第96回 組織改革なのに「あまり変えないでほしい」と言う社長の話

ある会社の人事制度改革で、社長は「できればあまり変えてほしくない」と矛盾したことを言いますが、その理由には、これまで会社が熱心に組織改革に取り組んできたが故の理由がありました。

組織改革なのに「あまり変えないでほしい」と言う社長の話

今のような変化の激しい環境下では、企業風土や人事制度など、さまざまな組織改革に取り組もうとする会社は増えています。この手の改革は、その取り組みをしていても異なる課題は次々に生まれてくるもので、さらにその課題への対応を追加していかなければなりませんし、思惑どおりに進まないことも多々あって、試行錯誤を積み重ねていかなければならないところがあります。
ある取り組みが終わったからといって、「組織改革、改善」が全て完了となることは少なく、短期・中長期の見通しを組み合わせながら、ほぼエンドレスのような形で継続していくことが大半です。
変化を恐れずに取り組みを続けることが大事ですが、そうはいっても「変わること」への不安な心理は誰にでもあるもので、「組織改革は継続が重要」と多くの人が言うものの、実際にはなかなか行動が伴わないところがあります。

制度改革で「あまり変えないでほしい」との要望

これはもう数年前の話になりますが、人事制度改革を検討しているという企業でヒアリングを行った時のことです。
社長から直々に、現状の人事制度の課題、今後に向けた基本的な考え方や方向性などの話を聞きましたが、挙げられた課題は他の多くの企業でも同じように起こっているものであることと、他社の取り組み状況から見ても、制度と運用との両面でそれなりに手間をかけて改革する必要があるということが、私の感想でした。

ただ、社長が最後に一言仰ったのは、「できればあまり大きな制度変更はしないでほしい」ということでした。組織に課題を抱えていて、それを解決するために人事制度を「改革」しようとしているのに、それを「あまり変えないでほしい」とは、かなり大きな矛盾があります。

また、そこからさらに話を聞いて分かったのは、この会社がこれまで組織改革に取り組んできた結果として、社内で起こっている問題でした。

この社長は、人事をはじめとした社内組織や制度、仕組み作りにとても熱心な人で、話しぶりから見ても自分でかなりいろいろ勉強している様子が分かります。
実際に運用されている制度もそれなりに作り込まれたもので、ただ型通りのものを持ち込んだわけではなく、自社なりに工夫がされた様子が分かります。課題があるとはいっても、それなりに運用されて一定の効果も生んでいると思われるものです。

組織や制度の改革への社員の反応

社長の熱心さに対して、社員たちは必ずしも同じ気持ちではありません。社長の意識が高すぎるところもあり、社員たちはそれについて来られない状況があるようです。
改革そのものへの不安や、「なぜこんなことをしなければならないのか」という不満が大きく、そんな社員たちの反応を見てきた社長の気持ちが、「できればあまり変えないでほしい」という話につながっているようでした。

しかし、ここで言われたとおりに「あまり変えない人事制度改革」をやっても意味がありません。そこで、まずは社員たちが感じている不安や不満の中身を、具体的にヒアリングすることにしました。
そこから分かってきたのは、これまで行われてきた制度や組織の改革に対して、「手間ばかり増えてその割に効果が見えない」と思っている社員が大勢いることでした。これまでもかなり頻繁に組織体制や制度、運用の見直しを行っていたようで、その意識に余計に拍車がかかっているようです。
つまり、組織や制度の改革といわれると、社員としては「面倒なこと」「手間が増える」「直接のメリットはない」などのネガティブなイメージしかなく、それがトラウマ(心的外傷)になっていたのです。実際には全くメリットがないということはありませんから、ムードやイメージでそうなってしまっている部分が大きいでしょう。
今までずっと社内で取り組んできた組織や制度改革を社外に依頼しようと考えたことも、「できるだけ変えないでほしい」という発言も、この状況からすれば十分に理解ができることです。

改革に「変えない」というオプションはない

その後、この会社で取り組んだのは、改革に対する社員たちのネガティブなイメージを変えることでした。実際にやったことは単純で、今の制度に対する理解と納得を得られるように個々の社員へ説明し、社員からの意見を聞いて必要なものは制度に反映し、場合によっては後退と見えるような制度変更も考えていきました。大きなジャンプのためには一度しゃがみ込むことも必要という考え方です。
これを地道に続けることで、組織改革に対するネガティブな雰囲気は徐々に払拭(ふっしょく)されていきました。

「組織改革」には本当にいろいろなパターンがあり、うまくいく時もいかない時も、その理由はさまざまです。そんな理由を明らかにし、「良い方向に変えるにはどうするか」を考えていかなければなりません。
ただ、一つだけ言えるのは、「改革」に“変えない”というオプションはないということです。それだけは忘れてはなりません。

次回は9月28日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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