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第28回 あまり共感できない「どうせうちには来ない」と嘆く採用担当者のお話
私はいろいろな会社で、新卒採用や中途採用などの採用活動をお手伝いする機会があります。そもそも私がご支援するような企業は、名の知れた有名企業であることはほとんどありません。最近の人手不足、売り手市場の傾向も相まって、優秀な人は欲しいがなかなか思ったようにはいかないという中堅企業や中小零細企業がほとんどです。
また、人の採用に関して、結果に100%満足していると言う話は、企業規模の大小や有名無名を問わず、ほとんど聞くことがありません。
人の採用には数と質の両面があり、特に質という部分には、仕事をさせてみて初めて分かるようなことも多々あります。限られた時間や予算、スタッフで採用活動をしている限り、これもある程度はやむを得ない部分があります。
このように、なかなか満足に至ることが少ない採用活動ですが、特に競争率が高い若手から中堅層を採用対象にした時、ときどき耳にするのは「この人はどうせうちには来てくれない」と中小企業の採用担当者が嘆く言葉です。「大手に行くに決まっている」とか「うちの会社に優秀な人なんて来るわけがない」などというあきらめのような話を聞くこともあります。
苦労して応募者を集め、ようやく内定までこぎつけても、それを辞退されるようなことが繰り返されると、こんな気持ちになってしまうことは理解できます。
ただ、私はこの言い方にあまり共感はしていません。ある会社では、社長自ら「うちにはこんな人は来てくれないよなぁ……」などと言っていましたが、これははっきり言って固定概念による言い訳だと思っています。
確かに一般論として、一流校の出身者などは大手企業を希望することが多いですし、学生の大手志向というようなことも言われますが、大手企業に入ったからといって、その人の社会人的な能力が高まるかというと、必ずしもそうではありません。私もかつて大手企業出身者を中小企業に受け入れるお手伝いをしたことが何度かありますが、なかなかフィットしなかった経験の方が多いです。
これは全員がそうではありませんし、受け入れる側の問題もありますが、大手企業の人の方が「会社のおかげ」で仕事をしている部分が多くあることは確かだと思います。
「整えられた仕組みに乗って仕事をする」
「会社の看板で顧客や関係先にアプローチする」
「細かいことは自分以外の誰かがやってくれる」
「周囲から多くのサポートが受けられる」
など、自分の力か周りのおかげかを勘違いしやすい環境があります。
そんな人が中小企業に舞台を移した途端、それまでできていたはずの仕事が遂行できなくなってしまいます。かつて「あんな人はうちには来てくれないなぁ」などと言われた、優秀な人材であっても。
人材の質には、基礎能力などの先天的な要素があり、これが高いに越したことはありませんが、それ以上に後天的な要素があります。この後天的な要素には、自分で直接かかわって、手を動かした経験が重要になります。俗にいう現場経験であり、自分でストリートファイトができる力があるかというようなことです。
自分の力を勘違いしなかった大手企業人材はさまざまな環境の中で、中小企業では経験できないスケールの大きな仕事を自分自身の手で動かしていますしかしそうでない人は、どんなに基礎能力が優秀であっても、少しの環境変化で職務遂行ができなくなってしまいます。こういう部分まで含めての人材の質ということです。
こう考えていくと、「優秀な人」というのは、自社なりに作り上げていくという側面が大きいはずです。「優秀な人はうちには来てくれない」などと嘆くのは、実は言うだけ無駄で、意味がないことではないかと思います。
次回は1月26日(火)更新予定です。