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第130回 「自分に向いていない仕事」をやり続けたという人の話
その人の特性によって仕事の向き不向きがあり、適材適所で向いている仕事を与えようと考えるのが一般的ですが、この前提と異なる人材に出会う機会があり、個人キャリアのあり方についてあらためて考えさせられました。
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連載開始10周年を迎え、100記事を超える過去のコラムから筆者厳選の10記事と、書き下ろしのコラムをまとめて特別冊子をご用意しました。
本冊子の内容がヒントとなり、ビジネスにおける悩みや課題解決の一助になれば幸甚です。
「自分に向いていない仕事」をやり続けたという人の話
仕事はその人の特性、性格、能力などによって、得意不得意、向き不向きがあります。会社の中では「適材適所」「適正配置」などといって、できるだけその人に向いている仕事、得意な仕事を与えようと考えるのが一般的です。できるだけ多くの人が「向いていること」「得意なこと」に取り組んだ方が、生産性は間違いなく上がるはずだと考えるからです。
こんなことを踏まえて、採用や配属、昇格といった場面では適性テストや面談などを実施して、その人の特性や性格を把握しようとしますし、その人に合う仕事が何かを考え、効果的な育成方法を実行しようとします。
また、ほとんどの人は、何かしらやりたい仕事の希望を持っています。本人がやりたいことは、自分で興味があることでしょうし、あまり経験がないことであっても好き、得意なことという感覚で、ある程度はこなせるようになると思っていることが多いでしょう。これは、周囲がその人にやらせたいと思う仕事も同じで、その仕事に関して何らかの適性を持っているように見えるからです。
本人がやりたい仕事と周りがやらせたい仕事
そういう中で、本人がやりたいと思っている仕事と周りがやらせたいと考えている仕事との間には、もちろん意識の強さに差はありますが、全く正反対にかけ離れていることは少ないです。適性テストなども同じで、テスト結果での適性判断と実際にその仕事をやったときの評価とが、全く食い違うことは少ないように思います。
「その人にどんな仕事を与えるか」という基本的な権限は会社にありますので、適性判断をどう扱うかは会社次第ですが、多くの場合はその人にとってベストではなくても、ベターとされた幾つかの候補から、実際に関わる仕事が決められることがほとんどでしょう。
相応の経験がある応募者の話
ただ、ある企業の採用面接をお手伝いした時に、この前提とは反する経験をしたことがあります。応募者はその業務をもう20年近く担当しているベテランで、書類上では相応の経歴を持っているように見える人でした。
しかし、面接の中でその人の話を聞いていると、これまでの経験に全く自信がなさそうで、アピールらしいことがほとんどありません。そればかりか本人はいまだに「この仕事に向いていない」などと言っています。そこで感じたのは、仕事はあくまで仕事と割り切っていることと、仕事に対する受け身の姿勢が強いことでした。はじめは他に収入があって、必ずしも自分の仕事に生活がかかっていないなどの理由があるのではないかと考えてしまうほどでした。
この会社の採用活動では、中途採用の応募者にも適性テストを行っていて、採用の合否だけでなく、入社後の配属先や担当業務の判断にも活用しています。
そこでこの応募者のテスト結果を見た時、面接で感じたことの理由が分かった気がしました。これまでの業務経験とテスト結果での業務適性との間に、全くといってよいほど接点がなかったのです。つまり、あまり「向いていない仕事」をかれこれ20年以上やり続けていたということになります。その結果として起こっていたのは、仕事は仕事という割り切り、受け身姿勢の強さ、キャリアアップ意識の希薄さということでした。
その後実施した二次面接の際に、今の仕事に関わるようになった経緯を聞いてみました。その話によれば、「向いていない仕事」の人手が足りなかったらしい会社の事情と、押しが弱くて嫌と言えない本人の性格と、取りあえずやってみてダメではなかったという幾つかの要素が重なって、ほぼ「向いていない仕事」をずっとやり続けるという、あまり好ましくない状況になってしまったようでした。
この応募者は残念ながら採用に至りませんでしたが、これを機会にあらためて個人キャリアのあり方について考えさせられました。
自身でキャリアの積み方を意識すること
「向いていない仕事」をやり続けるということは、本人にとっても会社にとっても、あまり幸せでないと思いますが、そうなってしまった原因を一概に言うことはできません。本人が自分のキャリアを会社任せにしてしまった、主張をしなかったという問題はありますし、会社も適材適所を真面目に考えなかったという指摘はできます。こういう事態を避けるには、本人は自分の適性、やりたい仕事、キャリアの積み方を常に意識し続けることでしょうし、会社も個人の適性を見ながら、その人に「向いている仕事」を探して任せるということです。
組織で仕事をしていると、必ずしも自分に「向いている仕事」、自分が「やりたい仕事」に就けるとは限りません。また、自分は向いていないと思っていても、周りから見るとそうではないこともあります。ただ、自分に「向いている仕事」がどんなものかを、自分なりに意識しておくのは必要なことです。
かつては長期雇用を前提に自分のキャリアを会社の委ねざるを得ない時代がありましたが、今はそうではありません。「キャリアの他人任せ」は避けなければならないことだと思います。
次回は7月23日(火)の更新予定です。
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