第90回「敵が少ない」が良いことではなかったという話

「敵が少ない」という人が普通、悪く思われることはほとんどないはずですが、これはその理由をよく見ておかなければ、実はマイナスにつながっていることもありえるというエピソードです。

「敵が少ない」が良いことではなかったという話

人との接し方や付き合い方に関して、「相手に好かれなかったとしても、せめて嫌われなければそれで十分」などと言う人がいます。

私もどちらかというと同じような考え方をするタイプで、もちろん限度はありますが、できるだけ多くの人と幅広くフラットに付き合いたいと思っています。そんな姿勢が「付き合いが広い」と言われることも、逆に良くない意味で「八方美人」などと言われることもありますが、「他人から嫌われない」に越したことはないと思っています。「敵が少ないこと」が、絶対マイナスにはならないはずとの認識があります。
しかし今回のお話は、この考え方にちょっと反するような出来事です。

自分からは何も行動しない

ある会社の経営者ですが、最近先代から社長の座を譲られた新社長です。先代社長は会長となり、第一線からは退く形になっていますが、社長を譲って数カ月がたち、会長としてはどうもこのままではまずいと思っているそうです。
その理由は、新社長が「自分からは何も行動しないため」だと言います。「社長の仕事を何もしない」との言い方をします。

これは会長の一方的な話ですので、多少の偏見や言い過ぎのようなところもあるかもしれませんが、一部の社員に遠まわしに聞いてみても、やはり会長と同じようなことを言います。社長の行動に何か問題があるのは確かでしょう。

この「自分からは何もしない」ということを、もう少し具体的に聞いてみますと、どうも人と会うことがあまり好きではないらしく、社長として立ち会ってほしい商談、顔を出してほしい会合、会ってほしい顧客や取引先企業など、現場が相当にプッシュして納得させて、それでようやく出てくる感じだと言います。しかも後ろ向きで嫌々な態度が明らかだそうです。

会社には毎日きちんと出社してきて、終業時間を過ぎる頃まではほぼ必ず社内にいるそうですが、その間の来客はそれほど多くなく、夜の付き合いもほぼありません。

また、仕事の上でも、自分から何か資料や情報を要求することはほとんどないと言います。現場がまとめてくる経営資料や報告資料などには目を通してコメントはするものの、何か指示らしい指示が出てくることもありません。「社長の仕事をしていない」と言われても仕方がない感じがします。

「一番敵が少なかった」新社長

こんな感じの新社長ですが、選んだのは「まずい」と言っている会長本人です。「なぜ社長に選んだのか」という理由を会長に尋ねますと、本当にがっかりした顔で言ったのは、「一番敵が少なかったから」ということでした。

よく聞けば、社長候補はほかに二人ほど頭の中にあったそうで、その人たちも含めた三人の候補者は、実績や能力ともに大きな違いはなくほぼ横並びの人材と見ていたそうです。
ただ、新社長以外の二人はそれぞれ多少の癖があって、部下や顧客、その他周囲の人からの評判は善し悪しが二分されていたそうです。それに対して新社長だけが、それほど好かれている様子ではなかったものの、人間関係の良くない評判はほとんどなく、最終的にはそれを決め手に選んだとのことでした。

しかし、今となってあらためて思い返してみますと、「敵が少ない」のは自己主張がなかったからあつれきを生まなかっただけであり、新社長の過去実績は「自己主張がない上司(=新社長)」をあてにせず、部下たちが仕事をうまく転がしてくれていたからでした。「自分からは何もしない」ので誰とも対立することがなく、その結果として「敵が少なかった」のです。
会長は「自分の見込み違いだった」「うわべしか見ていなかった」「人を見る目がなかった」などと、反省しきりです。

この会社は、もう一度会長が経営を取り仕切ることで、組織を立て直していくことを決めました。どこかで社長の交代もするかもしれません。

「敵が少ない」は「行動しない」という結果だった話

「敵が少ない」ということの実態は、「行動しない」というマイナス姿勢の結果だったという話ですが、私の経験ではあまり聞いたことがありません。

しかし考えてみれば、他人との接点がなければ敵も味方も生まれるはずはありません。そういう状態での「敵が少ない」は、裏を返せば「人付き合いがない」「議論をしない」「自己主張がない」といったことにつながっていました。
実態をよく見なければ分からなかったことでしょう。

「敵が少ない」も、反対に「敵が多い」も、さらにそれ以外の思い込んでいることも、その中身をよく見なければ分からないことがたくさんあると実感します。

次回は3月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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