第72回 「他社事例」ばかり欲しがってそれを活かせない会社の話

人事コンサルタントとして、人事施策や制度の「他社事例」を求められることは多く、最近は事例ばかりを欲しがる傾向を感じますが、人事の「他社事例」は、ただ真似しても本当の意味で活かすことはできません。

「他社事例」ばかり欲しがってそれを活かせない会社の話

人事、組織のコンサルタントという立場でいろいろな会社にうかがっていると、特に人事施策や制度に関して、「他の会社ではどうやっているのか?」と聞かれることが多いものです。

その会社で起こっている人事課題について、第三者の立場で客観的に見れば、今の会社状況であれば十分に頑張って取り組んでいると思われることでも、社員から「他の会社は・・・」といって不満が出ることがありますが、そういう場合に、私たちのようなコンサルタントが他社の様子を説明すると、意外に納得してくれたりします。
もちろん、会社の取り組みが不足していると見れば、会社に対して制度導入や施策推進を提案しますが、ここでも「他の会社では・・・」という事例を示した方が、納得を得られやすいです。

特に人事施策というのは、その会社の商品とは違って、あえて対外的に広報するものではありません。最近は採用ブランディングなどの目的で、自社の人事理念や人事制度について説明している資料を目にしますが、概略はわかってもそこまで詳細なものではないので、運用実態や課題といったことはほとんどわかりません。

どんな会社も、自分たちのやっていることが世間一般から見てどうなのか、他の会社にはどんなアイデアがあるのかなどの事例はとても知りたいことであり、私が企業人事だった頃も、そんな他社事例をいろいろなアンテナを張って集めていました。
今はコンサルタントの立場ですが、私たちのような社外リソースから得られる生の情報が、企業側から重要視されていることを実感します。

ただ、他社事例を見ていく中で注意しなければならないのは、「隣の芝生は青く見える」ということです。
自分の家の芝生は近くで見るので傷みがすぐ分かるけれども、他人の家の芝生は遠くから眺めるので、傷みがわからずきれいに見えるという意味で、「他人のものはよく見えてしまう」ということですが、「他社事例」には同じような危険が潜んでいます。

これはある会社でのことですが、社長を中心にことあるごとに「他社事例がほしい」と言います。一般論を理解しないとその事例の意図や価値がわからないことがあるので、いろいろ説明をしますが、そんな話には耳を貸さず「とにかく事例が欲しい」と言います。
実際に他社の成功事例などを聞きかじってきて、「これはいい」などと言ってそのまま導入しますが、私たちからすると、ベースになっている環境があまりに違うので、そのままではうまくいかないことが目に見えています。
軌道に乗せるためにさまざまなアレンジを提案しますが、「他社でできたのだから自社でもできる」といって譲りません。そのうちうまくいかないことがわかって運用が尻つぼみになり、いつの間にか立ち消えになります。しばらくするとまた違う他社事例を見つけてきて、取り入れようとしますが、やはり結果的に運用できない悪循環になっています。

この会社の例は極端ですが、最近はコンサルティングでも研修でも講演でも、「具体的な事例を」と言われることが増えました。私たちコンサルタントに向けて「“隣の芝生”が見たい」という要望が多い訳で、その気持ちはとてもよくわかりますが、気になるのは何かとすぐに答えを欲しがる「マニュアル主義的な傾向」です。

今は何でもインターネットを通じて調べることができ、自分で悩んだり考えたり、わざわざ作り上げたりしなくても、すでにあるものをそのまま引っ張ってくることが簡単にできます。すぐに答えに行きつくことが、当たり前の感覚になっています。
私たちも、ネットを通じた情報収集はかなりやりますが、そんな中で人事に関する他社事例や参考資料は、ありそうで意外に少ないと感じます。あるにはあるけれども、その場面にピッタリ合っておらず、導入しようとしても、そのための周辺情報があまりにも少ないという感覚です。
「他社事例」はあくまで材料として、自分たちなりのアイデアでアレンジしていかなければなりませんが、どうも「すぐに答えを!」と言われることが増えています。

「他社事例」には、有意義な情報が数多く含まれています。他社と比較をすることで、自社に足りないことばかりではなく、良い部分や優れている部分も知ることができます。
営業や開発といった立場であれば、ライバル企業や競合他社の動向を常に気にかけて、先に仕掛けたり、追いかけたりしますが、人事の場合は、「世の中のすべての会社が競合他社」という捉え方ができます。全く異なる業種や規模が全然違うような会社でも、取り入れている人事施策や制度は参考になることがあります。

「他社事例」に全く興味がない人がいますが、これは自ら情報遮断をしているという意味で、あまり良いことではありません。
一方、「他社事例」ばかりを欲しがって、それを安易に真似しても、良い結果につながることはほとんどありません。それを参考にして、自分たちなりに考えて実行し、その後も継続して改善することができなければ、本当の意味で「他社事例」を活かしていることにはなりません。

私たちのようなコンサルタントは、「他社事例」に関してできる限りの情報提供をし、それをどうやってその会社に活かすかを、一緒に考えていくことが大事な役割だと思っています。

次回は9月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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