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第16回 うるう秒
2017年、今年の元旦は「うるう秒」が挿入されました。今回は、地球の動きを定量的に感覚として感じられる「うるう秒」についてお伝えします。
地球の動きを定量的に感覚として感じられる「うるう秒」
新年明けましておめでとうございます。
地球の公転が、また新しい1周に入りました。
さて今年の元旦は、うるう秒が挿入されました。
今回は、地球の動きを定量的に感覚として感じられる「うるう秒」について書きます。
うるう秒は、「天文時と原子時の微小なギャップを補う調整」です。
天文時、原子時、調整…なんだかよく分かりませんね。
誰がどうやって決めるの?
世界中で同時に起こるの?
いつからやってるの?
定期的にやるの?
入れるの、抜くの?
そもそも1秒で調整するなんて必要あるの?
まとめて1日増やして2月30日にすればいいのに…
1秒の調整って問題なくできるの?
まずは、さらっと答えを書きます。
うるう秒は、1972年に導入されました。
地球の自転に基づく時刻(天文時=世界時=UT:Universal Time)と、現在、世界中の研究機関にある約300台の原子時計の加重平均値である国際原子時(TAI:Temps Atomique International)が±0.9秒ずれないように、天体観測により世界時を決定している「国際地球回転・基準系事業」 (IERS)が国際原子時を管理している国際度量衡局(BIPM)からの情報を得て、実施する数カ月前に全世界へ発表します。
そして、このうるう秒分の調整がされている時刻が協定世界時(UTC)です。
日本では、電気通信省設置法に基づいて日本標準時(JST)を報時している、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)がBIPMへ原子時計のデータを提供するとともに、IERSの発表を受けてJSTにうるう秒調整を実施します。
うるう秒が調整される日時は、UTCの月末の23時59分と決まっていますが、第1優先日が12月末日もしくは6月末日で第2優先日が3月末もしくは9月末となっています。
これまでに、12月末に16回、6月末に11回の27回実施されました。
理論的には1秒の挿入・削減どちらもあり得ますが、これまでの実施はいずれも1秒挿入です。
ちなみに、JSTはUTCと9時間のズレがあります。
このため日本では、うるう秒調整の実施は、元旦もしくは6月30日の8時59分に実施されます。
ジルベスターコンサートの最中だと、カウントダウンが1秒狂ってしまいます、9時間ずれていてよかったですね。
※第4回コラム参照
ここからは、ちょっと個人的な興味から書かせていただきます。
天文時の1秒について
天文時の1秒はどのように決められたのでしょうか?
さまざまな説がありますが、ここでは筆者が興味深く信じている古代バビロニア説から展開させていただきます。
紀元前の大昔から人類は、地球の自転・公転と月の満ち欠け、といった周期リズムを生活に欠かせない経験値として認識してカウントする知恵を持っていました。
- 天体の動きから30自転が12回で1年になること
- 太陽が地平線に顔を出してから完全な姿になるまでの時間(約2分)を基本単位として、その720個分が1昼夜であること
を経験的に認識していたのです。
地道な計量・観測によるたまものです。
一方でいつでもどこでも簡単に数える方法として、人類は2本の手と10本の指を利用してきました。
古代の人類は、片手だけで最大のカウントをする方法として、親指で残りの指の関節を触れて12まで数える手段を発明していました。
12を底としたカウントができていたのです。
10本の指を折ることでカウントできる10を底にした10進法と12進法を上手に組み合わせて数えていたのです!
指数の10進法と関節カウントの12進法の最小公倍数は60ですね。
大きな数のカウントは天文環境により12進法、これが数の基本。
さらに細かい数のカウントは、片手側が親指で関節を数えて12、もう一方の手では、指を折って12 x 5の60進法を利用していたのではないでしょうか?
あれっ? 12 x 60って、720個の太陽数ではないですか!
