第73回 「結束の強さ」を自画自賛する会社に感じる怖さの話

組織の「一体感」や「帰属意識」が重要視されますが、これらが行き過ぎることによるデメリットがあります。結束力に自信があるという会社では、別の形の問題が起こっていました。

「結束の強さ」を自画自賛する会社に感じる怖さの話

多くの会社で重視されていると感じることの一つに、組織の「一体感」や「帰属意識」といったものがあります。社員同士の結束の強さはそのまま組織の強さにつながるとして、さまざまな取り組みが行われていますが、実際に行われるのは各種ミーティングやオン・オフ両方での社内イベント、社員同士の交流、そのほか一般的といえる人事施策です。
報奨制度やインセンティブ制度などで、社員同士に競争意識を持たせて活気付けようとしたり、職場環境整備をはじめとした「社員にやさしい制度」で居心地を良くしたりすることも、広い意味では会社の「一体感」や「帰属意識」を高める一環でもあります。
このあたりは、どちらかといえば中小規模の企業の方がこだわりは強く「少数精鋭」などといい、さらに強い結束を求めるところもあります。
こういった取り組み自体はこれからの人手不足時代を考えても必要なことですし、さらに多くの企業がさまざまな取り組みを進めるようになっていくでしょう。

そんな中、先日ある会社で「結束の強さ」が話題に上りました。その会社は、自社の「社員の結束力」にはとても自信があると言います。仕事ではお互いが協力する姿勢が強く、自分勝手な行動を取る者はいないそうです。プライベートでもみんな仲が良く、食事会や飲み会、レクリエーションイベントが頻繁にあり、その参加率も高いそうです。
働いている社員の表情を見ていても、確かにみんな和気あいあいとした感じがあります。

ただ話を聞いていくと、いろいろと気になることがありました。

気になる点1:早期退職者の数

一番は退職者が意外にも多いことです。しかもわりと入社後すぐの早期退職が多いのです。会社としては、このことに対する問題意識はあまり持っていないようで「会社に合わない人を無理やり引き留めても仕方がない」などと言います。
また最近は退職者の出戻りを認めるような会社も増えましたが、この会社ではそんなことは言語道断といった雰囲気です。ちょっと言い過ぎかもしれませんが「退職は裏切り」といったイメージのようです。

気になる点2:取引先とのトラブルの数

もう一つは、それほど大きな問題ではないものの、顧客や取引先との小さな行き違いやトラブルが多いことです。具体的にはクレームを簡単に突っぱねたり、自社都合を一方的に押し付けようとしたりして、そのせいでお互いの関係性が何となく悪くなっています。一方で、懇意にしているような顧客、業者に対しては対応が手厚かったりします。要は自分たちと仲が良い人たち以外には冷たいのです。

こういった状況を「社員の結束力が強い」と自信満々に言ってしまうことに、私は少し怖さを感じました。

内集団バイアス

社会心理学の用語として、「内集団バイアス」というものがあります。これは、自分が帰属している集団には好意的な態度を取り、外の集団には差別的な態度を取る心理現象のことをいいます。
「内集団」とはその人本人が所属していて、自分がメンバーであると認知している集団のことで、学生であれば学校やクラス、会社員であれば会社やその部署などに当たります。これに対して、自分が帰属していない集団や結び付きが弱い集団、対立している集団などは「外集団」といいます。

そして、人間には自分が所属する集団を評価したいという欲望があり、そのため「内集団」の評価はより高く、「外集団」をより低く評価したいというバイアスがあるそうです。自分の身内は大事にするけれど、知らない人は完全に無視していたり、何かあれば徹底的にたたいたりということで、例えば「女性は論理思考が苦手」だとか「外国人に犯罪行為が多い」といった決め付けや「母校の後輩だから大目に見よう」などといったひいきなども該当します。
これらは自尊心を満たしたいという心理であり、「内集団」の結束が高まるほど「外集団」には攻撃的になるのです。

さらに「内集団」の中で劣っていると認識された者、集団の価値観から逸脱していると見なされた者を過剰に低く評価して、集団から排除する「黒い羊効果」と呼ばれる現象があります。攻撃性の矛先が「外集団」に、さらには身内に向かうこともあるということです。
組織になじんでいると思っていたら、急に手のひらを返されるようなこともあり得るわけで、ちょっと怖さを感じます。

余計な対立を生む「結束力」とは

会社の中で、俗に「セクショナリズム」や「他責」といわれる問題があります。マネージャーによっては、自分の部署の結束を高めるため、他部門より優れている意識をメンバーに植え付けたり、他部門を攻撃して優位に立とうとしたりする人がいます。
これは自部門にとっては都合が良いかもしれませんが、組織の全体最適を考えると決して良いことではありません。
このような手法で組織をまとめようとしても、一時的には良くても、その後のちょっとしたきっかけで組織がバラバラになってしまうことがあります。自尊心を高揚させることで結束を保とうとしても、決して長続きはしません。

会社全体としても「一体感」「帰属意識」「結束力」といったことを強調しすぎると、自分と他人、敵と味方のように、人を「内集団」と「外集団」に切り分けるようになり、組織の内外問わずに余計な対立を生んでしまいます。
それは本当の意味での「結束の強さ」ではありません。

組織の「結束力」の裏に「内集団バイアス」のような、人間が陥りやすい心理があることは知っておく必要があります。

次回は10月23日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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