第106回 仕事の中での「自覚がない依存」という話

「依存」に陥らないようにする意識は多くの人が持っていますが、仕事の中では「自覚がない依存」が起こりやすく、それに気づかないままでいることは、自身のキャリアなどに良くない影響を及ぼします。

仕事の中での「自覚がない依存」という話

「依存」という言葉は、あまり良い意味では使われないことが多いと思います。

仕事の中でいえば、過度な依存は「属人化」などの弊害を生み、周囲から見えなくなることで「不正」の温床になってしまうことがあります。仕事をするうえで「できるだけ依存に陥らない」という意識は、立場を問わず多くの人が心がけていることでしょう。

ただ、仕事の中では数多くの「自覚がない依存」が存在しています。その理由は「指示」「命令」「権限移譲」「依頼」「協力」など、組織で仕事をする中で普通に行われていることと、「依存」との区別がつきにくいことです。

ある中小企業での例

これは社員50名ほどのある会社でのことです。管理部門担当のベテラン女性社員が定年を迎えて退職することになり、業務のIT化も進んでいることから欠員補充はしなかったそうです。
退職する女性社員は、社歴が長かったことと、会社がまだ少人数だった頃からの経緯もあって、社長の秘書的な役割も担っていました。ちょっとしたスケジュール管理やアポ取り、事務的な手続きなどの対応です。

この女性社員の退職後のことですが、社長が管理部門の社員に自分の出張手配を依頼しました。そこである若手社員から、こんなことを言われました。

「それは私たちがやらなければならない仕事ですか?」

確かに管理部門の正式な業務ではありませんので、特に引き継ぎはされていません。社長が業務命令だと言い切ってしまえば仕事になるのでしょうが、本人が自分でやれば済むことでもあります。これが大企業であれば、庶務課や秘書課などの職務の中に組み込まれていますが、中小企業はそうではありません。
その後この会社では、社長のスケジュール管理は基本的に本人が行って、その情報を管理部門にも共有することとし、事務手続きなどは社長が必要に応じて、管理部門に「協力」を「依頼」することとしました。これまで何となく「依存」していたことを、明確に切り分けたということです。

シニア起業された方の例

また、これはある会合でのことですが、その中に大企業を退職してシニア起業をしたばかりという人がいました。社会経験豊富で、話しぶりからも優秀さが分かる人です。
少し話を聞くと、実は仕事があまりうまくいっておらず、どうしたら受注できるのか、どう営業すればよいのかなど、まった全く見当がつかないそうです。前職では営業経験が一切なく、そもそも営業のきっかけをどうやって作るかということさえ全然想像ができないといいます。

自分なりに考えて、顔が広そうな知人や知り合いの経営者などに仕事の紹介を頼んで回ったり、営業代行会社と契約したりしているそうですが、どちらも全く音沙汰がないそうです。「なぜ紹介がないのか」と、かなり強く不満を語っていました。
私なりにアドバイスはしてみたものの、ちょっと自分で調べれば分かりそうな初歩的な質問も多く、事業を経営する者の姿勢としては問題を感じます。それは「自覚がない依存」が多すぎるからです。
本人は自分が全てを取り仕切っているつもりかもしれませんが、実際には「経験がないから……」と言って、他者に依存していたり他人のせいにしたりしています。またそのことをあまり自覚していません。

他人から何か紹介してもらうには、相手にもそれなりのメリットがなければ成り立ちません。そのことを理解していれば不満を言うことはないはずです。

「依存」を見極めるポイント

仕事の中での「依存」は区別しづらいといいましたが、これを見極めるポイントが二つあります。

一つは「依存」と思われる場面の多くは、「個人的なメリットを一方的に求めている」ということです。

出張手配のことでいえば、ただ自分が面倒だから他人にやらせるのは「依存」ですが、そこに要する時間で他の価値を生み出せるなら、「指示」「命令」「依頼」「協力」などと言い換えられます。それが全体最適になるのかという視点です。
これは仕事の紹介でも同じく、お互いのWin-Winがなければ成立しません。一方的な要求は「依存」でしかなく、それに応えるかどうかは相手が決めることです。Win-Winになれば、「依存」ではなく「取引」になります。
丸投げは自己中心的な「依存」ですが、仕事内容を理解したうえで任せれば「権限移譲」です。

もう一つは、「組織力と自分の実力との混同」です。

会社ブランドなどによる成果を自分の力と勘違いしてしまうことで、「自覚がない依存」が特に起こりやすいところです。知らないうちに誰かが処理、サポートしてくれている、自分を優先してくれているといったことは、今の会社にいればこそということが数多くあります。大企業の方がその傾向は強くなりますが、組織に属していれば多かれ少なかれ誰でもあることでしょう。
この全てを自分の実力だと思ってしまうと、「自覚のない依存」が増えていき、ある時に現実を思い知って愕然としたりします。これを防ぐには、「依存しているもの」を常に意識して、自分の力を客観視することです。「依存」は決して悪いことではなく、そのことを自覚していればよいのです。

仕事のやり方や自分のキャリアなどを考えていくにあたって、「自覚のない依存」はどこかで何かしらの害を及ぼします。それを自覚できるようにすることは、自分の人生を考えるうえで、意外に重要なポイントではないかと思います。

次回は7月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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