第75回 「権限委譲」のデメリットを気にする会社の話

上司が部下に仕事を任せる「権限委譲」は、生産性向上や組織効率の面で重要だといわれますが、当然デメリットもあります。しかし「権限委譲」を避けた弊害と「権限委譲」のデメリットには共通点がありました。

「権限委譲」のデメリットを気にする会社の話

組織作りのうえで、管理者が部下に仕事と行動を任せる「権限委譲」の重要性が説かれています。
そのメリットとしては「現場レベルの正しい情報による意思決定ができる」「意思決定のスピードが上がる」「自己決定できることで部下の意欲が向上する」「一つ上の立場で仕事をさせることで能力が向上する」「結果への納得性が高まる」などが挙げられます。

一方で「権限委譲」には当然デメリットもあります。
「権限委譲された者の能力不足で適切な意思決定ができない」「保身や責任回避の意識から好ましくない意思決定をしてしまう」「局所的なテーマに注目しすぎて部分最適だけを考えた判断をしてしまう」などです。
判断ミスが大きな事故を招く懸念がある職務の場合、その性質上「権限委譲」が向かないこともあります。

ある会社では、この「権限委譲」のデメリットを気にするあまり、さまざまな意思決定は社長をはじめとした一部役員と管理職に集中していました。このやり方で一番問題になるのは意思決定のスピードで、多くの場合はペンディングや積み残し事項が増えていく傾向にありますが、その点、この会社では意思決定をする上司全員がとても細かく情報収集をしていて、即断即決が徹底されているので問題になることはほぼありません。

ある会社で起きた、社員の困った現象

そうはいっても、社員たちの中では困った現象がいろいろ起こっています。
最も大きな問題は、社員たちが「自分で考えようとしないこと」です。何の意見もなく「どうしましょうか?」と課題を丸投げしてくるのです。そういう姿勢を叱責(しっせき)することもありますが、いくら言っても考えられないものは考えられません。
「自己決定できない」ということに関して、普通人間はストレスを感じるといいますが、自分で考えない、判断しないことに過剰適応しているのか、不満を持っていそうな人は見当たりません。たぶん適応できなかった人は会社を去っているような経緯もあるのでしょう。

結果として意思決定を担う上司に仕事が集中し、その人がいないと組織が回らないという状況になっています。こうなると、上司はさらに細かいことまで情報収集をして、個々の社員の担当にまで立ち入っていかなければなりません。
「権限委譲」をしようとしても、部下たちにはそれを担う能力がなく「権限委譲」どころか「権限集中」の方向にどんどん流れてしまう。こうなると、もう組織とはいえなくなっていきます。

任せ方を考える

「権限委譲」を実行するに当たっては、そのデメリットを認識したうえで任せ方を考えなければなりません。
能力面では問題点を早期に把握し指導も同時に行わなければなりませんし、仕事は失敗から学ぶことも多いものですから、任せたからには多少のミスには目をつぶることも必要です。まずやらせてみなければ、部下は育ちません。うまく失敗させるようなさじ加減も必要になります。

このように「権限委譲」を進めるには、相応の環境作りと当事者の心構えが必要です。
一般的にいわれる組織原則の一つに「権限・責任一致の原則」があります。「責任を負わせるならば、それに見合った権限を与えよ」ということですが、このバランスを欠いた「権限委譲」を往々にして見かけます。
「任せた」と言いながらいちいち口出しをして結果的に任せていない場合や、同じく「任せた」と言いながら、そのための環境作りが何もされていないような場合です。

実際の判断を「権限委譲」しないのは、上司による仕事の抱え込みで部下の仕事を奪っているともいえますし、環境作りがされないままでの「権限委譲」は、無責任な仕事の丸投げです。それぞれの行為は部下育成を放棄しているのと同じことで、それでは部下は育ちません。
「権限委譲」をしてもしなくても、それが失敗した場合の結果はどちらも「部下が育たないこと」です。結局は「適切な権限委譲をしなかったことによる弊害」という感じがします。

「権限委譲」のデメリットばかりを気にして避けていることでの問題と、逆に「権限委譲」はしていても、そのやり方を間違っていることで起こる問題は「部下が育たない」という点で共通しています。
このようなことからも、組織作りの中で「権限委譲」を適切に行うのは、とても重要なテーマだといえるのではないでしょうか。

次回は12月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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