第74回 上司の介入で「資料」と「会議」がエスカレートする会社の話

働き方改革を進めるための議論の中で「上司が部下の時間を奪っている」という話がありました。あるきっかけで社員の仕事ぶりが正反対に変わってしまった会社では、まさにそれを実感させることがありました。

上司の介入で「資料」と「会議」がエスカレートする会社の話

まだ「働き方改革」が始まったばかりの頃、大手企業の経営トップらが参加して、長時間労働の是正や働き方改革について話し合ったシンポジウムに関する記事を目にしました。
ある社長は「働き方改革は競争に勝ち抜くためにどうしても必要で、トップがコミットし続けないと元に戻ってしまう」と経営者の役割の重要性を述べ、また別の社長は「部下の時間を奪っているのは上司だ」と話して、無駄な資料作りや会議の削減を徹底していることを紹介したそうです。

この「部下の時間を奪うのは上司だ」という言葉には、私にも思い当たることがあります。
あるきっかけで、社員の仕事ぶりが正反対に変わってしまった会社のことです。

現場主導の組織風土

その会社は、当時は伸び盛りだった技術系企業で若手社員が比較的多かったこともあり、フラットな組織風土を持っていました。経営方針や事業計画がわりとしっかり作られていましたが、日々の業務を進める際の判断は現場に任されている部分が多く、上司もできる限りその判断を尊重する雰囲気がありました。
また定例の社内会議はあるものの、資料は最低限で会議の回数も限られており、それほど時間は要しません。社員数は数百名規模でしたが、そのやり方でも十分だったということでしょう。

しかし、この会社もいつまでも順調のままとはいかず、業績的に厳しい時期を迎え、それまでの現場主導のやり方がマイナスに転じ始めます。
それぞれの現場では、自分たちが主体的に判断することが染み付いているため、全社的な守りの施策、事業の取捨選択、方向転換が必要となったときに、経営陣のリーダーシップが足りないという事態が起こります。
会社方針を打ち出しても現場は言うことを聞かずに、それぞれが良かれと思って実施する対策は統一感がなくバラバラに動くため、あまり効果を生みません。「自分たちの施策を他部門が邪魔する」といった他者批判も始まります。
その後、ある企業グループの支援を受けて建て直しを行うことになり、最終的には吸収合併という流れになりました。
そしてここで、それまでの企業風土が正反対に転換されることになります。

官僚的な企業風土

吸収した親会社は、どちらかといえば上意下達の色が濃い、官僚的な企業風土の会社でした。部下より上司の権限が強いのは当然ですが、この会社の管理職はどんなことにも口を出して、現場の判断がそのまま通ることはほとんどありません。
さまざまな手続きを踏み、社内各所に根回しをして、そこまで必要なのかというところまで決裁をもらわなければ、物事を先に進めることができません。

また手続きを踏んでも、役員の「鶴の一声」で振り出しに戻るということも珍しくありません。全ての事案について上司の介入度合いが強く、それが少々行き過ぎた感があります。とにかく社内説明や根回し、手続きといったことに費やす労力が膨大です。

数十ページに及ぶ社内プレゼン資料が作られ、上司との間で提出しては差し戻しの行き来が何度も繰り返され、さらにその上の上司との間でも同じことが繰り返されます。
この行き来を避けるために、説明資料はさらに詳細になり、会議をする回数も増えていきます。何か本末転倒な気がしますが、親会社ではそれが当たり前なのです。

気の毒なのは吸収された会社の社員たちです。あれほど現場主導でスピーディーに動いていた人たちの仕事ぶりが、正反対に変わってしまいました。それになじめない多くの社員が会社を去っていきました。

組織の効率性を考える

上司が責任を持って適切な判断をするというのは組織のあるべき姿ではありますが、その一方で、現場から遠いところで全ての判断が行われるのは、仕事の効率が間違いなく下がります。
現場主導も上意下達も、要はそのバランスが大切なのであって、どちらかに偏り過ぎるのは好ましくありません。私の経験としては、現場の事情をあまりよく知らない上司が強く介入してくればくるほど、それに対する説明や説得に時間がかかり、会社としては明らかな非効率に陥ります。

究極の効率的な組織というものは、ある一つの事象に対して、経営者から末端の一般社員までが同じ判断ができる組織だといわれます。一部の承認手続きなどを除き、業務遂行に関わることは全て現場判断ができて、それが全社見解に合致していることが最も望ましいということです。
そんな組織はおそらく世の中に存在しませんが、あるルールの下にできる限りの権限委譲を進めることは、組織の効率性を考えると大事なことです。

この事例では、まさに「上司が部下の時間を奪っている」という言葉を実感しましたが、こればかりは部下の立場からではどうにもできない部分であり、上司側が意識して変えなければならないことです。
「働き方改革」を進めていくうえでは、「部下の時間を奪わないマネジメント」が求められています。

次回は11月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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