第112回 「どんな人材か見抜ける」と言い切るベテラン人事に感じた過信の話

あるベテラン人事担当者は、自分の経験で「少し話せば相手がどんな人材かだいたい分かる」と言い切りますが、経験には偏りと思い込みが含まれており、この過信によって多くの可能性を失っていることがあり得ます。

「どんな人材か見抜ける」と言い切るベテラン人事に感じた過信の話

会社側の立場での一方的な見方ではありますが、人材というのはどんなに万全を期して選考しても、その人にとってベストと思えるキャリアプランで育てていったとしても、なかなか思ったとおりの成長や能力発揮とはいかないことが多いものです。

頻繁に起こる「思っていた人材と違った」

「思わぬ人材が力を発揮した」という良い意味での見込み違いは歓迎ですが、「期待した人材を抜てきしたが、あまり良い結果が得られない」「採用したものの想像とは違っていた」などということは、できれば避けたいと思っているにもかかわらず、わりと頻繁に起こっていることです。
企業の採用担当者は、多くの人材と出会って面接を繰り返し、その人材の入社後の様子を見続けていくことで、人材への期待と実態とのギャップを減らすための経験を積んでいきます。しかし、そのギャップを完全にゼロにすることはできません。特に「人」に関しては、将来をどんなに緻密に分析、予測しても、そのとおりになることはほぼありません。

人の行動として顕在化してくることは、必ずどこかにその資質があったはずですが、その発揮のされ方は、外部環境によって左右されることがありますし、後天的に変わってくることもあります。これを限られた時間の面接だけで見極めるのは難しいことです。
最近では、本格的なインターンシップや体験入社、お試し雇用など、一定の期間を使って会社と働き手双方の認識ギャップをなくそうという動きがあります。それなりに手間ひまと時間がかかりますので、多くの会社に広く普及とまではいきませんが、意味がある取り組みだと思いますし、必要なことだとも思います。

ベテラン担当者が陥りやすい“思い込み”

このように人材への期待と実態を整合させる難しさが認識されている一方で、「会って話せばどんな人かはだいたい分かる」と豪語する経営者や採用担当者がいます。

これはある会社の経験豊富なベテラン人事担当者の話です。やはり「少し話せば相手がどんな人かはだいたい分かる」と言い切ります。これまでの経験とそれに基づく直感が合わさって、その人材を見るとほとんどのことが想像できてしまうそうです。また、その勘や見込みはほとんど当たっているそうです。それが事実を確かめる術はありませんが、本人はかなり自信を持っているようです。

私自身も長らく人事の仕事に関わっていますので、確かに勘が働く場面はいろいろありますが、ここまで言い切る自信はありません。どんなに時間をかけたとしても、やはり他人の本質を全て見通すことはできませんし、それが将来にわたることであれば、予測できないことがさらに重なって、見通すことは難しくなります。
「人材を見抜くことができる」と言い切ってしまうのは、私はあまりにも傲慢(ごうまん)で過信していると思います。その理由を一言で言ってしまうと、どんなに豊富な経験に基づいていたとしても、その見方は結局その人の“思い込み”に過ぎないということです。

心理学に「スキーマ」という言葉があります。これは「人間の過去の経験から生まれた知識のまとまり」のことで、外からの情報に対して、人間はこれを使って予測対応をしようとします。しかし、この「過去の経験」として記憶されているのは、多くの場合が自分の価値観に合致したことであり、それを選択的に覚えているそうです。その記憶と照らし合わせて、「自分の思ったとおり」「予想したとおり」などと言っていることが多いそうです。

例えば、「体育会出身者は打たれ強い」とか「○○大学は優秀である」などというのはスキーマの一種で、概略でそういう要素があったとしても、みんながみんなそれに当てはまるとは限りません。繊細な体育会出身者も、優秀とは言えない一流大学出身者もいるでしょう。
そんな「思っていたより○○だった」という細かな見込み違いはたくさんあるはずですが、自分の価値観と違っている部分は、その人の記憶の中にあまり残りません。

特に人材に関することでは、このスキーマのような決めつけをすることによって、本来その人が持っているかもしれないさまざまな可能性をつぶしてしまっている可能性があります。その人材との相性や適性を見極めようとする努力は必要ですが、採用活動で接した程度の時間で、他人の本質がそう簡単に分かるものではありません。
経験豊富であることに越したことはありません。ただし、経験というのはあくまでその時の環境下で、自分の身近に起こったことだけに限られるものです。さらにその記憶は自分の価値観によって都合よく選択されていることがあります。環境も条件も異なる今の状況において、過去の偏った「経験」を過信して判断することには大きな弊害があります。

事実に基づいて判断する姿勢が重要

これは誰に対しても、どんなことにも言えることですが、「経験」という偏った思い込みに基づく判断によって、せっかくの縁や可能性を逃していることがたくさんあるかもしれません。どんなことでも、「できるだけ思い込みを持たずに事実に基づいて」という姿勢が大事ではないかと思います。

次回は1月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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