第131回 「仕事の評価」だけでは分からない「その人の評価」の話

人事評価の場面で、「あの人は使えない」など相手を全否定するような発言が見られることがありますが、それはあくまで仕事という限られた範囲内での評価であり、環境や条件が変われば評価結果も変わります。

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「仕事の評価」だけでは分からない「その人の評価」の話

最近は他人との比較ではなく、自分らしさを重視する人が増えていますが、そうはいっても人間が集団で過ごす中では、お互いの「評価」がついて回るのが実際のところです。
学校には通知表がありますし、企業であれば「評価制度」によって、その人の仕事の成果や出来栄えを評価し、給料や役職などを決めます。その良し悪しはともかく、人が社会生活を営むうえでは、常に「評価」にさらされています。

評価にあたっては、相手のことを「良い人、悪い人」「好き、嫌い」「能力が高い、低い」「仕事ができる、できない」など何らかの尺度で評価します。その尺度は評価基準、評価指標などといわれ、具体的な数値などで示されることも、個々の主観によることもあります。私が関わる機会が多いのは、企業の人事制度に基づく「評価」ですが、その中で人が人を評価することの根本を考えさせられたエピソードがあります。

社内評価が決して良いとはいえない課長の話

ある会社の若手社員から相談があると言うので聞いてみると、その人の直属の課長についての話でした。「リーダーシップがないし能力も低いし、あんな課長の下ではやっていられない」などと言います。
やり玉に挙がった課長は、確かに社内の評価は決して良いとはいえず、「あまり仕事ができない人」としてときどき話題にされることがあります。少し控えめな性格のせいか、「コミュニケーションが少ない」「指示がはっきりしない」「判断が遅い」といった指摘をされます。仕事は丁寧にこなすのですが、その分「遅い」と言われてしまうことが多いようです。

相談に来た若手社員はずいぶん腹が立っていたのか、「あんな人は会社に存在する価値がない!」などと人格否定のようなことまで言い出すので、その言動を諭しながら、課長との接し方についてのアドバイスを幾つかして、その場の話は切り上げました。

家族の前で見せた、いつもの課長と違う一面

それからしばらくたったある日、この会社で日帰り旅行のイベントがあり、私も同行させていただくことがありました。希望者は家族ぐるみで参加できるのですが、苦情をいわれていた課長は自分のお子さん連れで参加していました。幼稚園か小学校低学年ぐらいの男の子が2人、なかなか元気な子供たちです。

そこで何気なく様子を見ていると、この課長の父親ぶりがとても良い感じです。やんちゃな男の子たちを頭ごなしに叱らず、しかし言うべきことは厳しくはっきり言います。
子供たちにとっては、家族の中で何でも一番上手なのはお父さんであり、そのお父さんと一緒にいろいろ教えてもらいながら遊ぶのはとても楽しそうです。まさに家族のリーダーらしい姿でした。
実はこの様子を相談に来た若手社員も一緒に見ていて、「課長って、いいお父さんなんですね」と言っていました。その後の「会社でもああならいいのに……」は余計な一言でしたが、それでも課長に対する見方が少し変わったようでした。

あのように子供と根気よく接することができるのは、課長の穏やかさと粘り強さがあるからでしょうし、相手の感情を尊重する姿勢があるからです。そんな人柄が会社の中では、部下も含めた相手への遠慮となり、「はっきりしない」「判断しない」「遅い」という行動につながっているのかもしれません。

その後も社内での課長の評価は相変わらずではあるものの、一方相談に来た若手社員は、課長への接し方が変わってきています。相変わらず言いたいことは言いますが、以前のような人格否定の言動はなくなり、とげとげしさが消えました。たぶん課長の少し違った一面を見たことで、課長が取る行動の理由が何となく分かり、接し方のコツがつかめてきたようです。
もちろん力不足の課長には頑張ってもらわなければなりません。しかし会社や仕事という枠組みの中で起こることがその人の全てではありませんし、そこでは見えないこともたくさんあります。

環境や条件が変われば評価は変わる

最近気になるのは、人事評価の場面で「あの人はダメ」「あいつは使えない」など、相手を否定、拒絶するような発言が見受けられることです。多様性といいながら、許容範囲の狭い人が増えているように感じます。しかし、環境や条件が変われば評価は変わることがあります。

例えば、全ての人が自給自足の生活をしなければならないような環境変化があったとして、そこではそれまでの権力者の畑に作物ができず、弱者の畑が豊作になるかもしれません。求められる対象が変われば評価が変わり、力関係は逆転します。会社であれば、配置転換で評価が一変するような例は、決して少なくありません。

「仕事の評価」は、その人の持つ能力や特性の中の、ある一面だけのことです。その評価だけで全てを決めつけることは好ましくありません。もっと他の部分を見ることで、今までと違う「その人の評価」が現れてくることもあるはずです。

次回は8月27日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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