第86回 「充実した研修制度」はデメリットにもなるという話

対外的な自社アピールで「整った育成システム」「充実した研修制度」を掲げる会社を見かけますが、より良い環境作りは必要な一方で、人材開発や育成の中では、整った環境が引き起こすデメリットも存在します。

「充実した研修制度」はデメリットにもなるという話

人材開発、育成を重要な課題としている企業は多く、さまざまな取り組みが行われています。
最近では「次世代リーダー育成」「経営幹部候補育成」というテーマを聞くことが多いですが、今のように変化が激しい時代の中で、中核人材を一人でも多く育てたいというニーズの高さの現れだと感じます。
しかし、人材というのはそう簡単に育ってくれるものではありません。これが中核人材となればなおさらです。人材育成の現場ではさまざまな工夫と試行錯誤が続けられています。

例えば採用活動など、応募者への対外的な自社アピールが必要な場面で、「整った育成システム」「充実した研修制度」など、育成環境を強みとして掲げる会社を見かけます。
また応募者側でも、特に新卒や未経験者の場合は、育成システムや研修制度を会社選びの条件とする人が多くいます。
「整った教育環境の中で教えてもらいたい」「優秀な上司のもとで自分も成長したい」など、自分の能力が少しでも早く伸ばせる環境がある会社が働く場として望ましいと考えるのは当然ですし、それらの制度や環境を活用して早く成長できれば、それは会社にとっても好ましいことです。

受け身の姿勢を助長する「充実した研修制度」

ただ、そういう環境を望む人が、入社してから本当に自己成長の努力をするかといいますと、必ずしもそうとは言えないところもあります。

よく見られる光景は、制度として与えられる課題には取りあえず取り組むものの、どちらかといえば言われたことをこなしている感じで、積極的というほどの取り組み方ではありません。だからといって何もしないという訳でもなく、ほどほどの60点程度でよいというような姿勢です。
もちろんここには個人差もありますが、こうなってしまいがちな理由を考えると、会社に対して育成システムや研修制度を求めているということは、本心としては「仕事は誰かが教えてくれるもの」「能力向上は会社が与えてくれるもの」という受け身の姿勢があるのではないかということです。会社が用意してくれた仕組みに依存して、自分の力で成長しようという意識や意欲が乏しかったり、せっかく充実した環境をあまり活用しなかったりします。

だからといって、育成システムや研修制度が不要といっている訳ではなく、会社として教えるべきことをきちんと教える環境作りは絶対に必要です。
ただ、その一方で、研修などの形でカリキュラム化して教えられることは、仕事の中でもごく一部だけのことに限られます。実務でなければ経験できないことや、一度失敗しなければ分からないこともたくさんあります。何でもかんでも他人が教えられる訳ではありません。

また、会社はただ学ぶための場ではありませんので、結果と育成のバランスを取る必要があります。新しい経験をさせるにしても、会社が痛手を負うような致命的な失敗は避けなければなりません。

70:20:10の法則

リーダーシップ開発の中では、「70:20:10の法則」といわれるものがあります。
これは、人が成長するための要素として、70%は実践や経験、20%は周りの人からの薫陶、10%は書籍や研修などが関わるというものです。

ビジネスの現場でいえば、70%は実務経験やOJT、20%は上司や同僚、顧客、ほかの人からのアドバイスやフォローなど、10%は研修や自己啓発、そのほかのOFF-JTにあたります。
つまり、良質な実務経験とそれを適切に指導、フォローする人間関係によって、人材育成の90%の要素はカバーできることになります。次世代リーダーも幹部候補も、それに見合った実務経験を積み重ねなければ、相応の人材に育つことはありません。研修が受けられることよりも実務経験とOJTの充実が、人材開発のうえでは最も重要になります。

人材開発で重要なこと

会社が育成システムや研修制度の充実を売り物にするのは悪いことではありません。また、応募者や社員が会社に対して、これらの環境を望むのも同じく悪いことではありません。
ただ、そこには自己キャリアに対する受け身の意識を助長して、自分の力で学ぼうとする意識を弱めてしまっている可能性があります。
ただ言われたことしかやらない受け身の姿勢の者には、今の能力を超えるような仕事は任せづらく、結果として実務経験の範囲は少なくなり、成長速度は遅くなってしまうでしょう。

整備された良好な環境は、必ずそれに依存したりぶらさがったりする者が出てきます。そのため、「整った育成システム」も「充実した研修制度」もデメリットになることがありえます。必ずしも良いことばかりではありません。
一見強みと思えることも自社の現状がどうなのか、あらためて注意しておく必要があると思います。

次回は11月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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