第27回 「上が決めたことだから……」が口ぐせだった会社でのお話

いろいろな会社の方とお話をしていると、役員、管理職、一般社員の区別を問わず、「上が決めたことだから……」という言い方をされることが、思いのほかよくあります。
ここに込められているニュアンスは、「この決定に自分は納得できないけれど、上が決めたことだから従わざるを得ない」ということだろうと思います。

これは以前ご相談を受けたある会社でのことですが、その会社の社長の問題意識は「社員が指示待ちである」「積極的に動こうとしない」「管理職が自分で判断しようとしない」など、社員が自律的に行動しないということでした。
その状況を確かめるべく、現場の社員へのヒアリングを行ったところ、そこで見えてきたのは、会社全体で「上が決めたことだから」が口ぐせになっているという状況でした。何かを尋ねても「上に聞かなければ分からない」と言い、会社が行っている施策への意見を求めても、「上が決めたことだから」と言って終わってしまいます。

さらに、会社の中では「上」に当たるはずの部課長クラスの管理職までも、同じように「上が……」という口ぐせを連発します。これはかなりの重症ですが、私の今までの経験上、こうなる原因には思い当たることがあります。
いろいろな人からさらに話を聞いていくと、「やはり……」という原因がありました。それは社長自身の社員たちに向けた対応です。

確かに社長は社員たちに向けて、「自分で考えて……」「自分で決めて……」と言ってはいますが、結果的にその意見を取り入れたり、判断を尊重したりということが、きわめて少ないのです。ほとんどのことが、会社で唯一の「上」である社長のトップダウンで決められています。

社員の側からすれば、社長に意見を持って行っても8、9割は突き返され、自分なりに判断しても見直しを求められ、行ったり来たりで時間ばかりかかります。
それならば初めから社長の意向に沿った方が、無駄なやり取りが減って仕事はスムーズに進みます。「自律しない社員」の反面には、「社員に決めさせない社長」の存在があったということです。

この会社ではその後、それまであいまいだった職務権限を明確に決め、社長自身にも現状を認識してもらって行動改善を意識してもらい、トップダウンとボトムアップのバランスを取っていくことで、徐々に「上が決めたことだから」という口ぐせは消えていきました。

このように、「上が決めたことだから」という発言が多いのは、やはりトップダウンの割合が高い企業です。もちろんトップダウンの指示命令は、それがなければ組織ではありませんから、当たり前のことではあります。しかし軍隊のように上が絶対というだけではない会社組織の場合には、行き過ぎたトップダウンはさまざまな弊害を生みます。多くの社員が、自分では決めようとしない、自分では考えないなど、要は思考停止になってしまいます
特に管理職クラスでは、トップダウンであることを都合よく利用し、「自分が決めたことではない」と言って、責任回避の言い訳にするようなことも出てきます。

会社が求める理想の人材像として、「自律」というキーワードが挙がることはとても多いですが、この「自律」のために必要なのは、「自分で考えて自分で決めて、自分で実行して自分で責任を取る」というサイクルを繰り返していくことです。

ただ、トップダウンが強い企業であると、この「自分で考えて自分で決めて」という部分が少ないために、「自分で実行する」というパワーが弱まり、「自分で責任を取る」という納得感が薄れます。社員が「自律」できない原因にはこんな悪循環があり、中には経営者自身がそう仕向けてしまっていると思えることもあります。

社員が自律的に行動できるようになるためには、トップダウンとボトムアップに適度なバランスが必要です。
もしも自社において、「上が決めたことだから……」という言葉が多い印象があるならば、今一度そのバランスを見直してみる必要があると思います。

次回は12月22日(火)更新予定です。

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この記事の著者

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小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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