第34回 データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)とトラストサービス

Society 5.0を実現するDFFTコンセプト、具現化するには、トラストサービス(データの存在証明・非改ざん性の確認を可能とするタイムスタンプや、企業や組織を対象とする認証の仕組みなど)の整備が求められています。

データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)とトラストサービス

今年は、トラスト元年ですね。
2019年1月23日に行われた「ダボス会議」で安倍晋三首相は、
「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」、そして
「新しい経済活動には、DFFT=Data Free Flow with Trustが最重要課題である。」と提言しました。
単なる、データ流通ではなく、トラストのある自由な流通です。

トラスト=信頼
筆者は、信用して、頼ること、これが信頼であり、トラストだと思っています。
これまで「過去」の実績やお付き合いの中で、ああこの相手なら信用するに値するから、
これこれをお願いしようとか、この情報を活用しようといった「将来」を頼るのだと。
社会はそんなトラストのうえで成り立っているのではないでしょうか。

これまでのトラスト構築の進化

狩猟社会から農耕社会、工業社会を経て情報社会へと、これまで右肩上がりの進化を支えていたのは、人的労働力でした。そんな中で、トラストを培うために社会はどのように発展してきたのでしょう。

時間の改善:早く相手に会って説明しなくちゃ
        走れメロスから馬車、蒸気機関、石油を燃料とする移動体の発明
空間の改善:急いで相手に情報・モノを届けなくちゃ
        のろしから無線通信、郵便、宅配
重量の改善:現物の価値を紙という軽くて便利な代替物に刷り込むことで、より早く容易に相手に意思を届けることができるぞ
        貨幣から兌換券へ、証書、契約書による原本化
そしてリスク回避策として、情報の記録化、記録への署名・押印という慣習、封印、保険、といった仕組みが長年にわたって発達してきました。
取引をベースに文化が発達し、その中で、多くの発明がなされてきたのですね。
そして、これまでの社会でトラストは、実物ありき、すなわち面前・書面でのやりとりで、必ず人が判断することで基盤が構築されてきました。

Society 5.0社会でのトラスト

モノ自体が情報を吐き出し、情報が情報を生み出し瞬時に拡散・流通されるこれからの社会は、
少子高齢化も相まって業務の効率向上が求められ、その進化は、コンピューター力に支えられることになります。

膨大なデータが流通するデジタル社会では、判断をするための何らかのデータが、その正確性があいまいな状況下で、時空間を超えて簡単に入手できてしまいます。
フィルターのかからない情報が蔓延(まんえん)した、見ず知らずの相手との取引が行われる社会です。
トラストを培う手段が、これまでとは全く異なる基盤に依存することは避けられませんね。

これまでとは全く異なる基盤、それは、デジタルデータそのものの信頼性を確認できる基盤のことですね。
デジタルデータは、痕跡もなく改ざん、捏造(ねつぞう)が可能で、何ら対策をしなければ、
その情報を「私は知りません、そんなこと言ってません」と否認されてしまうという大変なリスクがあるのです。
これからの社会は、いかに正確な情報を入手できるかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。
これが、Data Free Flow with Trustのコンセプトだと思います。

このデジタルデータ固有のリスク回避策、すなわちDFFTを実現するのは、

  • 正確な相手認証
  • 誰もが納得する情報の完全性

を確認できる基盤の構築が不可欠です。

トラストサービス

トラストサービスは、内閣IT総合戦略本部の官民データ活用推進戦略会議においてまとめられた「デジタル時代の新たな IT 政策大綱」(令和元年6月7日)では、「安心・安全なデータ流通を支える基盤となるトラストサービス(データの存在証明・非改ざん性の確認を可能とするタイムスタンプや、企業や組織を対象とする認証の仕組みなど)」と記載されています。そして、総務省のトラストサービス検討WGにおいて、Society 5.0の基盤としてトラストサービスが不可欠であるとし、課題を整理し、その在り方について検討が進められています。一つの課題として、ユーザーはトラストサービスを意識していないということがあると思います。ユーザーは、電子申請、電子取引、電子契約、記録管理、ワークフローや記録保管といったアプリケーションサービスにおいて、トラストサービスを間接的に利用するため、その価値をあまり意識していないと筆者は思います。ユーザーが期待する安心・安全を実現するサービスの要件は、

  • 期待どおりに動くこと
  • 自ら検証することなく信じて使うことができること
  • どこでも誰でも利用できること

であり、これらは、アプリケーションサービスを契約した時点で、サービス提供者がその責務として実施するものが当たり前だと思っているからです。

アプリケーションサービスを利用するユーザーにとっての本当の脅威は

  • トラストサービスを利用していない場合……ユーザーが後々困る
  • トラストサービスが曖昧なサービスの場合……結局ユーザーが後々困るかもしれない

にもかかわらず、意識が薄いのは致し方ないことかもしれません。

トラストサービスを利用することがリスク対策になるのですが、何をどのように選択すればよいのかがあいまいですね。
デジタル環境は日々進化しますし、その進化に対応したものでなくては安心して使えないですよね。
なので、トラストサービスは一定の技術・運用などの基準を設けて、クリアしているサービスであることが必要です。

