第107回 「失敗体験」は成長につながるが人材育成には使いづらいという話

「失敗体験」や「修羅場体験」が成長につながったという話はよく耳にしますが、人材育成をする中で、意図的に「失敗体験」をさせるのはなかなか難しく、その一方で失敗は人が成長するためには必要な体験でもあります。

「失敗体験」は成長につながるが人材育成には使いづらいという話

昭和の遊具は危険?

数年前ですが、あるWebサイトに「昭和の遊具が危険すぎる」という記事がありました。私たちの世代は子供の頃にいつも遊んでいた記憶がある遊具の写真が並んでいます。初めは懐かしい思いで眺めていましたが、あらためて見ると、確かに何の安全対策もなくて危険そうですし、当時は実際に自分や友達がけがを負ったこともありました。
この記事に関するツイートで、こんな書き込みがありました。

「昭和の遊具。いつか誰かがけがするような構造だけれども、子供たちはとても楽しそう。危険なものを排除するのか、危険に触れることで使い方を学習するのか、どちらが子供にとって良いのだろうか」

私はこういうもので遊んでいた世代で、確かに多少のけがはありました。とはいえ「危ないものを何でも撤去して遠ざける」という最近の流れには少し違和感を持ちます。経験することで使い方に慣れ、自分なりに危険を察知していたと思いますし、そういう遊びを通じて体力がついていった気もします。自分にとっては良い思い出ですので、それを否定したくない潜在意識もあるでしょう。
ただ、今の子供たちとは平均的な体力も違うでしょうし、これらの遊具で大きなけがをしたり、中には亡くなったりした子もいるという話を聞くと、制限されることもやむを得ないのかもしれません。

「失敗経験」や「修羅場体験」が人を成長させる、というが……

ここ最近、企業の人材育成の中にときどき出てくる言葉として、「失敗経験」「修羅場体験」というものがあります。精神的にも肉体的にも相当に厳しい、何をどうしたら良いかの判断もつかないような経験をして、それを乗り越えてきた人材は圧倒的に力量が高いという話です。経営危機に遭遇した社長、左遷や降格されたマネージャーなど、困難やトラブルに遭遇して、それを糧に次のステップに進んできた人たちがこの部類に入るのでしょう。「失敗体験が成長させる」といいますが、そういうことは確かにあります。

しかし、これを人材育成の一環としてやろうとすると、かなりの難しさがあります。失敗しても良い仕事は絶対にありませんから、最終的に取り返せる程度の失敗、大きな影響がない程度の失敗に収まるように、うまくコントロールしたうえで経験させなければなりません。しかし、そんなに都合が良い失敗はなかなか作り出せません。
一般的な人材育成であれば、ある目標とスケジュールとを設定して、それに対する到達度・達成度を評価しながら次の目標に向かわせるといった取り組みになりますが、それはあえて失敗体験をさせようということではありません。

目標未達は失敗の一種かもしれません。しかしこれは「厳しい経験を成長の糧にする」という失敗体験とは別の物です。偶然起こった失敗を指導材料にすることはできても、ちょうどよい加減で意図的に失敗させるのはたぶん難しいでしょう。

危険に触れて学ばせるという考え方

企業の人材育成の現場でも、「昭和の遊具」と似たようなことが起こっています。最近は、どちらかといえば危険を先に取り除き、できるだけ失敗をさせないように、自信をなくさないように育てていこうということが多いようです。まずは「成功体験」で自信をつけることが優先されます。
決めつけてしまうのはよくありませんが、最近の若手社員は真面目で打たれ弱い傾向があるといわれることに合わせた指導方法かもしれません。

「危険は排除するか、それとも触れさせて学ぶか」というテーマに正解はありません。私は「両方必要で、そのバランスは状況によって変わる」と思います。
遊具のように公共の場にあって誰でも利用する可能性があるものは、利用者全員にとって安全な状態にしなければなりませんが、例えば体操選手に「高い鉄棒は危険だから禁止」とはなりません。予見できる危険への対策を施したうえで、その人に最大限のチャレンジを求めます。

安全は「既知」のこと、危険は「未知」のことと考えれば、過度に安全を求めると「既知」のことしか経験できなくなります。成長するには「未知」の経験をしなければなりません。人材育成のためには、その人のレベルに合わせたアレンジが必要となります。

意図的に「失敗体験」をさせるのは難しいことですが、今よりもう少しだけ「危険に触れて学ばせる」という考え方も、成長を促すためには必要ではないでしょうか。

次回は8月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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