第113回 「自分にとって良いこと」と「全体最適」との混同という話

組織のまとめ役には、常に組織の「全体最適」を考えることが求められますが、視野の狭さなどから「自分にとって良いこと」と「全体最適」とを混同してしまうことがあり、さらにそのことに気づかない場面が見受けられます。

「自分にとって良いこと」と「全体最適」との混同という話

組織の中で上位の役割を担う経営者や役員、管理職といった人たちは、その範囲に若干の違いはあるものの、組織全体を俯瞰(ふかん)して見る目が必要だといわれます。常に組織の「全体最適」を考えることです。
そうはいっても、自分の身近な半径数メートル以内だけで物事を判断してしまったり、目先の短期的なことばかりに目を奪われてしまったり、全体を見ることを実践するのはなかなか難しいことです。また、本人は広い視野で見ているつもりでも、実際にはそうでないことに気づかない場合もあります。

経営者や管理者など、組織上の権限が大きいにもかかわらず、その視野が狭いということになってしまうと、判断ミスや偏り、さまざまな見込み違いが発生して、組織に多くの問題を引き起こしてしまいます。

ある人事制度検討プロジェクトで

もう10年近く前になりますが、ある会社の人事制度検討プロジェクトでのことです。会社の中核を担っている部長クラス5人ほどをメンバーとしてプロジェクトを開始しましたが、その後すぐに検討自体が進まなくなってしまいました。
その理由は、ある一人の部長がとにかく自分たちが担当しているビジネスが高く評価されるように、自部門の利益代弁者のような意見を終始言い続けたためです。自分たちに有利に働きそうな意見をしつこく取り上げて認めさせようとし、不利になる可能性が少しでも見えるようなことは、それが解消されるまで一切妥協しません。

この部長の担当部署は、社内的には新しい取り組みをしているらしく、まだまだ結果が伴っておらずに業績貢献もできていないようです。それなりの苦労があることは理解できますが、一般的に見れば決して高い評価ができる状況とはいえないでしょう。
にもかかわらず、この部長は「先進的な取り組みをしている優越性がある」「結果が出ないのは新規事業であれば当然」「自分たちのような部門は他と異なる視点で高く評価されるべき」などの主張を繰り返します。

全くおかしな主張とはいえませんが、本来広い視野で全体最適を考えるべき立場の人が、「自分たちはすごくて他はたいしたことがない」「自分たちが優先」と言い続けるため、他の参加メンバーたちがあきれて議論が止まってしまいました。

「Win-Lose」の関係では成り立たない

このままでは何も進みませんので、私からプロジェクト責任者の人事担当役員に、議論から離れた場で個人的な意見を求めました。そこで聞かされたのは、この部長が他の場面でも同じように、自分の都合ばかりを主張する傾向があるという話でした。

例えば、出入り業者に長期契約をにおわせて散々値切った挙げ句、数回発注しただけで契約を打ち切ってしまったり、重要顧客からの紹介案件を条件が合わないという理由で断ってしまったり、どこかのお店に行っても、値引きやサービスを要求するわりには金払いが悪かったり、要するに「要求ばかりして返そうとしない人」だそうです。
この姿勢が「妥協せずに実入りを増やしている」という面はあるようですが、こと対人関係の面では“付き合いづらい”“信頼できない”といわれて敬遠されることがよくあるようです。
ビジネスでは双方にとって得がある「Win-Win」の関係が好ましいといわれますが、この部長の行動パターンは、典型的な「Win-Lose」の関係に見えます。

その後の人事制度検討プロジェクトですが、社長と担当役員がこの部長にかなり強い叱責(しっせき)をしたらしく、さらにこの部長をプロジェクトメンバーから外して、配下の課長にメンバーを切り替えることになりました。それ以降は前向きな形でバランスの取れた議論が進み、プロジェクトは無事に完了することができました。

「全体最適」「Win-Win」の両立は意外に難しい

「全体最適」「Win-Win」は、実行しようとしても意外に難しいところがあります。一見そうなっているように見えても、視野を広げると実はそれが一部の局所的なものだったということがあるからです。

個人には良いがチームとしてはダメ、自部門では良いが全社的にはダメ、自社にとっては良いが業界全体としてはダメなどといった食い違いは意外に起こりがちです。「自分にとって良いこと」が全体にとっても同じだと勘違いしてしまうのです。その原因には「視野の狭さ」や「思い込み」があり、そうなっていることへの認識不足やそもそもの情報不足といったことも関係します。

「自分に良いこと」と「全体最適」とが一致しないことは、よくある話です。それらを混同せずに矛盾を調整することは、組織をまとめる立場の人たちの大きな役割になります。そのことを十分に認識しておかなければなりません。

次回は2月28日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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