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第52回 「現場主義」と言って、利益代表で主張するマネージャーの話
「現場を知る」ということは、現場に直接関わる立場のマネージャーには絶対に必要ですが、「現場主義」と言って全体最適を見失っている人がいます。そのバランスが意識できなければ部下からの信頼は得られません。
「現場主義」と言って、利益代表で主張するマネージャーの話
経営者や役員クラスの人の中には、あえて現場には立ち入らないという人もいますが、私はどんな形でも実際の現場と触れ合って、その様子を知るのは大事なことだと思っています。要は関わり方の距離感次第です。
これが実際の現場を直接管理するマネージャーとなれば、「現場を知らない」という訳にはいきません。自部門の仕事全てを細かく知るまではいかなくても、少なくとも誰がどこでどんなことをやっているかは理解しておく必要があります。
中にはマネージャーはあくまで統括する立場だとして、数字の取りまとめや管理資料作りばかりに精を出し、現場の実態を理解できていない人がいますが、それでは部下の信頼は得られませんし、本来の役割であるマネジメントもうまくいかないでしょう。
その一方、「現場主義」という言葉の下に、自分がそのレベルに下りて行ってしまうマネージャーがいます。現場の実務をメンバーたちと同じレベルで分け合ってしまうのです。
何でも上から物を言う必要はありませんが、マネージャーに求められる役割は、会社の全体最適の中で、自部門やグループ全体の活動を監督することです。現場作業に下りて行くのは、本来マネージャーに求められる役割ではありません。
現場でわいわい同じ仕事をするのは、お互いの関係づくりの中では必要でしょうが、そこは本来の役割とのバランスを取る必要があります。しかし「現場主義」を強く言う人ほど、実務ばかりに偏ってしまう傾向があります。
これはある会社のマネージャーですが、何かにつけて「自分は現場主義」ということを強く言う人がいました。ただこの人の場合、「現場主義」と言えば聞こえは良いですが、とにかく現場の利益代表になってしまって、一方的な主張や要求をしてくることが多い人でした。
いつも「現場が大事」と言い、「現場が動きやすくするためにはこうすべきだ」「現場ではみんなそれを望んでいる」と言いますが、その中身は何かにつけて会社の規定をねじ曲げなければならないような、ちょっと理不尽な主張や要求が頻繁です。会社から見るとわがままに近い、組織のルールとして特別扱いになってしまうような自己中心的なものでした。
こういうマネージャーは、部下から見れば“物分かりが良い上司”になるのかもしれませんが、その様子が確かめたいと思い、あるときこのマネージャー配下の部下たちに「本当にそういう要求をしているのか?」と尋ねてみたことがあります。
そのときのみんなの答えは「マネージャーは何かと盛り上がって勝手に動くので、どんな要望もとりあえず言うだけ言っている」とのことでした。「普通に考えたらできないですよね?」とも言います。
部下たちは、“たぶん通る訳がない要望”を“とりあえずマネージャーに投げ掛けてみた”ところ、“思いのほか真に受けて動き始める”ということのようで、ダメもとで上司に言ってみて、多少でも認められればラッキーという感じだったようです。
そんなマネージャーとの信頼関係について聞いてみると、部下たちはみんな考え込んでしまいます。少なくとも肯定的な反応ではありません。
どうもマネージャーが自分の思い込みで勝手に走ってしまうとか、話を聞いてくれているようで動き方が違うとか、ゴリ押しが過ぎるとか、そんなことがいくつもあったらしく、実はこのマネージャーはあまりに信頼されていませんでした。マネージャー自身の個人的なキャラクターの問題もありますが、「現場主義」との理屈で組織の全体最適を意識していないことから、結果的には部下たちの信頼を失っていたのです。
マネージャーであれば、本来はより大所高所で物事を見なければなりませんが、現実は必ずしもそうではありません。部下たちの方が社内で横つながりの関係を持っていて、よほど全体最適の意識が高いこともあります。これは決して好ましいことではなく、会社としては困ることが多々出てきます。
本人は「現場を理解した信頼がある上司」と自己評価していても、部下からそう思われていないことは少なくありません。現場の意見を吸い上げているつもりでも、それだけでは部下の信頼は得られません。
やはりマネージャーとして、組織の全体最適を考えたうえでの判断が伴っていて、その上での「現場主義」でなければ、部下との本当の意味での信頼関係は築けません。
そんな状況に陥らないように、マネージャーの皆さんは、今一度自分の役割と現場との関係性を見直していただければと思います。
次回は2018年1月23日(火)更新予定です。