EUでは、Digital Single Marketを推進するに当たり、トラストサービスが整備されeIDAS(electoronic Identification and Authentication)規則として法制化されました。
eIDASは法による規制ではなく、一定レベルの基準が示されており、技術基準や適合性についてPDCAが回る仕組みが整備されています。
eIDASが整備されたときの検討の視点は以下の4点です。

  • 法律の整備
  • 技術的な基準とその評価
  • トラストサービス提供事業者に対する評価・検証体制の確保
  • トラストアンカーの開示の在り方(トラストの見える化)

DFFTのコンセプトでSociety5.0の実現を目指す我が国も、このような視点で、トラストサービスを検討しなくてはいけませんね。
総務省のトラストサービス検討WGでは、しっかりと議論しています。
6月28日に、これまでの議論を取りまとめ、中間取りまとめ(案)を整理し、パブリックコメントを募集しています。

トラストサービス検討ワーキンググループ 中間取りまとめ(案)に対する意見募集(総務省Webサイト)

データ流通は「Global」ですが、国民の安心・安全、基盤整備は「National」です。
国家としてしっかりとトラストを培うことができる基準を、世界に発信できることが期待されます。

平成から令和へ我が国の動き

将来、「令和元年はトラスト元年だったね」と回想するときのために、
平成31年1月から令和元年6月までの半年の主な出来事と概略(筆者による整理)を記録しておきます。

1月23日 「ダボス会議」安倍首相DFFTを提言

世界経済フォーラム年次総会 安倍総理スピーチ(内閣官房内閣広報室Webサイト)

1月31日 総務省にてトラストサービス検討WG開始

Society5.0の基盤として、誰/何からのデータであるかを確認する仕組みや、データの完全性を確保する仕組みとしてのトラストサービスが不可欠であると考えられる。
我が国におけるトラストサービスに関する課題を整理し、その在り方について検討を行う。

プラットフォームサービスに関する研究会(総務省Webサイト)

5月14日 「令和」時代・経済成長戦略 自民党政務調査会/経済成長戦略本部

DFFTの文脈で日本発の新たなデータ流通促進モデルの振興として電子データの安全な長期保存を可能とするタイムスタンプをはじめ、改ざんや送信元のなりすまし等を防止するトラストサービスの制度整備や開発実証について、国際的相互運用性の観点も踏まえて推進していく。

「令和」時代・経済成長戦略(自民党Webサイト)

6月7日 デジタル時代の新たなIT政策大綱 内閣高度成長情報通信ネットワーク社会推進戦略本部官民データ活用推進戦略本部

デジタル手続法により官民の手続きについてデジタル化を徹底していく中で、民間における文書保存等についても一層のデジタル化が期待されている。
安心・安全なデータ流通を支える基盤となるトラストサービスの活用のための制度の在り方を含め、関係省庁間で連携し、法令に基づき民間企業等が行う文書保存等の一層のデジタル化に向けた取り組みについて検討を行い、令和元年度内に結論を得る。

6月9日 G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合閣僚声明

・We share the view that the digital society must be built on trust among all stakeholders including governments, civil society, international organizations, academics and businesses through sharing common values and principles including equality, justice, transparency and accountability taking into account the global economy and interoperability.
・In order to build trust and facilitate the free flow of data, it is necessary that legal frameworks both domestic and international should be respected. Such data free flow with trust will harness the opportunities of the digital economy.
We will cooperate to encourage the interoperability of different frameworks, and we affirm the role of data for development.

6月14日 世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画の改定 閣議決定

・Society 5.0の実現に向けては、ヒト・組織・ネットワークにつながるモノの正当性の確認やデータの完全性の確認を行うための仕組みであるトラストサービスが必要となる。
・電子データの安全な長期保存を可能とするタイムスタンプをはじめ、インターネット上における人・組織・データ等の正当性を確認し、改ざんや送信元のなりすまし等を防止するトラストサービスについても、EU等の動向も踏まえつつ制度の在り方について検討を進める。

6月29日 G20大阪サミット首脳宣言

データや情報等の越境流通は、生産性の向上、イノベーションの増大をもたらす一方で、プライバシー、データ保護、知的財産権およびセキュリティに関する課題を提起。
これらに対処することにより、データの自由な流通を促進し、消費者およびビジネスの信頼を強化。
このようなDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)は、デジタル経済の機会を活かすもの。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 DXソリューション本部 担当部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)入社
2000年 タイムビジネス事業(クロノトラスト)立ち上げ
2006年 タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
2013年 セイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍
2018年 トラストサービス推進フォーラム(TSF)企画運営部会長
2019年 令和元年「電波の日・情報通信月間」関東情報通信協力会長表彰
     総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ」構成員
2020年 総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会」構成員
2021年 内閣官房「トラストに関するワーキングチーム」構成員
2022年 デジタル庁「トラストを確保したDX推進SWG」オブザーバー
     (一社)デジタルトラスト協議会(JDTF)推進部会長
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime)、PKI、情報セキュリティ、トラストサービス
セイコーソリューションズ株式会社

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