第36回 インボイス制度と電子インボイス

2019年10月から消費税率が改定され、軽減税率が開始されます。これら複数の税率が導入されるため、消費税の仕入税額控除の方式が現在の請求書等保存方式から、しばらくの猶予期間(区分記載請求書等保存方式)を経て、2023年10月より適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度に移行します。

インボイスとインボイス制度

「インボイス」と聞いて、ピンと来る人はモノの輸出入に関係した人ですね。

筆者は、遠い昔、研究用機材をアメリカに持ち込んだときに“Invoice”なるものを関係部署から指示され記載した覚えがあります。しかし記載に不備があったため、初の海外出張にもかかわらず、必要な機材は空港で没収、肝心の会議に間に合わなかったという苦い思い出があります。

インボイスとは、モノの明細、数量および価格を記載した、関税等の計算のための基礎情報として発行者が用意する証明書です。

インボイス制度とは、当時はなかった消費税を、不公正感なく確実に徴収することを目的に、発行者がその内容を証明する情報をインボイスとして用意することを決めた制度です。

消費税の仕入税額控除

消費税という国税が導入される前までは、商品やサービスの売り上げを課税対象とする概念そのものがありませんでした。そのため1989年の導入時に、市場の混乱を避けることを目的に、中小規模の事業者に対する特例措置として事業者免税点制度と簡易課税制度が設けられました。

売り上げを対象に消費税が課税されるので、販売対象が既に仕入れ先において消費税が支払われた場合に二重に支払うことを避けるため、控除されることを仕入税額控除といいます。

しかし、仕入れ額を明確に算出するのは大変な業務になるため、課税期間の売り上げが5億円以下の場合は、全額控除でき、売上高にみなし仕入れ率を乗じる簡易課税といった特例措置が設けられたのです。

これらの特例措置によって、消費税全額が合法的に事業者の利益になり、少額しか納付せずに済むことが起こっていて、いわゆる「益税」という、グレーな「益」を生んでいたのです。

この不公正な益税の削減化を目指しこれまで消費税の改正が施行されてきましたが、今般、より複雑な軽減税率を導入するに当たり、これらを抜本的に解決するため情報の発信元である発行者が、その明細を証明するインボイスでの管理を実現することになったのです。

何が変わる?

インボイス制度は、複雑になった消費税について適正な消費税の仕入税額控除を行うことが目的です。

新たに、適正請求書発行事業者の登録制度が設けられ、ユニークな事業者番号を設定し、その事業者番号が付与された適格請求書(インボイス)を流通させることで、消費税の適正な管理が実施されます。

適格請求書という証跡によって、仕入れ先が、既に消費税を支払っていたことが認められ、当該分の消費税を支払う必要がなくなるのです。

ポイントは、

  • 消費税に関する制度であり、所得税法や法人税法とは無関係であること
  • 新たに適格請求書発行事業者登録制度が設けられ、事業者番号が付与され公開されること
  • 仕入税額控除のためには適格請求書(インボイス)の保存が要件になること
  • 電磁的記録も適格請求書として追加され、これまで「やむを得ない理由」として保存不要であったが、保存義務が生じること

適格請求書発行事業者登録制度は、国内のあらゆる事業者に影響がありますので、時間をかけて導入されることとなります。2021年10月1日から登録申請を開始し、2023年10月1日から施行されます。

軽減税率と、インボイス制度の導入にむけて、以下のように、請求書への記載内容が変更になります。

表 消費税仕入税額控除方式の変更

期間方式請求書への記載内容留意点
現行請求書等保存方式(1)発行者の氏名または名称
(2)取引年月日
(3)取引内容
(4)価格(税込み)
(5)受領者の氏名または名称
請求書等の交付を受けなかったことについて「やむを得ない理由」がある場合は、帳簿への記載で請求書等の保存がなくても、仕入税額控除が認められていました。
電磁的記録の場合この「やむを得ない理由」として認められています。
2019年10月1日~
2023年9月30日
区分記載請求書等保存方式上記に加え
(3)取引内容に軽減税率の対象品目である旨
(4)価格に税率ごとに区分して合計した対価額および適用税率(税込み)
 
