第97回 「社員に対する優しさ」の視点が違う二つの会社の話

従業員満足を感じる要素は社員それぞれの主観で千差万別ですが、これは会社の立場でも同じで、「社員に対する優しさ」を自負する二つの会社では、それぞれ考える価値観は全く正反対のものでした。

「社員に対する優しさ」の視点が違う二つの会社の話

会社それぞれが重視している価値観は異なる

求人倍率というのは、その時の社会状況で上がったり下がったり揺れ動くものですが、少子高齢化の大きな流れの中で労働力人口が減っていく方向は変わりません。人手不足は各所で見られ、採用に苦労する企業も増えていますが、そんな環境もあってか、「従業員満足」や社員との深いつながりを意味する「エンゲージメント」を重視しようという会社が増えています。一時期話題が多かった「ブラック企業」に対する反動も一因としてあるでしょう。

「従業員満足」「エンゲージメント」というのは、個人の主観による部分が多く、感じる基準や感じ方は人それぞれです。給料が高ければそれで満足するというものではありませんし、他にも仕事が面白い、人間関係が良い、社会貢献ができる、福利厚生が充実、企業の知名度など、それぞれ満足を構成する要素ではあるものの、それだけで社員全員が満足してエンゲージメントが高まるということはありません。満足などを感じる優先順位は、それこそ人によって千差万別で、関係する全ての要素を高めなければ、多くの人の満足にはつながりません。
「従業員満足」「エンゲージメント」は、これを会社の立場から見たときにも同じようなことがいえます。それぞれの会社によって、重視しているポイントや価値観が違います。

「社員に対する優しさ」への考え方が正反対の2社

某機械メーカーの例

以前うかがった某機械メーカーでは、私から見るとかなり古いスタイルの人事制度を今でもそのまま運用しています。定年まで多少なりとも給料は上がり続け、役職異動はあっても降格は絶対にありません。社員数の割に部門が細分化されていて、役職ポストもそれなりに用意されています。

社長に話を聞くと、降格などはやる気をなくすからもってのほかで、同じ発想から給料を下げることも考えないそうです。業績が悪ければできるだけみんなで分かち合い、良い時にはみんなが頑張ったおかげと考えて、同じくみんなで分かち合います。ただ、年功重視の役職任命によるマネジメント不足が起こっていて、これが会社の課題となっています。
私にはほとんどがマネージャーの完全な力量不足に見えるので、異動や配置転換、さらに採用を含めた人の入れ替えを考えなければ解決は難しいと思うのですが、「役職を外す」と見えることは極力避けたい意向のようで、できれば研修や個別指導を通じて改善したいと考えているようです。
そうやって社員の活かし方を考えるのがこの会社の価値観で、「社員に対する優しさ」ということになります。ただ、現状では組織の硬直化と守りの姿勢が目立っています。

あるIT会社の例

これに対してあるIT会社は、会社と社員の関係がとにかくドライです。給与も賞与も成果に応じた時価精算の色合いが強く、減俸や降格にも全く躊躇(ちゅうちょ)がありません。仕事をする場所であるオフィス環境整備には投資していますが、その一方、仕事とは必ずしも直接つながらない福利厚生面などの改善には、ほとんど手をつけていません。
この会社の価値観は、仕事は仕事、プライベートはプライベートとけじめをつけることで、会社が投資するのは直接仕事に関わることのみと割り切っています。その時その時の仕事ぶりを評価し、その良し悪しははっきりフィードバックし、その成果に基づいて処遇をすることが「社員に対する優しさ」だととらえています。
この会社で不満となって出てくるのは、評価の公正さという問題が多く、ともすれば人間関係が希薄になりがちなところです。慣れ合いを許さず、不備や不満を放置せず、良し悪しやけじめをはっきりさせるので、組織としての活気はありますが、一体感とか和気あいあいとした雰囲気とか、そんな組織の情緒的な部分はあまり感じることができません。

見れば見るほど正反対の価値観の会社ですが、それぞれが同じように「社員に対する優しさ」を持っていると自負しています。

重要なのは会社と社員の価値観が共鳴できるかどうか

私がこの両社を見て感じるのは、「注目している視点の違い」です。
前段の会社では、ベテラン社員が多いこともあり、できるだけ変化を少なく雇用を確実に維持して安定的に働いてもらうことを主眼にしているように見えます。人の入れ替わりは少なく、社員同士は公私ともに深く付き合っています。
これに対して後段の会社では、変化を恐れずに変えるべきものはスピーディーに変え、その場その場の成果を重視し、実力のある者が上の立場で指揮を執ることが当然と考えています。結果として人材流出はありますが、それもある程度やむを得ないことと許容しています。

どちらの会社がより「社員に対する優しさ」が大きいか、私には判断できません。考え方が違う背景には、業種の違いや企業ステージの違い、年齢構成の違いや業績の違い、その他いろいろな要素がありますが、一つだけ言えることは、時と場合によってそのどちらの考え方も必要になってくるということです。

いつまでも現状を守ることでは会社は衰退していくだけですし、ドライでイケイケばかりでは、いつか頭打ちになる日が来るでしょう。
「社員に対する優しさ」というのは、ただ言うことを聞けばよい訳ではなく、既得権を守ってあげればよい訳でもなく、甘やかすということでもありません。もし会社がなくなっても市場価値がある人材にするために、厳しさを持って育成するということも、ある意味では社員への優しさといえます。

結局は、その会社の価値観に共鳴、共感している社員が多いほど、「社員に対する優しさ」が大きい会社といえるのでしょう。それが目指すべき場所になるのではないでしょうか。

次回は10月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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