第115回 「リーダーらしいリーダー」が必ずしもうまくいく訳ではないという話

リーダーというのは立場上批判されることも多く、そのリーダーシップの取り方を指摘されることがありますが、一般的にイメージされる「リーダーらしいリーダー」が、必ずしも良いチーム運営をしているとは限りません。

「リーダーらしいリーダー」が必ずしもうまくいく訳ではないという話

「リーダー」という言葉から連想する人物像を尋ねると、その答えで最も多いのは「先頭に立ってチームを引っ張る人」です。チームや組織の先頭に立って突き進む人が、「リーダーらしいリーダー」の典型的なイメージになるのでしょう。
ただし、実際のリーダーというのは、必ずしもそういう人たちばかりではありません。そして、この「リーダーらしいリーダー」のチーム運営が、全ての場合で必ずしもうまくいく訳ではありません。今回はそんなお話です。

リーダーシップがないという批判

「リーダー」という立場になると、いろいろな形でメンバーから批判を浴びることがあります。
これはある会社で行った、一般社員対象のヒアリング調査の中でのひとこまです。ある一人のチームリーダーに対して、所属するメンバーたちから数多くの批判的な意見が挙げられました。その内容は、「いつも方針が曖昧」「目標が不明確」「実行力が足りない」といったもので、要は「リーダーシップがない」という指摘です。

批判されてしまったリーダーは、私も面識がある人ですが、どちらかといえば控え目でおとなしく、優しそうな印象の人です。一般的なイメージでいう「リーダーらしいリーダー」ではなく、確かに少し頼りなさそうに見えます。
本人が自分の立場をどのように意識しているかを確かめようと、あえてこのメンバーたちからの批判をこのリーダーに問いかけてみました。

リーダーはしばらく考え込んだ後、「確かによく言われてしまうのですが……」と言いながら話を続けます。
その思いは、リーダー自身がチーム運営で一番大事だと考えているのは「メンバーたちが仕事をやりやすくすること」で、そのために自分は「できるだけメンバーたちの意見を聞いて、それを取り入れていくことが必要だと思っている」とのことです。

以前、ほとんど意見を聞いてくれずに一方的な指示をするばかりの上司と仕事をした経験があり、その時にとても仕事がしづらかった経験から、自分の部下たちにそういう思いをさせたくないそうです。
そのためチーム運営においては、メンバーたちに逐一意見を求めたり、合議制で決めたりすることが多いのですが、そういう部分を「リーダーとして物足りない」「もっと引っ張ってほしい」と批判されたようです。リーダー自身も、「このやり方だけではリーダーとして物足りないですね」などと反省の弁を述べます。

ただ、こういったチーム運営も、リーダーとしての考え方や方針であることは間違いなく、決して誤っている訳でもありません。私に話してくれたチーム運営に対する考え方は、まだメンバーたちに伝えたことはないそうです。

リーダーらしいリーダーとは何か

その後、このチームのメンバーたちと話をする機会があり、私からはこんなことを聞いてみました。

私:「明確な方針があって、的確な指示のもとに実行するリーダーが望ましいですか?」
メンバー:「それは当然そうです」
私:「では、その提示された方針が納得できないようなものでも?」
メンバー:「いや……それは困ります」

結局、このメンバーたちは「リーダーはこうあるべき」というイメージのもと、自分たちのリーダーに不足しているところばかりに注目してしまい、安易にそれを批判していたということです。もしも彼らが言っているように、チームが「方針を立てて突き進む実行力に満ちたリーダー」に率いられたとして、リーダーの出す方針を全てのメンバーたちが納得できるかといえば、それはどうなるか分かりません。

メンバーたちが納得する方針のもとに指示が出され、リーダーの率先垂範で仕事ができれば、それはそれで良いことでしょう。ただし、特に自分の信念を持っていて自分で方針を示す「リーダーらしいリーダー」は、他からの意見をあまり受け入れなかったり、自分の意見を押し付けたりしがちな傾向があります。そういう面もあることを認識したメンバーたちは、あらためて自分たちのリーダーの良いところも考えてくれたようです。

その後、メンバーから批判されたこのリーダーは、メンバーたちにチーム運営に関する自分の考え方を話したそうです。メンバーたちはその話を聞いて納得し、今まで以上にリーダーをフォローして、チーム運営に協力してくれるようになったそうです。

機能的なリーダー像とはいろいろあるもの

経営者や管理職などのリーダーに対する批判は、どんな企業、組織、チームにおいても見受けられるもので、その多くは「先頭に立つ」「率先垂範」「統率力」など、教科書的なリーダーとの差異に関する部分です。
これは確かにリーダー像の一つではありますが、リーダーシップの取り方にはいろいろなスタイルがあります。自律心が高いメンバーは、先頭に立って強く引っ張る「リーダーらしいリーダー」を、息苦しいと感じることもあるでしょう。

最も望ましいのは、納得された方針や目標のもとに、適度な指示と権限委譲による、機能的で一体感があるチーム運営ということになるのでしょう。しかし、それをいつも実行できるような完璧なリーダーは、めったにいるものではありません。メンバーと協力しながら、お互いの足りない点を補完し合いながらチームを運営していくこととなります。そこでは、必ずしも「リーダーらしいリーダー」にこだわる必要はありません。

もしもメンバーからリーダーに対して、リーダーシップの弱さを批判するような声があったとしたら、「先頭に立って突き進むリーダーに、本当について行きたいか?」と、あえて問いかけてみてはどうかと思います。

次回は4月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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