2023年10月1日以降適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
上記に加え
(1)適格請求書発行事業者の登録番号
(6)税率ごとに消費税額等
電磁的記録が請求書等に追加されます。(新消費税法30条9項)
電磁的記録の場合は「やむを得ない理由」にはならなくなり、適格請求書としてのエビデンスがない場合は、仕入税額控除は受けられません。

なお、取り扱いの大変な適格請求書ですから、特例として、新消費税法第70条の9項にて規定され適格請求書を交付することが困難な取引として、以下の取引は交付義務が免除されます。

  • 3万円未満の、交通機関運送費
  • 3万円未満の、自動販売機により提供されるもの
  • 郵便切手を対価とする郵便サービス
  • 出荷者が卸売市場にて行う生鮮食料品の譲渡
  • 生産者が協同組合に委託して行う農林水産物の譲渡

適格請求書発行事業者登録制度

適格請求書発行事業者とは、消費税を支払っている事業者であることを国税庁が認める登録制度です。

免税措置は、これまでの消費税法と変更はなく、基準期間(事業年度の前々年度)の課税売り上げが1,000万円未満であれば、納税義務が免除されます(消費税法第9条)。しかし、いったん適格請求書発行事業者として登録されると、免税事業者に該当することとなっても取りやめ申請をしない限り課税事業者になります。(新消費税法9条への追記)

基準期間と実際の納税期間に2年のズレがあるので注意が必要です。

適格請求書発行事業者は、所轄税務署長宛に登録申請することで登録され、国税庁がユニークな事業者番号を付番し公表することになります。

ちなみに、ユニークな事業者番号は、法人番号の頭にT(適格のT、TrustのT)を付与することになるようです。

なお、適格請求書発行事業者は相手側(課税事業者)の求めに応じて適格請求書の交付をしなくてはなりません。(新消費税法57条の4項)

さて、適格請求書発行事業者になることは、どのようなメリットがあるのでしょうか?

課税事業者は、適格請求書のみが消費税の仕入税額控除対象となりますので適格請求書を発行しない事業者からの仕入れは、取りやめることになるでしょう。

メリットというよりも、取引先から適格請求書の発行が求められることになり、免税措置よりも、適格請求書発行事業者登録をしなくては、ビジネスができなくなる可能性があるということです。

電子インボイス

現行の消費税法では、仕入税額控除の要件として「請求書等」の保存が求められていますが、

  • 支払金額が3万円未満 または
  • 請求書等の交付を受けなかったことについて「やむを得ない理由」がある場合

は、請求書等の保存がなくても、仕入税額控除が認められていました。

そして、電磁的記録の場合、「やむを得ない理由」として課税仕入れの適用が可能だったのです。

免税事業者からの仕入れがあっても、課税対象として対応し益税が可能だったのですね。

新消費税法では、これらの“あいまい“をなくすことが目的ですので、しっかり第30条9項に、請求書に電磁的記録が追記され、発行免除特例も、第70条の9項に、詳細にわたって規定されました。

インボイスを電磁的記録で行う場合、すなわち電子インボイスは電子帳簿保存法の第2条6項に定義される、電子取引に該当し、同法の第10条および施行規則第8条の規定に準ずることになります。

従って、これまで保存義務のなかった電子インボイスは、発行側も受領側も、基準期間中、電子帳簿保存法の規定に基づいて保存することになります。

具体的には、第17回電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報保存」を参照ください。

第17回 電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報保存」

EUの動き

EUでは、Digital Single Marketの推進を目的として、2014年4月16日に、公共調達における電子インボイスに関するe-Invoicing Directive (2014/55/EU)が採択されました。

加盟国は、これを採用し、全ての契約当局と契約団体が欧州規格に準拠したeインボイスを受け取り、処理することを義務付けることを規定しています。

このDirective(指令)で、電子インボイスは以下のように定義されています。

‘Electronic invoice’ means an invoice that has been issued, transmitted and received in a structured electronic format which allows for its automatic and electronic processing.

