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第35回 令和元年度電帳法スキャナ保存制度の改正
スキャナ保存制度がさらなる利用促進を目的に、現場の実態に合わせて3年ぶりに改正されました。
令和元年度電帳法スキャナ保存制度の改正
電子帳簿保存法(以下、電帳法)スキャナ保存制度は、平成27年度、平成28年度と、その利用促進のための措置として、2年連続で施行規則の改正がされました。
しかしながら、平成29年度のスキャナ保存承認件数が、1,846件(累計承認件数:200,726件)と、依然として利用件数の伸びしろが大きいことから、さらなる利用促進に向けた措置が平成31年度(令和元年度)に講じられました。
平成31年法律第6号で電子帳簿保存法が、平成31年財務省令第21号で電子帳簿保存法施行規則が改正されました。
そして、これらの改正に伴う通達とQ&A(一問一答)の変更は、令和元年7月1日付で発出されました。
法・規則で何が改正されたか?
1.新たに業務を開始した個人事業主の電子帳簿保存等の承認申請書の提出期限の規定
これまで設定されていなかった、新たに業務を開始した「個人」の承認申請期限が特例として規定されました。
所得税における青色申告承認期限の特例に合わせて、業務の開始日以降2月を経過する日までに承認申請を提出できることとなりました。(法第6条)
原則 | 新規設立時の特例 | |
---|---|---|
法人 | 保存等開始日の3月前 | 設立以後3月以内 |
個人 | 【改正前】なし 【改正後】業務開始日以降2月以内 |
法人は設立の日が起点ですが、個人事業主の場合は業務の開始日が起点となります。
このため、規則第5条4項に、設立の日に加えて業務開始の日が記載されました。
2.重要書類の過去分1回限りのスキャナ保存容認
これまで、国税関係書類のうち重要書類の過去分はスキャナ保存ができませんでした。
本改正で、1回限り、対象書類ごとに、スキャナ保存が容認されました。
1回限りとされたのは、承認申請の取りやめとこの適用届を繰り返すことで、本来の「受領後、速やかに」入力することを免れる行為を防止するためです。
それでも大量に紙文書があり、廃棄できなかった事業者にとっては、朗報ですね。
規則第3条に7項が追加され、「過去分重要書類」が定義され要件が記載されています。
【要件1】
「適用届出書」を所轄税務署長等宛に提出すること。
「適用届出書」に記載する事項は、
- 氏名 or 名称
- 住所
- 法人番号(有している場合)
- 基準日(スキャナ保存を施行日として承認を受けた日)
- その他参考となるべき事項
【要件2】
規則第3条5項 | 重要書類 | 過去分重要書類 | |
---|---|---|---|
第1号:入力方法 | 速やかor業務サイクル後速やかにシステムへ入力 | 過去分OK | |
第2号:システム要件 | ロ:タイムスタンプ | 受領者が読み取る場合は自署して特に速やかにタイムスタンプ付与 | 受領者による規定はなし |
ハ:スキャナ情報 | 受領者が読み取る場合は、A4以下の場合、大きさ情報の保存は不要 | 大きさ情報の保存は必須 | |
第4号:適正事務処理要件 | イ:相互けん制 | 必要 | 不要 |
ロ:定期的なチェック | 必要 | 一度でOK | |
ハ:再発防止 | 必要 | 不要 |
3.日本工業規格 → 日本産業規格への名称変更
これは、JIS法改正に伴う処置です。
日本の産業発展には、製造業の生産性向上のための標準化が欠かせないという背景から、工業標準化法が1949年に制定されたのに伴い日本工業規格(JIS)が運用され、これまで大いに貢献してきました。
しかし、世の中の産業構造が変革し、国内総生産の約70%がサービス業になっている今、標準化が必要なのは、製造業のみではなかろうということで、内容が見直されました。
新たに鉱工業品に加えてデータやサービスの規格を盛り込み、「工業標準化法」は、「産業標準化法」に、「日本工業規格(JIS)」は、「日本産業規格(JIS)」に名称が変更されました。(2019年7月1日施行)
変更の目的は、
- データ、サービス等への標準化の対象拡大
- JISの制定等の迅速化
- JISマークによる企業間取引の信頼性確保のための罰則強化
- 官民の国際標準化活動の促進
です。
