第110回 無意識のうちに持ち、いつの間にか離れられなくなる「既得権」の話

最近「既得権」という言葉を批判的な意味で聞くことが増えた気がします。それは誰もが無意識のうちに持っていて、いつの間にかそこから離れられなくなっていることを、ある身近な出来事から感じることがありました。

無意識のうちに持ち、いつの間にか離れられなくなる「既得権」の話

「既得権」の本来の意味

ここ最近、「既得権」という言葉を耳にすることが増えた気がします。

その意味は文字どおり「人が既に獲得した権利」のことで、法的根拠があるものは保護、尊重されるべきものとされています。個人の基本的な権利とも結びついている大切なものです。ただし最近の話題の中では、どちらかといえば好ましくないものとして、批判的に扱われる場面を多く目にします。「既得権」を使って他者を排除し、身内だけに都合よく利益を享受し、既に得ている優位な立場を持ち続けるようなことです。政治の世界での力学的な話や、ビジネス上の参入障壁、密室での決定、不公正な競争などが挙げられます。

競争の中で「既得権」を持つ人は、それを維持して優位性を保ちたいと考えるのは当然でしょうが、その一方で優位な「既得権」を持つ人たちだけが勝ち組になり続け、格差拡大の原因となるようなこともあり得ます。存在している「既得権」は公正なものなのか、それともゆがんだ不公正なものなのかの区別は、なかなか難しいことだと思います。

今回はそんな「既得権」を、もう少し身近に感じたときの話です。

転職相談をしてきた、ある50代半ばの人の話

少し時間はさかのぼりますが、ある知人社長のところに、かつて同僚として働いていた後輩が転職に関する相談に来ました。年齢は50代半ばの人で、当時在籍していた会社で経営上の問題から組織変更が行われることとなり、その人には関連会社への転籍が打診されたそうです。今までと全く畑違いの別業種で、仕事内容も未経験、自分が持っているスキルで生かせそうなものは何も見つけることができなかったそうです。加えて勤務地はかなり遠くなり、さらに大きな問題として、給料が年収で100万円以上も下がるとのことでした。
体の良いリストラとも思える扱いですが、そんな経緯で旧知の社長に助けを求めてきたようです。

ただ、この人が一番初めに言ったのは、「これまでの年収が○○万円だったので、最低でも××万円は欲しい」というお金の話だったそうです。相談を持ち掛けられた社長からすれば、「自分が入社すればこんな貢献ができる」「こんな経験が会社に生かせる」など、実質的な仕事に関する話をしてほしいところ、そういうことは全くなく、ただ一方的に自分の都合ばかりを話していたといいます。社長はその後もいろいろ話し合ったものの、結果としては入社を断ることにしました。

この社長はとても人情に厚く、どちらかといえば感情に流されがちなウエットさを持った人です。そんな人が旧知の後輩からの相談を断るのは、よほど納得できないことがあったのではないかと思って話を聞いてみると、社長は「自分の市場価値を考えずに一方的な要求ばかりするので、もし受け入れても不満しか持たないと思った」と言っていました。本人は意識していなかったかもしれませんが、まさに「既得権」を維持することに全力を尽くす発想です。

環境に応じて変化する「既得権」を意識する

これと似た話は、特に大企業出身のシニア人材が中小企業に転職しようというときに耳にすることがあります。「自分は何ができるか」という話はそこそこに、給与や待遇の話に終始して結果的に折り合いません。大企業では並の給料だとしても、中小企業で同じことを実現するのは難しく、仕事内容と給料のバランスも釣り合いません。

結局は、その人の自己評価と市場価値のギャップに起因する話ですが、転職活動などを通じて複数企業からのオファーを比較するような経験でもしていない限り、自分の市場価値を的確に理解している人は意外に少ないです。自分が今まで受けていた処遇は、世間一般では当然という認識で、それが前提の「既得権」となっています。しかし、再現性がある実績や専門スキルなどを持っている状況でなければ、それまでの「既得権」を維持することは、残念ながら無理な話です。

自分の身の回りの環境や処遇というのは、それが無意識のうちに「既得権」となり、いつの間にか当たり前のものになってしまいます。しかし「既得権」は、本人が望んでいなくても環境に応じて変化します。実力が認められたプロアスリートでさえ、チームを変わったとたんに活躍できなかったり試合に出られなくなったりします。ここに「既得権」というものは存在しませんが、ビジネスパーソンはなぜか「既得権」があるかのような行動をとりがちです。

自分の置かれている環境が、世の中の変化に見合わない「既得権」になっていないかを意識していないと、いつの間にかそこから離れられなくなってしまいます。「既得権」というものは無意識のうちに持っていて、それが徐々に当然のこととなり、いつの間にかそこから離れられなくなってしまうことをよく理解しておく必要があります。
環境が変われば「既得権」も存在できなくなるということは、心にとどめておかなければなりません。

次回は11月22日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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