第87回 過去の成功体験による「採用戦略」の不都合という話

多少の環境変化はあっても採用難の時代は今後も続くと思われますが、たまたま環境がよかった時期にうまくいった過去の経験から離れられず、実態を見誤った戦略を取ろうとする会社をまだまだ数多く見かけます。

過去の成功体験による「採用戦略」の不都合という話

ここ最近はコロナ禍の影響もあり求人倍率は少し下がってきているようですが、人手不足と採用難の傾向がこのまま大きく変わるという状況は考えづらいところです。

少し前には人手不足倒産というような話を耳にすることもあり、今は少し緩和されているかもしれませんが、それでも少子高齢化などの大きな流れは変わらず、今後も人件費の高騰や人が集まらないことによる機会損失は、常に起こってくることでしょう。

採用難時代でも企業が求めるのは、競争率の高い人材

そんな採用難の時代とはいうものの、企業から出てくる求人要件を見ていますと、まだまだ過去の先入観から離れられない会社の様子を感じることがあります。これは業種や職種にかかわらず「人が採れない」「採用が難しい」といっている割には、求めている人材が20代後半から30代前半までのバリバリの若手であったり、職務経歴がぴったりの即戦力であったり、どこの会社でも欲しがるような競争率が高い人材を求めていたりします。採用活動から少し離れていたような中小企業は、特にこの傾向があります。

私の出身業界ということで関わることが多いIT系の企業でも同じような様子は見られ、例えばシニアの技術者は「顧客にあまり歓迎されない」「扱いづらい」「コスト高である」などといって、あまり好まれていないという話が出てきます。
最近は本当に人が採用できませんので、このあたりの基準は緩んでいる様子が見られますが、やはり本音では、「シニア人材を活用するよりは避けたい」という意識の方が強かったり、結局求めている人材像の大半は「5年以上の経験がある若手技術者で、できれば男性がよい」というような画一的で旧態依然なものであったりします。

さらに、以前の買い手市場の状況からもうずいぶん時間はたっていますが、今でもその当時の感覚から抜けられない経営者やマネージャーを今もときどき見かけます。
一度染みついた感覚で、なおかつそれが自分たちにとって都合がよいものであったりしますと、その発想を変えるのはなかなか難しいということでしょう。

今も残る、旧来の価値観

いろいろな企業の皆さんに人材に関する話を聞きますと、「現状の男女比を大きくは変えたくない」「年齢構成をピラミッドで保ちたい」「できれば新卒中心で」「できれば男性で」など、旧来の価値観で話す人はまだまだ多いです。

それでも成り立つ見通しがあるのであれば、そういうやり方を否定はしませんが、少子高齢化や人口減少というマクロ的な状況を考えれば、これまでのやり方を維持していくのは相当に困難なことです。

このあたりの対応策として、女性やシニア世代、外国人の活用などがいわれますが、これも思ったらすぐにできるのかといえば、それほど簡単なことではありません。

例えば、子育て世代の女性では就業可能な時間に制約がありますし、子供の急病などで突発的に休まざるを得ないこともありますから、仕事自体の分業と組織内でお互いがフォローし合える体制づくりが必要になります。属人的な仕事のやり方では成り立ちません。

シニア人材であれば、これまで培った経験をどのように生かしてもらうかという視点になりますから、どんな役割を期待し、実際にどのような仕事をやってもらうかという業務内容が重要になります。そうでなければ、単に期待外れというレッテルが貼られてしまいます。

外国人の場合は、言葉の壁や文化の違いがあり、それらを理解したうえでの労務管理やマネジメントなど、それなりのノウハウが必要です。会社が慣れて軌道に乗るまでにはある程度の時間はかかるでしょう。

他にも、大企業ではバブル期の大量採用に起因して、シニア世代の人余り状況がありますが、他企業への人材シフトといった施策はなかなか進みません。「比較的高額な報酬」「職務経験と期待値のミスマッチ」「本人の意識が伴わない」など、原因は一つではありません。

過去の成功体験と先入観を捨てる

最近は「女性活躍」や「ダイバーシティ」という名のもとに、これらの取り組みが徐々に進み始めたものの、企業の人材採用を担う現場では、今までの先入観によるものからなのか、この動きを本音では受け入れづらいと思っている人がまだまだいるようです。

こういう状況を見るにつけて、これからの企業の採用戦略、さらに大きな人事戦略は、これまで自社で考えていた常識から脱却して、発想を大きく切り替えていかなければならない時期だと思います。
今までは、いろいろな理由をつけて採用してこなかった人材も受け入れて、その人材をどうやって生かしていくかを考えなければ、人手不足はますます進んでいくでしょう。

これからは、人材を選別するというよりも、どんな仕組みを作り、どんな教育研修を施し、どんな仕事を与えていけば戦力化できるかということを考えていく必要があります。人材の流動化、再配置という企業の枠を越えた取り組みも必要でしょう。

まずは企業の「採用戦略」「人事戦略」に関わる人たちが、過去の成功体験と先入観を捨てて発想を切り替えていくことが必要になっていると思います。

次回は12月22日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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