第69回 見誤りやすい「発言力」の裏付けの話

組織内で強い「発言力」を持つ人がいますが、その背景や裏付けに注意しないと大きな問題になることがあり、意外に見誤りやすいところがあります。ある一面だけを認められての「発言力」には注意が必要です。

見誤りやすい「発言力」の裏付けの話

少し前の話になりますが、美術展覧会の日展(日本美術展覧会)で、不正な審査が行われていたという事件がありました。書道界の“重鎮”が「書」の一部門で、有力会派に入選者数を割り振るように、審査主任に指示していたということです。

この報道の中で、興味深く感じたコメントがありました。それは「芸術家には一般的に純粋な人が多いので、少数の野心家に牛耳られやすい」という話です。
自分たちが考えもしないような不正に対しては、それを画策するような人をチェックする周りの目も甘いでしょうし、野心家に張り合うような人も少ないでしょうから、そういう行為が助長されやすいのでしょう。

似たような話は、さまざまな組織や団体の中でも、いろいろなことを見聞きします。
例えば、陰口や悪口、裏表があるような陰湿な人間関係は、多くの人が嫌がりますが、ごく一部にそんな動きを取る人がいると、それが全体に波及してしまうことがあります。
会社であれば、例えば経営者や上位の管理職など、「発言力」が強い人の意見に、全体が引きずられてしまうようなことがあります。
ここで、経営者の意見が強いのは当たり前だとして、この組織内での「発言力」についてよく見受けられるのは、「業績を上げている」「結果を出している」という理由で、経営者や上司に一目置かれている人が強い力を持っている場合です。

これはある会社でのことですが、業績を上げ、結果を出しているということで、優秀な人材だと上司から認められて、順調に昇進を重ねていった人物がいました。自分の意見に自信があり、はっきりと主張をするので、上司からは「任せられる人」として頼もしく見えたのでしょう。
ただ、自信家であるがゆえに、強引に自分の意見を押し通すところがあり、自分たちの「業績」「結果」を背景に、他部門をバカにしたり、セクショナリズムを助長したりする態度がありました。このため、部下や他部門の社員には、この人をあまり快く思っていない者も数多くいました。ただ、業績数字が上がっているのは認めざるを得ないので、この人の意見には反論しづらい雰囲気がありました。

しかし、ある時期から、この人の担当部門の業績が徐々に下がりはじめました。そもそも業績というのは必ず浮き沈みがあるものですし、制御できない市場環境の変化などもあります。そういう苦しい時期にどう行動するかが、リーダーの振る舞いとして大事なところですが、この人が認められてきた背景は「業績」「結果」であり、本人もそれを振りかざして「発言力」を保ってきました。その後ろ盾がなくなって、自分の「発言力」が低下することを恐れてようで、この人は業績低下を市場環境や自分の部下のせいにしはじめました。典型的な他責と責任回避の姿勢です。「すぐに持ち直す」というような楽観的な見通しも口にしますが、そこに根拠はありません。

当然ですが、部下たちの心は離れていき、部門業績はさらに下がっていきます。
しかし、上司や経営陣は、この人の話を相変わらず信用して、言い分を受け入れ続けました。その結果として、問題を先送りすることとなってしまい、会社全体が厳しい状況に陥ってしまいました。

「業績を上げている」ということや「結果を出している」ということは、重要な素晴らしいことですが、往々にしてあるのは、そういう人は自分が関わることには一生懸命でも、必ずしも会社の全体最適という視点で物事を見ていないことです。「業績」「結果」だけを見ての抜擢や権限付与は、いろいろなことを見誤ります。
また、「発言力」がある人の意見が正解とは限りませんし、そもそも「発言力」の根源が正当なものとも限りません。発言に対しては、必ず何らかのチェック機能が必要です。

最近、多くの企業で起こっているガバナンスに関する問題は、意外にこの話と共通する点があるように感じます。組織内で「発言力」のある人が、不正を働いたり私腹を肥やしたりしています。
一部の人の「発言力」に流される危うさは、常に認識しておかなければなりません。

次回は6月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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