第108回 「結果主義」では本当の姿を見誤るかもしれないという話

仕事の成果を見る時、最も重視されるのはやはり「結果」で、「結果が全て」と言い切る人もいますが、結果主義に偏ってプロセスの評価や検証をおろそかにすると、本当の姿を見誤ってしまうことがあります。

「結果主義」では本当の姿を見誤るかもしれないという話

良い結果の裏に問題は隠されがち

仕事の成果を見るとき、最も大事とされるのはやはり「結果」です。いろいろ言っても結果が出ていなければ高い評価を得ることは難しいですし、「プロセスは関係ない」「結果が全て」とはっきり言い切る人もいます。
確かに大敗続きで20連敗のチームが「いい試合だった」などと言い続けても、その試合内容に注目する人はほとんどいないでしょうし、逆に20連勝のチームであれば、試合内容がどんなに不出来でも、それが問題視されることは少なくなります。チームワークが悪くても、ただのラッキーでも、結果が出ていることで問題はどうしても隠されがちになります。

そういった意味で、確かに「結果が全て」と言えるところはあるものの、良い結果と良いプロセスとにはある程度の相関性があると考える私にとっては、今一つ腑(ふ)に落ちないものがあります。

ある企業での例

少し前の話になりますが、その当時支援していた企業を訪問した際に、社長からある一人の課長を紹介されました。社長が言うには、これまで何年も継続してコンスタントな成果を上げている人で、翌月からの部長昇進が決まっているそうです。
初対面でしたが、温和な性格がにじみ出ているような人で、本人は「部下たちが優秀で、全員よくやってくれたおかげで成果が上げられた」などと謙遜(けんそん)しています。話を聞いている限り部下たちとの関係性は良さそうですし、人柄も問題ないように見えます。「結果を出している人」であれば、昇進するのも当然のことでしょう。
社長の様子を見ていても、この課長に対する評価の高さが明らかに分かります。過剰な期待ではないかと気になるところはあったものの、私から本人には「頑張ってください」とだけ伝えました。

それから数カ月後、この会社の社長から相談をもらいます。以前紹介された課長が部長になったものの、その新任部長がどうもいろいろ行き詰まっている様子で、一度話を聞いてアドバイスしてほしいとのことでした。

実際に本人にお会いすると、確かに少ししょんぼりしているように見えます。どうも新しい担当部門であまりうまくいっていないようで、少し自信を無くしている様子です。

アドバイスをするにあたって、まずは今の状況や自身の行動、周りの様子などを聞いていき、その中で気づいたことが幾つかありました。

中でも一番大きかったことは、本人の課長時代の成功パターンが、今の部門では全く通用していないようだということでした。
本人は自分の過去の経験から、できるだけ部下の要望を聞いて仕事をしやすい環境作りに努めていたつもりのようですが、今の部下たちからは「適切な指示がない」「方針を示そうとしない」など、リーダーシップに関する批判があるようです。
本人は部下と真摯(しんし)に向き合っているつもりなのに、それを口々に批判されるという経験したことがない状況に陥って、何をどうしたら良いのか分からずに混乱してしまっています。

さらに、以前担当していた部門の現状を尋ねてみると、後任には経験が浅い新任課長が来たものの、それまでと変わらず順調な仕事ぶりだそうです。この部門には、営業センスと技術スキルのそれぞれに長(た)けた二人のリーダーがいて、現場の実務的なことはこの二人がほとんどを仕切っているそうです。そんな優秀な部下がいる部門ですので、そこでの課長の仕事としては、彼らの要望を聞き、その話を会社に通すなど環境作りをし、部下から相談があれば自分なりにアドバイスするということが大半だったようです。仕事の段取りや現場レベルでの判断は、ほぼ部下たちに任されていました。

初対面の時に謙遜だと思った「部下たちが優秀なおかげ」という言葉には、それが謙遜ではなく事実だったという部分がかなりあり、過去の成果は現場の力によるところも大きかったことは確かなようです。

結果とプロセスとの相関性

こういった話はどの会社でもよくあることですが、この会社での問題は、今回の新任部長をはじめとして、過去の成果が生み出された理由に対する評価や検証が「目に見える結果」だけで行われていたことです。確かにコンスタントに「結果」は出し続けていましたが、それがどのようなプロセスで得られた成果なのか、誰がどのような役割を持ち、どんなチームで行動したものなのか、環境が変わっても再現性があるものなのかなど、結果を得られるまでのプロセスは、ほとんど評価されていませんでした。「結果に目がくらんでいた」ともいえるのかもしれません。

このように「結果主義」に偏ってしまったことでその後の判断を見誤るということは、企業の中では意外によく起こります。管理職任命にかかわる話であれば、一から事業を起こすのが得意な人はある規模までいくと事業を伸ばせなくなるとか、小規模営業所をエースとして仕切っていた人が大きな営業所に異動した途端に影が薄くなってしまったとか、業績悪化を止められる人がその後反転させることまではできないとか、個人の適性によって起こることはいろいろあります。その理由が仕事の進め方なのか、環境なのか、人間関係によるものなのかなど、なぜそうなっていくかは、やはり仕事のプロセスをよく見なければ判断できません。

「結果を出している」という人材を抜擢(ばってき)したら期待外れだったという話は、多くの会社から出てくるものですが、その中には事前の見極めで回避できることも相当数あるはずです。そのためには、いかに結果だけにとらわれずに、プロセスもしっかり見ていくかということに尽きます。本質を見誤った期待外れは、本人と会社のどちらにとっても不幸なことです。

「結果主義」だけでは、本当の姿を見誤ってしまうことが大いにあります。

次回は9月27日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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