第89回 「良くない評価」を伝えたがらない会社の話

「良くない評価」を本人に伝えるのは、反感や軋轢(あつれき)を避けたいという心情的な難しさがあります。しかし、それを伝えないままお互いに認識がずれていきますと、後から大きなトラブルになってしまうことがあります。

「良くない評価」を伝えたがらない会社の話

組織で仕事をしていく中で、その結果や成果、プロセスは時期によって当然違いが出てきます。その頻度が少ないに越したことはありませんが、「業績が上がらない」「仕事の結果が出ない」「成果が乏しい」といったことも、ビジネスを続けている中では必ずどこかで起こります。

そんな中には、「作業が遅い」「ミスが多い」など、社員個人の能力不足と評価をせざるを得ないこともあります。人にはそれぞれの個性があり、同じようにそれぞれの能力には違いがありますが、能力不足と見られる状態が日常的、恒常的に積み重なってくるのは、会社として困ったことです。
こうなった時、上司や同僚の中から「辞めてもらいたい」などといった声が出てくることもあります。

日本の会社の現状

日本の労働環境の中では、会社都合での解雇には相応の理由が必要です。対応次第ではトラブルになりかねませんから、多くの会社は慎重な対応をします。どんな社員でも簡単に解雇はできませんし、会社としてその人を採用した責任もあるでしょう。指導方法の工夫をしたり、別の生かし方を考えたりと、切り捨てずに対処することが前提となります。

しかし、会社として耐えられる限度を超えてしまう状況は確かにあります。結果として、退職勧奨や解雇といった形を取らざるを得なくなってしまいます。
こういう時、会社からの言い分を聞いていきますと、戦力にならないと考えても仕方がない部分は確かにあります。ただ気になるのは、能力不足だと見ていることを本人にきちんと伝えていない会社が意外に多いことです。

ある会社での事例

最近もある会社であったことですが、「どうしようもない不良社員がいて、辞めてもらいたい」と言います。いつも自分の都合でクレームばかりを言ってきて、そのくせ周りには協力しないそうです。コロナ禍で会社の余力も減ってきて、「今までは何とか我慢してきたが、さすがにもう限界」とのことです。

この話に対する本人の言い分は、こんなことでした。

まず「クレームばかり」という点は、他の社員が会社への不満を言えないので、自分がそれを代弁していたつもりだそうです。会社から反論されたことはなく、いつも「検討する」という返答だったそうです。
また「周りに協力しない」と言われても、上司からそういう業務指示を受けたことがないし、指摘されたこともなく、今になって急に言われても心外だと言います。
自分の人事評価は、ずっと中くらいを維持している認識で、今回言われている指摘を過去にされた記憶はないそうです。実際の評価結果を見ますと、確かにそれは本人の言うとおりです。
結局、会社が言っている「今まで何とか我慢してきた」ということは本人に一切伝えておらず、本人はずっと何の問題も感じないままでいたということでした。

典型的な「非主張行動」

こういう話は他の会社でも結構多く、「問題社員」などと言いながらも、例えば直前に行った人事評価では、ほぼ標準か多少のマイナス程度で評価であったり、面談はしても課題指摘を全くしていなかったりします。
そういう評価をされてきた社員が、いきなり「能力不足だ」「協調性がない」などと言われ、解雇や退職勧奨などを促されたとしたら、さすがに納得できるはずはありません。

こういう時、上司や会社になぜ相応の評価やフィードバックをしないのかと聞きますと、「今の評価項目ではそこまで悪い評価はできない」と制度のせいにしたり、「やる気を無くさないように」「へそを曲げられては困る」など、あえて伝えない方がよいような言い方をしたりします。「目先の軋轢は避けたい」「自分が悪者になりたくない」という責任回避の姿勢も感じます。

こういった上司や会社の姿勢は、典型的な「非主張行動」といわれるものです。「言いたいことを言わずに我慢する」ということですが、その結果どこかで限度を超えて一気に攻撃的になっています。俗に「キレる」といわれることと同じ行動です。

客観的事実を伝えて、現状の認識を合わせておく

自分が嫌われるようなことを避けたいと考えるのは、個人の感情としては仕方がないところがありますが、上司が部下に「言うべきことを言わない」「伝えるべきことを伝えていない」というのは困ります。能力不足などの「良くない評価」を社員に客観的に伝えることは、上司の個人任せにせずに、会社全体の組織として対応することも必要でしょう。

会社と社員が対立するようなトラブルは、はじめはごくささいな感情の行き違いが原因であることも少なくありません。だからこそ、良くない評価やダメ出しなどの伝えづらいことであっても、客観的事実を基に本人にきちんと伝えて、お互いの現状認識を合わせておく必要があります。
「良くない評価」ほど、その場その場できちんと伝えておかなければ、後から大きなトラブルやもめ事の原因になるということを、十分に肝に銘じておかなければなりません。

次回は2月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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