第19回 新しい制度に期待し過ぎてつまずいた会社のお話

人事制度は私が関わる機会の多いテーマですが、企業がこれを整備しようと考えるきっかけには、大きくふた通りあります。
「企業規模の拡大や、それに伴う組織化の必要性など、会社の新たなステップに向けてという場合」と、「既に運用している制度はあるものの、方向性が合わない、実態と整合性がないなど、思うように機能しない状況が生じている場合」とのいずれかです。

先日、人事制度を見直したいということで紹介を受けてうかがった会社は、どちらかといえば後者の状況に当たる会社で、お会いした担当者の方は今一つ浮かない顔をしていました。

状況をうかがうと、今運用している人事制度は、それまで積み重なってきた課題を一掃するべく、一年ほどの検討期間を経て、数年前に導入されたものだそうです。
しっかりとした理論に基づいた先進的な制度にしたいと考え、制度検討には社外の専門家にも参加を依頼し、そのアドバイスに従って、当時大手企業でも導入され、成功事例として紹介されていた考え方に則った制度を導入しました。会社としては相応の投資をした期待の人事制度だったそうです。

しかし運用を始めてみると、社員からの評判は散々なものでした。
その理由はさまざまで、「基準がわかりにくい」「手続きが多すぎて手間がかかりすぎる」といった基本的な運用に関わるものから、「こんな仕組みに意味があるのか」「なぜこの制度が必要なのか」といった制度に対するそもそも論まで、批判は社員すべての職種や階層におよび、まさに総スカンと言ってもよい状況だったそうです。担当者の浮かない顔には、こんな事情があったのでした。

 

お話をうかがっていく中から、この人事制度がうまく運用できなかった原因と思われることが二つほどありました。
一つは、社外専門家の意見に依存し過ぎて、この会社の現状に合わない制度を導入してしまったということ、もう一つは、制度を作ったり変えたりすることで、“何か全ての問題が解決する”、“画期的に変わる”と、効果を過度に期待していたということです。これはどちらも、人事制度見直しやその他制度導入を考える際には、ときどき見受けられることです。

ご相談いただいたこの会社は、地方に本社を構え、伝統食材を製造し販売する会社でした。
工場を含め、国内拠点が3カ所、社員数は200名ほどで創業50年を超える会社ですが、この手の会社は現場で働く職人的な方々も多く、いろいろなことがまだまだ属人的に動いていることが多いものです。
実際に聞くと、やはり制度の整備はあまり進んでいない部分が多く、仕組みや制度によって組織を動かすという機会も、それほど多くなかっただろうと思われます。

こういう会社には、見えている課題の原因を「仕組みがないから」「制度が悪いから」と考えがちなところがあり、「制度を直せば課題が解決する」「画期的に変わる」など、制度の効果に過大な期待しているところがあります。現場があまり把握できていない経営者や管理職、間接部門の人は、こういう考え方に陥りがちな傾向もあります。

制度への期待が大きい会社ほど、その検討をしっかりやろうと考えます。
この会社が社外の専門家に依頼したことはその証明ですし、それ自体は悪いことではありませんが、専門家にもいろいろな人がいます。今回、大手企業の事例を持ち込んでいるということは、逆に中小企業の対応経験が少ないのかもしれません。
また、現状からの変化が大きければ大きいほど、反感が強くなったり運用が難しくなったりということがあります。例えば、現場の職人さんに「コンピテンシー」「成果主義」などと言っても、簡単には受け入れられないでしょう。
結果としてうまく運用できなかったということは、その会社に合った制度ではなかったということになります。

人事制度の場合でいえば、対象としているのは「人」ですから、最後は個人の感情の部分までつながってきます。仕組みそのものの問題だけでなく、誰が何をしたか、コミュニケーションの取り方、お互いの人間関係、その他いろいろな要素によって、制度がもたらす効果は変わってきます。
他社の成功事例がそのまま自社に当てはまらないのは当然として、途中の進め方一つで反応はかなり変わります。やはり「人」が対象ということで、運用に左右される要素は大きいのです。

人事制度のような社内の仕組みというのは、それができたからといって、課題が解決されて一件落着になることはほぼありません。変化の程度が大きいと副作用が増え、変化がなければ制度を変える意味がありません。運用している間に社員も慣れて安定してきますが、慣れによって良くも悪くも変化が止まるという面もあります。

組織改革は、やはり制度と運用の両面から、その様子を見極めながら、時間をかけて徐々に変えていくものです。「制度はできたところがスタート」という認識を持っておく必要があると思います。

次回は月5月26日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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