  • * 自動および電子処理を可能にする構造化データ形式で発行、送信、および受信された請求書です。

EUのWebサイトによると、

統一した電子インボイスによるメリットは

  • 物理的な紙のフォームをデジタルフォームに置き換えると、請求書をより効率的に処理してアーカイブできる。
  • 印刷、郵便料金、オフィス内のルーティン業務およびアーカイブを大幅に節約できる。
  • データを機械可読にすると、請求書の視覚的な形式を手動で表示および読み取る必要がなくなる。
  • APシステムに請求書情報を入力する手作業も削減される。
  • 人的資源が大幅に節約され、データ入力のエラーが大幅に削減される。
  • 公共部門での電子請求書の採用は、経済的幸福にさまざまな貢献をすることができる。
  • 公共部門の赤字削減、財政の透明性、持続可能な開発の促進などの公共政策の優先事項を支援し、コスト削減と効率化に大きく貢献する。
  • 民間部門のサプライヤーに利益をもたらし、民間部門と共通のデジタルプロセスのより広範な採用の触媒として機能する公共部門の機会を創出する。

とあり、上記のさまざまな処理ステップで実現できる、電子インボイスによる主要なコスト削減として、以下がリスト化されています。

  • 紙のコスト
  • 印刷費用
  • 送料
  • 送受信時の手渡し
  • 請求書のレビューと承認
  • ERPシステムへのデータの入力
  • 会計キーの割り当て
  • バランシング(データ入力のエラーを削減)
  • アーカイブ、取り扱い、保管

これらのメリットは、単なる請求書のデジタル画像化では実現できず、データの信頼性が担保されるトラストサービスを利用し、構造化されたeインボイスで実現することとなります。

実際には、eIDASとしてEU域内で共通に整備・規定されているトラストサービスである、eシールやタイムスタンプをリモートで署名する方式で、eインボイスの発行が進んでいるようです。

日本におけるインボイス制度実現にむけて

軽減税率や仕入税額控除と、消費税の納税は、複雑な仕分け業務が発生します。

今般のインボイス制度の施行で、インボイスという発行元が責任をもって正確な証明書を提供する仕組みは、正確性を保証することで、その信頼性を確認する後工程での無駄な業務を排除することができます。

そして、複雑な業務であることから、紙から電子インボイスへの移行が加速されると思います。

一方で、電子になることで、なりすまし、改ざん、ねつ造のリスクを回避し、長期にわたってその信頼性を保証することが問われます。

適格請求書発行事業者の登録番号は、国税庁がWebで公開するとのことですが、課税事業者がこれをその都度確認するための仕組みを用意することは新たな投資になるとともに、国税庁側も相当数のトランザクションに耐えられるシステムを用意する必要があります。また、登録番号は公開情報であり誰でも利用できることから、なりすましのリスクも発生します。

不公正感のない適正な消費税徴収目的で導入されるインボイス制度ですが、電子化を推進し、業務改善を実現する絶好の機会です。

請求書そのものの信頼性を後工程ではなく、発行時点で担保することで、無駄な業務を削減し投資を抑えることが可能です。具体的には、EUで利用されている法人組織の電子証明書とタイムスタンプを発行時に付与し提供することで、課税事業者側で国税庁のWebへの確認のためのトランザクションは不要となり、そのまま保存期間にわたって電子的に保存することが可能となります。

固定した技術・サービスで基準を設けることは将来性を考えると決して良いことではありませんが、さまざまな方式を容認した場合は、さまざまな請求書が混在することとなり、一番手間のかかる方式に合わせて課税事業者側がシステムを構築することとなり、本来の業務改善目的において非効率です。

少なくとも、課税事業者側で国税庁のWebにその都度登録確認をするために方式は避けるような、統一した基準が設定されることが望ましいと考えます。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 DXソリューション本部 担当部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)入社
2000年 タイムビジネス事業(クロノトラスト)立ち上げ
2006年 タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
2013年 セイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍
2018年 トラストサービス推進フォーラム(TSF)企画運営部会長
2019年 令和元年「電波の日・情報通信月間」関東情報通信協力会長表彰
     総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ」構成員
2020年 総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会」構成員
2021年 内閣官房「トラストに関するワーキングチーム」構成員
2022年 デジタル庁「トラストを確保したDX推進SWG」オブザーバー
     (一社)デジタルトラスト協議会(JDTF)推進部会長
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime)、PKI、情報セキュリティ、トラストサービス
セイコーソリューションズ株式会社

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