第101回 職場の「コミュニケーション量」と「物理的な環境」の話

コロナ禍を機に進んだリモートワークではコミュニケーション不足が課題に挙げられますが、これは以前から形を変えながら存在し続けている課題であり、その原因の一つとして職場の「物理的な環境」があります。

職場の「コミュニケーション量」と「物理的な環境」の話

以前から存在する社内の「コミュニケーション不足」

コロナ禍を機にインターネットを介したリモートワークが進み、在宅や会社以外の場所で仕事をする機会が増えました。当初は消極的な会社も多く見受けられましたが、実際にやってみると出社しなくてもできる仕事が意外にあることが分かり、実施の割合はそれぞれ違うものの、今は多くの会社で在宅勤務をはじめとしたリモートワークが取り入れられています。

そこには当然問題もあり、最もよく聞くのは「コミュニケーション不足」というものです。特にマネジメントを担う上司の側から、

  • 仕事ぶりが見えない
  • 進捗(しんちょく)が分からない

といったことがよく挙げられます。直接対面していれば観察可能な表情やしぐさなどの非言語情報が得られないため、相手の様子がこれまでのようには分からないという不安の側面もあるでしょう。

ただ、この「コミュニケーション不足」という話は、リモートワークで急に始まったことではありません。以前から社内の課題を尋ねると、多くの会社で「コミュニケーション不足」という話が出てきていました。どんな会社でも何かしらの課題がある部分であり、それが形を変えながらずっと続いてきています。

「コミュニケーション量の不足」は職場環境が影響している!?

これはコロナ禍以前の話です。ある会社で「社内のコミュニケーション不足」が課題として取り上げられ、今後の施策を社員の皆さんと一緒に考えるということになり、その認識合わせの一環として、私も社内の様子を見学させてもらったことがあります。
そこで見たこの会社の作業環境は、日本企業にしては珍しく一人一人の座席が仕切りで囲われたブース型になっていました。立ち上がればすぐに周りが見渡せる程度の仕切りですが、一度自分の席に座ると、他の人は一切視界に入らなくなります。

この会社では、仕事中の私語を特に禁止するようなルールはありませんが、社内は非常に静かでパソコンのキーボードを打つ音だけが聞こえてきます。作業に集中できる環境であることは間違いないとはいえ、誰かと会話するにはすぐ隣の席の人でも立ち上がって声をかけなければなりません。そうなると自席で雑談などを交わすことはほとんどありません。

作業場所以外にリフレッシュスペースがあり、そこで休憩やちょっとした雑談をすることができますが、業務時間中にあえて休憩や雑談を奨励するのも不自然ですし、社員の中にもさぼっているように見られかねない行動をするのは、何となく抵抗があるでしょう。
会社の課題として「コミュニケーション不足」を挙げている中には、質と量の両面があるはずで、特に社員間の「コミュニケーション量」については、この職場環境に原因の一端があるのは確かでしょう。

しかし、そうだからといってこの作業環境を変えれば「社内コミュニケーションの不足」が解消するかというと、話はそれほど単純ではありません。
この会社が個人ブースの作業環境を作ったのは、そもそも基本的な作業がそれぞれ個人の担当者ベースで進められるものが多いということから始まっています。
以前は一般的な会社のように、オープンな空間に各自のデスクを並べていました。しかし、社員同士の私語が多いことや、作業中の画面や資料が周りにも見えてしまうというセキュリティ上の問題があり、その対策のために現在の形を取り入れたということです。

社員が仕事をしやすい環境を考えていった結果として行きついたのが、今の作業環境でした。当初は作業効率が上がったという評価もあったようですが、今はそれが行き過ぎたことによる問題が起こっているといえそうです。

コミュニケーションの回数を重ねる場づくり

この「コミュニケーション不足」のような問題で、特にコミュニケーションの「量」に関する部分では、人の好き嫌いや話しやすさといった人間関係的なこととともに、「物理的な環境」が影響することが意外に多いものです。

例えば、コミュニケーションが必要な相手との物理的な距離が遠ければ遠いほど、その密度や頻度は薄くなりがちです。学生時代にクラス替えがあると、それまでいつも話していた親友と急に疎遠になる経験をした人がいると思いますが、それと似たようなところがあります。組織変更や部署異動でお互いの勤務地が変わるような場合はもちろん、居場所のフロアが変わったとか、席が離れたとか、それくらい小さな変化でもお互いのコミュニケーション量は変わります。

たまたま共用電話の近くの席になり、電話応対をする機会が増えたために、社内の人と会話する機会が増えて、いつの間にか社内コミュニケーションの中心にいるようになったり、社員旅行で同部屋になったことをきっかけに面識ができて、その後、仕事上の情報交換をするようになったりするなど、物理的な環境変化やお互いの距離間の変化がコミュニケーションの量を増やすこともあります。

その後、この会社では、コミュニケーション改善の第一歩として、同じ部署に属して仕事上の関係がある10人程度のグループごとに、お互いがやっている仕事内容や現状を共有することを目的に、1日おきに15分程度のミーティングを実施する活動を始めました。
知っている人も多いと思いますが、接触の回数や頻度が多いほど親密度が増すという「ザイオンス効果」(別名で「単純接触の原理」)というものがあり、まずはコミュニケーションの回数を重ねる場づくりから始めようということです。そこからコミュニケーションの量を増やしていき、最終的な「コミュニケーション不足の解消」につなげたいという考えです。こんなことも「物理的な環境」の一種といえるでしょう。

いずれにしても、「コミュニケーション不足」という課題には、大きなことからささいなことまで、いろいろな要素が複雑に絡み合っていることがほとんどです。趣味や価値観、性格的な相性、共通の話題の有無、そのほかさまざまな要素がある中で、「物理的な環境」にも目を向けておく必要があります。

次回は2月22日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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