第98回 「いかに上司に合わせるか」が強すぎた会社の話

「強いリーダー」の存在は悪いことではありませんが、強く押さえつけることはなかったとしても、特に人材育成の面ではその仕事の進め方によっては弊害が起こってしまうことがあります。

「いかに上司に合わせるか」が強すぎた会社の話

変化する組織運営の中で

これまで多くの企業と接してきて、組織内での上下関係の作り方というのは、その企業の風土や雰囲気が最もよく分かる要素の一つです。最近は若い世代を中心とした厳格な上下関係を嫌う傾向や、パワハラ防止、心理的安全性の確保といった観点から、よりフラットな人間関係を志向した組織運営を行う会社が増えています。しかし、数が減ったとはいっても、いまだに軍隊的な上下関係を保っているような会社もあります。このあたりの考え方は会社によって千差万別であるものの、自社の状況が世間一般と比べてどうなのかは、意外に自覚されていないことが多いものです。

ある中堅企業の例

これはある中堅企業で見かけた出来事です。その会社は社長を筆頭にリーダーシップが強い管理職が何人かいて、その人たちが中心となって組織運営をしている会社でした。
会社を動かしていくうえで「強いリーダー」の存在は決して悪いことではありませんが、そんなタイプの人たちには往々にして「強引に押し通す」「人の意見を聞くより自分の意見を先に言う」「好き嫌いが激しい」「白黒をはっきりつけたがる」といった傾向があります。
この会社のリーダーたちを見ている限りでは、そこまで強引でどうしようもないということはなく、他人の話を聞く耳も持っており、部下たちの意見にはそれなりに反応して、きちんと話せば理解を示して、それに合わせた対応をしています。

業績自体はまずまず良い会社ですが、私が見ていて気になったのは「若手社員の成長が遅い」ということです。いつまでも社長と中心メンバーの管理職たちが全てを仕切っている感じで、世代交代の気配が全くありません。そのことは社長をはじめとした管理職たちも自覚していて、「何とか部下育成をしなければならない」という認識を持っています。
社員の定着率は悪くありませんし、入社してくる中にはそれなりのリーダー素養を感じさせる人材がいるので、その人たちも含めて人材が育たないというのは、仕事環境や育成方法に関する問題が大きいと思われます。

自分の意思や考え方を表明できる社員を育てる

この会社の社員たちが仕事をしている様子から私が特に強く感じたのは、ほとんどの社員が「いかに上司に合わせるか」「いかに上司が気に入る行動をするか」など、上司のストライクゾーンに合わせようとする仕事の仕方が多すぎることです。
上司の顔色ばかりうかがって態度を変えるような社員を「ヒラメ社員」などといいますが、こびを売る、ご機嫌を取るといった表面的なことを取り繕おうとしている訳ではなく、本当に純粋に「上司の意向に沿ってこの仕事を進めるにはどうしたら良いか」を考えています。
真面目で信頼できる忠実な部下と思える反面、問題は「自分の意志や考え方の表明」がほとんどないことです。それをあえて尋ねても、出てくるのは上司から受けた指示のオウム返しか、ただ考え込んでしまうような状況です。

その後、この会社でまずやってもらったのは、社長と中心メンバーの管理職たちに「初めから自分の意見を言うのをやめてもらう」ということでした。
今まで自分たちでどんどん判断していたリーダーたちの手間は増えますが、まず部下たちに意見を聞き、なぜそう考えるのかという理由を聞き、そのうえで上司の見解や考え方を話し、お互いの認識ギャップを確認したあとで指示命令することを地道に続けてもらいました。その後2カ月ほどたった頃から、部下たちの動き方が徐々に変化し始めました。

まだまだ一部ではあるものの、上司の意見を鵜呑みにして考えずに行動することがなくなり、自分なりの意志や意見を持って行動するようになってきました。時には上司が見落としていた部分を指摘してきたり、今まで慣習的に行われていた無駄を正したりということが行われるようになりました。

「上司の意向に沿って仕事をする」ということは、組織で仕事をするうえでは基本かもしれませんが、上司も間違うことはありますし、一人の考えだけで視野が狭くなっていることもあります。それを回避するには部下からの意見が大事ですし、部下にとっても自分が上の立場の目線に立って仕事をすることは、本人の成長と会社全体の人材育成のうえで重要なことです。

仕事を円滑に進める環境作り

「いかに上司の意向に合わせるか」という姿勢が強すぎる組織は、実は組織化が進んだ大企業の方が多かったりします。組織を動かすには上司を巻き込まなければなりませんが、面倒だからとそれを避けて、上司の言いなりで動いていることは意外に多い感じがします。

上司の立場では、部下に意見を述べさせてそれを仕事に生かす環境作りが必要ですし、部下の側でも常に自分の意志を持ち、今やっていることの意味を考えながら行動して、必要に応じて意見具申をしていくことが求められます。そこでは自社の状況を客観視することも必要です。
一方的に「上司に従う」「部下を従わせる」だけでなく、上司と部下のコミュニケーションのあり方をよく考えていかなければなりません。

次回は11月24日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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