第109回 いつも過剰反応で周りから敬遠される部長の話

ある会社で顧客要望に対して過剰反応してしまう部長がおり、その行動が部下たちとのコミュニケーションを妨げる原因となっていました。結果的にそれは顧客満足を低下させてしまうことにつながりかねません。

いつも過剰反応で周りから敬遠される部長の話

釣り合わないコストパフォーマンス

顧客満足は、ほぼ全ての会社が重視しているものだと思います。最近は、自社商品やサービスを通じて顧客の問題解決をサポートするだけでなく、真の目標達成のために先回りのフォローなどの積極的な働きかけをすることで、顧客の成功を支援するとともに、自社商品やサービスの品質向上も両立しようとする「カスタマーサクセス」という考え方が出てきています。

その一方、企業の現場を見ていると、顧客重視に意識が行き過ぎて、過剰品質や過剰サービスに陥っていると思える場面を目にします。顧客からの要望や要求に言いなりで、無償サービスや時間外作業に応じていたり、場合によっては要望されていないことまで進んで対応していたりすることもあります。トータルで自社の利益につながっていればよいですが、費用は持ち出しであったり、社員の労働時間を圧迫していたり、どう見てもコストパフォーマンスが釣り合っていません。またその状況を、当事者の営業担当は全く自覚していなかったりします。

ある会社での例

以前、ある会社の社員から、その人の上司にあたる部長に関する相談を受けたことがあります。本人は「半分は愚痴のようなものですが……」と言っていました。
その相談内容は、部長が顧客要望に対して過剰な反応をすることでした。部長に話が伝わってしまうと、どんなことでも大げさになりすぎて、とにかく労力がかかりすぎて困っているそうです。
例えば、顧客から仕事上の提案依頼があったとして、部長がそれを聞きつけると、それほど重要とは思えない内容であったとしても「あの資料を調べろ」「このデータを集めろ」などと言って、やたらと風呂敷を広げたり、検討と称して長時間の打ち合わせを何度も重ねたり、とにかく過剰な対応になりがちだそうです。

他部門の人たちが客観的に見ていても「この案件にそこまで手をかける必要はないのでは」と言われることがよくあるそうですが、部長が盛り上がってしまうとそんな指摘を聞く耳は持っていません。そういったことが度々起こっているといいます。
過剰な対応が関係者だけに閉じていればまだしも、業務状況を考慮せずに周りの人たちを巻き込むため、その時に抱えているもっと優先度が高い案件の仕事が滞ってしまうことが多々あるそうです。
私もこの部長と面識がありますが、みんなでお祭り騒ぎをするようなことが好きなタイプで、何でも他人を巻き込もうとする傾向は分かる気がします。

過剰反応が生むコミュニケーションエラー

問題なのはここからで、部門内では特に部長と他の社員との間でコミュニケーションの滞りが顕著になっていて、仕事上の行き違いや手戻りなどの不都合が多くなっているといいます。その最も大きな理由は、「部長に知らせると大げさになり過ぎる」「仕事が進まなくなる」ということです。
無駄と思える仕事を部長が次々作り出してしまうことから、「報告を必要最小限にする」「口出しできないように確定するまで知らせない」「できるだけ巻き込まずに話を進める」など、部長に対する「報連相」を避けるようになってしまっているといいます。しかもそれが、無意識のうちに行われるようになっているそうです。

これは人間の心理として考えれば、ごく普通のことといえます。部長への「報連相」が、自分にとっての無駄や不利益となって返ってくるとしたら、その行動をいつまでも続ける人はいません。
「報連相」は組織上の義務といわれることがありますが、それを行うことが組織のメリットになるという前提があります。上司への「報連相」が適切に行われることで、「トラブルを未然に防いだ」「クレームを最小限にとどめた」「良いアドバイスがもらえた」などというメリットが多ければ、多くの部下が積極的に取り組むはずですが、そうでないとすると「できるだけ言わないでおこう」「知らせずに済まそう」といった行動が横行します。

これは、意図的なトラブル隠しなどとは違って、共有する情報を選別したり、報連相の頻度を減らしたりするなど、情報共有に消極的な雰囲気が、無意識のうちに定着してしまう点が問題になります。こういう環境では、隠すつもりがないこともいつの間にか見過ごされてしまい、重大なトラブル発生や対応の致命的な手遅れにつながりかねません。それはまさにそのまま、顧客満足の低下につながってしまいます。過剰な顧客対応が、巡り巡って逆に信用を下げてしまうという悪循環です。

このようなコミュニケーションエラーは、ちょっとした上司の振る舞い一つでも起こってしまいます。コミュニケーションには話し手と聞き手とがいて、双方が適切に対応しなければ成り立ちません。お互いの反応が過剰でも不足でも、コミュニケーションはうまくいきません。

これは「報連相」のような組織内のコミュニケーションでも同じで、特に上司の「聞く姿勢」はとても重要です。煙たがられるような過剰反応には、十分に注意しなければなりません。

次回は10月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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