電子帳簿保存法施行規則の改訂は単に名称変更だけですが、このJIS法改正は、Society5.0を実現するうえで、データやサービスの適合性を一定基準で規定する仕組みを回す制度改訂であり、大きな変革ですね。
グローバルでの環境の変革が激しいデジタル時代をけん引するための仕組みとしてしっかりと運用されることを期待したいですね。
4.行政手続きオンライン化法の改正によるオンライン規定の適用除外
デジタル手続き法(令和元年5月公布)によって、行政手続きオンライン化法は、デジタル行政推進法(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)に名称変更され、制定の歴史が異なる、行政と民間のオンライン規定について、個別法で統一することが規定されました(デジタル行政推進法第10条2項)。
これに伴い、電子帳簿保存法の第9条の2(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の適用除外)が削除され、行政においても、国税関係帳簿および国税関係書類の保存については、電子帳簿保存法の要件が適用されることとなりました。
さらに運用上の見直しが三つ
5.入力までの期間制限の緩和
規則での記載 | これまで | 2019年7月1日以降 | 通達 |
---|---|---|---|
速やか | 1週間以内 | おおむね7営業日以内 | 4-20 速やかに行うことの意義 |
業務処理サイクル | 1カ月以内 | 最長2カ月 | 4-21 業務の処理に係る通常の期間の意義 |
特に速やか | 3日以内 | おおむね3営業日以内 | 4-23 特に速やかに行うことの意義 |
6.定期的な検査に関する解釈の見直し
スキャナ保存制度では、不正処理防止の観点から、スキャナ入力をしたら即紙廃棄というわけにはいかず、適正事務処理要件にて、定期的な検査が求められています。その頻度がこの改正で解釈の見直しをされ、一問一答問48にも記載されました。
- これまで:全ての事業所を対象に最低限1年に1回以上
- 2019年7月1日以降:全事業所等の検査をおおむね5年以内に行うこと
問48 定期的な検査とは、具体的にどの程度定期的に検査を行えばよいのでしょうか。
回答 基本的に1年に1回以上の検査を行うこと~(中略)~としていますが、~(中略)~おおむね5年のうちにその他すべての事業所等の検査を行っている場合は、要件を充足するものとして取り扱います。
7.検索機能の要件
税務調査時の効率化のため、入力データの検索において、請求書や領収書といった対象書類の種類別でも検索できることが求められています。
今回の改正で、書類別に加えて、勘定科目別に検索できることも容認されました。
これは、実態として、対象書類ごとに整理保管されているばかりではなく、書類以外の仕分けで保管整理されていることがあり、書類別で検索をすることが困難な場合があることから、実情に合わせた改正といえますね。
通達4-16(範囲を指定して条件を設定することの意義)の解説より
(前略)~他方で、国税関係書類については、書類の種類以外の区分をもとに整理・保管している実務慣行もあることから、一律に書類の種類ごとに範囲を指定するよう求めることは非合理的と考えられる。そこで、こうしたケースを念頭に、規則第3条第2項及び第5項第7号において準用する場合(スキャナ保存)については、勘定科目別に検索できるときについても要件を充足することを明らかにしたものである。~(後略)
まとめ
今回の改正そのものは、スキャナ保存制度の利用促進に大きなインパクトがあるとは思えませんが、明らかに世の中の実情を勘案した対応になっています。
平成27年、平成28年での改正を経て、スキャナ保存制度がじわじわとではありますが浸透してきたことに伴い、実務上の課題が浮かび上がってきたことの現れと思います。
国税関係書類の保管方法は、個々の事業者や組織において、積年にわたって作り上げられてきた運用の慣習によるものなので、十人十色、千差万別と実にバラエティに富んでいます。
これまでの紙媒体を介して運用されてきたバラエティあふれる慣習に対し、デジタルを利用して業務効率化を図る流れが明らかに推進されてきていることを実感しています。
スキャナ保存制度の改訂や保存承認件数の推移は、我が国のデジタル化のバロメーターとして注視していきたいですね。