なので、自転=720太陽を1日とし、昼夜があるので1日をさらに12 x 2=24で分割した単位として1時間。
これより小さい単位は、身近な数え方でより詳細な基準が必要なため60進法となり1時間を60分、さらに、分を60分割した1秒。ということで、1秒は慣習的に1平均太陽日の24 x 60 x 60=86400分の1となったようです。
現在の秒という単位の国際的に正式な制定は、1799年のメートル法で、天文学で慣習的に使用されていた、1日の86,400分の1が採用されて今日に至っています。
モノの単位は、10進法であるのに対して、コトの単位である時間は、12進法であることはとても興味深いですね。
そして、10と12の最小公倍数である60によって秒、分が定義されていることはヒトの生活環境と密接であることの表れなのですね。
国際原子時(TAI)の登場
19世紀から20世紀にかけて、天文学の発展で、気流などの影響で地球の自転周期が不規則に微妙にふらつくことが分かってきました。
潮汐にかかる方向は月の公転に合わせて動くが、地球の自転は1日周期なので潮汐に比べて速いので、あまり動きの少ない海水の中で、地球が速く回転すると海水がブレーキとなって地球の自転速度を落とす役割をする。
とか、地球内部にある「核」の運動の変化や、地球規模での水の分布変化などが原因となって自転速度が変動する。
など、必ずしも一定の割合ではなく、微妙に変動することが分かってきたのです。
このため、変動のない固定尺度が求められ、高精度な原子時計の登場となったわけです。
1958年に国際原子時(TAI)が制定され、世界中のさまざまな地点での原子時計の加重平均値を基準とすることになりました。
うるう秒によるギャップ補正の意味と私見
このように時系列には、地球の自転に基づく時刻系(天文時=世界時=UT)と高精度な原子時計に基づく時刻系(国際原子時:TAI)が存在し、微妙にそのズレが出てくるのです。
それを、実生活に合わせるべく秒単位で補正しているのが、うるう秒ということになるのです。
そして、TAIにうるう秒補正を加えた時刻をUTCとして世界共通の時刻としているのです。
これまでの実人間社会においては、秒単位での補正はさほど気になるものではなかったのですが、実際に1秒単位でプラスマイナスするのは、時刻に同期して稼働しているコンピューターの世界では、実はかなり大変なことなのです。
たかが1秒、されど1秒、全世界で一斉に全てのコンピューターにおいてその瞬間に実施されていることを鑑みると、何も起こらないことがかえって驚くべき技術・運用だと思います。
まだまだ、コンピュータに依存していることが限られているからなのかもしれません。
今後のことを考えると、夜もろくに寝ることができません。
しかし、人間社会活動では、たかが1秒なのではないでしょうか、数年で1秒程度のふらつきは、実社会上は気にすることはほとんどないのではと思います。
そのため、うるう秒を廃止しようという議論が国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)でされています。
当初は、2013年に廃止することを目指して提案されたのですが、2012年の総会(WRC12)で結論が出ず、2015年の総会(WRC15)に結論を出すと見送られたのですが、その総会でも結論は出ず、2023年の総会(WRC23)に持ち越され、いまだ存続・廃止の議論は継続されています。
筆者も、2013年のITU-R SG7 WP7A(Working Party 7A - Time signals and frequency standard emissions)会議において、事業者としてうるう秒の廃止を訴求させていただきました。
Time to leave leap seconds behind?(itublog)
実際に、2012年に実施されたうるう秒挿入では、Linuxのカーネルによるバグなどにより
- センターサーバーが誤動作し、グループウェアクラウドサービスへのアクセス障害が前日に発生し、復旧に13時間以上かかった
- SNSサイトで、会員のログインができなくなったり、操作の反応がなくなったり、4時間の停止が発生
- 航空会社の搭乗予約システムが2時間以上ダウンし、400以上の世界中のフライトに影響を与えたといったトラブルが発生しています。
タイムスタンプという記録の証拠を発行する業務を提供している事業者としては、間違った時刻での配信は許されません。
しっかりと、うるう秒の調整実施を確認してからではないと、とてもリスクが高くてタイムスタンプを発行できません。
このため、うるう秒実施の前後は、関係者がセンターに詰めて調整を実施し、確かに調整されたことを確認するまでは発行を停止する運用を行っています。
WRC23では、廃止の結論が出ることを願っています。
今回は、新年ということで、天文と時間について書かせていただきました。
時刻は「時間の矢」と表現されるように、(現在の科学では)さかのぼることはありません。
時刻はまさに、aufheben(止揚)らせんで進化する世界の尺度です。過去、現在、未来…一定の精度で自転・公転しながら、毎日0時を迎え、毎年元旦を迎え、たぶん永久に継続していく、そんな地球という中で、人類社会が自らの知恵で好転していく、面白いですね。
次回は2月14日(火)更新予定です。