましょう。「打刻後の残業は原則禁止」「残業をした場合は必ず報告書を提出する」といった内容を就業規則などに明文化し順守してもらうことで、時間外労働時間の正確な把握が可能です。
休憩時
法律上、休憩時にタイムカードを打刻させる義務はありません。ただし、企業には労働者に適切な休憩時間を確保する義務があり、あえてタイムカードを打刻させる・備考欄に記入させるなどのルールを決めて運用すると安心です。
また休憩時間は、労働者の自由に利用させなければなりません。電話番や来客対応を任せている時間は、休憩時間とみなされないことにも注意しましょう。
2. オフィスへ出勤しない日の打刻方法
労働時間を適切に把握するために、出張やテレワークで物理的にタイムカードを打刻できない場合のルールも明確化しましょう。以下では、さまざまな状況における労働時間の把握方法を紹介します。
直行・直帰の場合
オフィス以外の労働場所へ直行・直帰する場合に取り得るのが、仕事用パソコンのログオン・ログアウト時間をタイムカードの打刻と考える方法です。仕事用パソコンを持ち歩かない職種の場合は、メール・チャットによる始業・就業報告をもって打刻とする方法もあります。
テレワークの場合
テレワークする場合には、社内システムへのログイン・ログアウト時間をタイムカードの打刻とする方法を採ることが現実的です。もしくは直行・直帰する場合と同様にメール・チャットによる報告を打刻とみなすルールを採用しましょう。
3. 打刻ミスや打刻漏れの修正方法
打刻ルールを見直す際には、タイムカードの打刻ミス・打刻漏れがあった場合の修正方法も明確化しましょう。これは労働者の不正を防止するためにも重要です。打刻ミスや打刻漏れがあった場合には、直属管理者の承認を得たうえでのタイムカードへの手書きという対処法が検討されます。直属管理者には、承認を出す前にパソコンのログや周囲の労働者へのヒアリングで事実確認することなどを義務付けしましょう。
4. 本人以外の打刻の禁止
同僚などによる代理打刻の黙認は、タイムカードの適正な運用の大きな妨げとなります。不正を防止するためにも本人以外による打刻は固く禁止し、その旨を周知徹底してください。
5. 不正打刻などへのペナルティー
タイムカードの打刻ルールを見直ししても、労働者の意識が変わらなければ適正に運用できません。労働者の意識を変えるためには、代理打刻・改ざんが発覚した場合のペナルティーを明確化しましょう。
例えば、悪質な不正に対しては、減給・降格・出勤停止などの懲戒処分を下す方法が検討されます。不正の悪質度合いは、以下の点を考慮して判断することが現実的です。
- 不正の回数
- 企業や他の労働者への影響の大きさ
- 謝罪や反省の有無
ただし、就業規則に罰金額や損害賠償額を明記することは、悪質な不正に対するものであっても法律違反にあたる恐れがあります。設定したペナルティーの内容に不安を感じる場合は、弁護士や社会保険労務士へ相談すると安心です。
このケースはどう処理する? 違反を防ぐ打刻ルールの考え方
打刻ルールを見直したところで、想定外の事象が発生して処理に迷うケースもあります。タイムカードの運用中に発生しやすい悩みと、法律や一般的な解釈に基づく対処の具体例は、以下のとおりです。
“定時ぴったりの打刻”は原則問題ない
始業・就業時間ぴったりにタイムカードを打刻しても一般的には、遅刻や早退とみなされません。ただし、労働者が担当する業務内容や職場環境、就業規則などによっては遅刻や早退とみなすことが望ましいケースもあります。
例えば、タイムカードの打刻機がある場所と実際の労働場所との間に距離があるケースです。定時ぴったりの打刻を遅刻や早退とみなす場合には、労働者とのトラブルを回避するため、企業としての方針を明文化しておきましょう。
着替えやラジオ体操の時間は“義務かどうか”で判断
「着替えやラジオ体操の前にタイムカードを打刻するか、打刻後に行うか」は、「その行為を労働時間に含めるか」によって判断しましょう。制服の着用を義務付けている企業では、着替えの時間も労働時間とみなすことから、タイムカードの打刻を先に行う必要があります。
また、ラジオ体操が任意参加の場合は労働時間から除外でき、打刻を後に行うことが可能です。ただし、不参加が人事評価に影響する場合や、参加しなければならない雰囲気がある場合は、任意参加といえません。このようなときには事前の打刻を要するので注意してください。
“打刻時間と労働時間のずれ”は理由を聞き取る
タイムカードのみで労働時間を管理している場合には打刻時間を労働時間とみなし、給料を支払うことが原則です。そこで、実際の労働時間と打刻時間に15分以上の差がある場合は労働者にヒアリングし、理由を特定してください。
時間差の発生が談笑や喫煙といった労働以外の行為による場合、事後のトラブルを回避するため、タイムカードへその旨を記載させます。記載した理由が証拠となるため、給料計算する際の労働時間から差分を除外する処理を行うことが可能です。
タイムカードによる勤怠管理を効率化するなら、システムの導入も検討を
タイムカードを適切に運用するためには打刻ルールを具体的に設定し、就業規則などに明文化する必要があります。不正打刻を防止するためには、違反者にペナルティーを科すことも手です。
紙のタイムカードによるアナログ式の勤怠管理には、集計作業や修正対応に時間が掛かるという難点もあります。勤怠管理の効率化に向けて、デジタル化への対応も考えましょう。大塚商会では勤怠管理業務の改善に役立つシステムを複数扱っていますので、ぜひお気軽に相談ください。
この記事の監修者
監修者:山根 丈宗 氏(特定社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
複数の社会保険労務士法人にて職務に従事。社労士業務歴は約10年にわたる。
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