第18回 「出戻り歓迎の会社」と「送別会禁止の会社」のお話

社員を雇用している限り、退職者が永遠にいないという会社はありません。社員の退職については、それぞれの会社でさまざまな経験があると思います。円満退職と言える場合も、そうではないトラブルに遭遇した場合もあるでしょう。
ただ、どんな場合であったとしても、特に経営者は、その程度に差はあるとしても、社員に対する思い入れを持っていますから、退職していく人には当然何らかの感情を持ちます。

退職に至る理由は、人によって本当に千差万別でさまざまですが、送り出す会社側の感情というのは、大きく分ければ二通りだけです。

「もっと成長できるように頑張れ!」
「仕事は変わっても付き合いは続けていこう」
「応援しているぞ」
「いつでも戻ってこい」
など、前向きに送り出そうというポジティブな感情の場合か、

もしくは、
「せっかく目をかけていたのに裏切られた」
「これからが肝心なのに…」
「なぜ今辞めるんだ」
「もう顔も見たくない」
など、否定やわだかまりのネガティブな感情を持っているような場合です。

前者は円満退職で、後者はそうではないとも言えますが、普通に見れば円満退職であっても、人によって感じ方は違うので、本当の意味での円満退職は、意外に難しいことなのかもしれません。

私がこれまで関係したクライアントの中に、この退職者に対する考え方がまったく正反対と言っても良い二つの会社があります。
一社は一度退職してしまった人とも関係を継続し、あらためて会社に呼び寄せたり、本人が復帰を希望したりすれば積極的に受け入れをするような「出戻り歓迎の会社」、もう一社は「退職者の送別会は禁止」というような、辞めていく者に対して厳しい態度を取る会社です。

この「出戻り歓迎の会社」では、一度会社を辞めた人であっても、その人の働きぶりや人となりを知っていること、外の空気を吸った上であらためて自社を良いと思ってくれたことなど、出戻りを“より望ましいこと”ととらえています。もちろん中にはおかしな辞め方をする人もいると思いますが、多くの退職者に対して「頑張れ!」といって盛大に送り出し、その後も関係を継続しようとします。

また、「うちは出戻り歓迎だ」と公言し、実際に戻りたいという人がいれば、できる限り誠実に対応します。社員は会社のこういう姿勢や出戻ってくる人の様子を見ているので、自社は世間一般の中でも良い会社であると認識するせいか、退職者自体も少なくなっています。

ここまでの割り切りはなくても、会社を辞めて独立した人や元社員の転職先の会社と、その人を介して仕事上の関係を持ったり取引をしたりするようなことは、それほど珍しくはないと思います。最近は「出戻り歓迎」も含めて、こういう考え方の会社が増えてきています。

一方の「退職者の送別会は禁止」の会社では、その理由を社長にたずねてみると、「目をかけて、一生懸命仕事を教えて、家族と同じと思って接してきた人間がドライに辞めていってしまうことを、本心ではどうしても許せず素直に送り出す気持ちになれないから」とおっしゃっていました。
実際の送別会は、中には内輪でこっそりやっていることもあるようですが、会社として公式には、定年まで勤め上げた人でなければやってはダメなのだそうです。

多くの人は、この「送別会禁止の会社」にはあまり共感できないのかもしれませんが、見方を変えれば、「それほど社員に真剣に向き合った証拠で、それゆえに失望も桁違いに大きい」とも言えるので、一概に批判はできないように思います。
このあたりは根本的な人間観の違いでもあり、辞めた人をそのまま“仲間”として思い続けるか、“裏切り者”のような感情で付き合うべき人ではないと思うかの違いです。

ただ、これはもうあらためて言う必要のないことでしょうが、“裏切り者”とは二度と付き合えないわけで、二度と付き合えないような人は、ビジネス的には少ない方が良いに決まっています。
ビジネス環境が厳しい昨今だからこそ、今までは退職者との関係にあまり注目していなかったような会社でも、自社の人脈として縁をつないだ方が得策だと考えるようになり、それが「出戻り歓迎」にもつながっているのだと思います。

また、「出戻り歓迎の会社」には、もう一度その会社に戻りたいと思う元社員たちが存在するということですが、そう思われる会社というのは、自社の市場価値や業界内での位置づけに敏感な会社が多いように思います。従業員満足という視点を持ち、社員との関係に注意を払い、他社の動向も見ながらさまざまな企画や仕組みづくりなどの取り組みをしています。人材が集まってくる会社は、やはりそれだけ競争力が高い会社です。

私たちのようなコンサルタントがお仕事の依頼をいただくのも、本当にご縁であることが大半です。人とのつながりや“仲間”と呼べる人の数は、多いに越したことがありません。
私は「送別会禁止」の会社も、一歩進んで開き直る事ができれば、もっと新しい世界が開けて来るように思うのですが、皆さんの会社の考えはいかがでしょうか。

次回は月3月24日(火)更新予定です。

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この記事の著者

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小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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