ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第2回 コンサルタントの力が及ばない「偶然の巡り合わせ」のお話
今回は、偶然の巡りあわせがその後の組織変革につながった、ある会社での経験です。
人事制度構築のご依頼を受けたある企業で、社長様からいろいろお話をうかがっていくと、どうもマネージャーたちの仕事ぶり、マネジメントに不満を感じているようでした。
その様子を「言われたことしかやらない」とおっしゃいます。
そして「自分たちで考えられないから仕組みで決めなければならない」「だから詳細な人事制度が必要だ」というお話です。
私どもが企業のご支援をするにあたっては、事前に社内状況の把握をできるだけ詳細に行います。
この時は社員ヒアリングを行いましたが、そこで見えてきた課題の一つに、「情報共有不足」がありました。
この会社では、業績目標の提示は行われていたものの、特に事業計画書といったものはなく、業績や営業状況を共有する仕組みも整っていませんでした。
こんなことを社員の立場から見ると、社長の指示の意味や背景がわからないために、自分なりの理解も判断もできず、ただ指示に従うだけになってしまうということが、特にマネージャー層を中心にあるようでした。
社長様にはそれが「言われたことしかやらない」と見えていたようです。
会社で起こっている課題の原因が、ご依頼テーマの範囲外にあることは、それほどめずらしいことではありません。
そんな時には、関連する課題についてもいろいろお話をさせていただきます。
この時も、人事制度検討と合わせて、情報共有不足などの課題をお伝えしていきましたが、それについては「彼らに伝えたところで、どうせ理解できないよ」という反応で、興味も問題意識もあまりない様子でした。
そんな中で、人事制度検討のミーティングにおうかがいしたある日、この社長様が「来期の事業計画を作って、社員向けの発表会を行うことにしたので、内容のコメントと発表会への出席をしてほしい」とおっしゃいます。
急な変化にびっくりしながらお話をうかがってみると、いつも懇意にしている先輩経営者から、私どものお話と同じ時期に同じことを偶然言われたのだそうです。
事業計画書を作ることで社員たちがどんな風に変わっていったか、さらに「うちの会社ではこんなものを作っている」と計画書を見せられ、これはきちんとやらなければダメだと思い立ったのだそうです。
コンサルタントとして、どんなに自信を持った提案であっても、それをクライアントが納得して実行するとは限りません。
もちろん納得されるようにいろいろな働きかけをしますし、それが理解を得られないということは、コンサルタントの力不足に違いありませんが、経営者や管理者という立場の方々は、自分で考えて自分で決めるという姿勢の強い方がほとんどです。
自分の価値観や問題意識と合致しなければ、簡単には取り入れません。
そんな時、コンサルタントの力が及ばない偶然の巡り合わせが、結果的に大きな変化のきっかけになることがあります。
このあたり、私たちには偶然に見えても、その社長様は私たちの知らないところで自分なりに問題意識を持ち、情報収集をしていたのかもしれません。自分なりに考える時間も必要だったでしょう。
ただこれには、クライアントが納得するか否かに関わらず、コンサルタントが課題は課題としてしっかり意見具申をしておくことで、伝えた内容が多少なりとも意識されていたために、その後の動きに結びつくという部分もあります。
偶然の巡り合わせなどに頼らず、クライアントのお役に立てるようにすることが、我々コンサルタントの立場ですが、なかなかそうはいかないことがあるのも事実です。
他人の意識を変えるなどという大それたことは、そう簡単にできることではありません。
ただ、変化のきっかけを作るために、感じたことをいろいろお伝えしていくということは、コンサルタントとして重要な役割なのだということを、あらためて感じた経験でした。
次回は11月26日(火)更新予定です。
前の記事を読む
次の記事を読む