第116回 「市場価値」だけでなく「社内価値」も重要なことがあるという話

会社の看板に頼らず、どこへ行っても成果を出せるような「市場価値」を高めるのが大切といわれることが増えましたが、その対極とされる「社内価値」も、同じく重要な場面が数多くあります。

「市場価値」だけでなく「社内価値」も重要なことがあるという話

ここ最近、「リスキリング」という言葉をよく耳にするようになりました。
その意味は「新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する、させること」と定義されており、要は技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶことをいっています。今のような変化が激しいビジネス環境において、世間一般に通用するようなスキルを身に付ける学び直しは、どうしても必要になる取り組みです。

「市場価値」が強調される一方で

この10年ほどの間、「会社の看板」などに頼らず、どこへ行っても仕事ができて成果を出せる実力を身に付けて、自分の「市場価値」を上げることが必要といわれることが増えました。終身雇用や年功序列が崩れた昨今の状況では、さらに強調されているように思います。

日本人は他国と比べると、社会人になってから圧倒的に学ばないというデータがありますが、最近は少し様子が変わってきているように思います。自分の将来に危機感を持って資格を取る、ビジネススクールに通う、副業を考えるなど、具体的な取り組みをする人は増えてきている感じがします。自分が生活していくうえでの「市場価値」を意識していることが分かります。

私自身は独立事業者ですので、基本的にこの「市場価値」の中で生きています。自分の市場価値の有無が収入に直接関わってきますので、これを維持・向上させることは、自分が仕事をしていくうえでの必須要件になります。
ただ、そんな「市場価値」が強調される一方で、実際に顧客と関わる中では、「その会社の個別の事情に精通する」「一般的ではないが、その会社にとって有益な情報を提供する」などという「社内価値」が求められる場面がたくさんあります。確かにその会社でしか通用しないことですが、実務上必要であり、なおかつ重要なことでもあります。

社内価値を極める

以前ある会社で見かけたことですが、社員500人ほどの会社の総務部門に、社員カードに書かれるような情報を全て暗記しているというベテラン社員がいました。名前や所属部署、役職などはもちろん、社員番号、入社年月日、出身学校、住所や本籍地の都道府県、社内の部署異動の履歴などといった付帯情報にあたるようなことまで、一般的に管理されている情報を全て記憶しています。他社では何も役に立たない究極の「社内価値」ということができますし、そもそもパソコンでデータ管理をすれば済むものとして、「そんな無駄なことを覚えても仕方がない」などという人も多いでしょう。

しかし、そういうことが必要になる事情というのは、会社によって全く異なります。
この会社でも、そのやり方が効率的で速い、その方が便利、さまざまな経緯や文脈を含めた情報が必要など、何らかの事情があって、その必要に迫られて行っているはずです。無駄なことを個人の趣味で覚えたわけではないでしょうし、少なくともこれらの情報を記憶することは、それほど簡単にできることではありません。

実際に聞いたメリットの中には、社員の個人情報は取り扱いに注意を求められるものですが、情報がその人の頭の中にあることで他人は誰も触れることができないため、属人化の問題はあるものの、通常のデータ管理よりも機密性が高いという話がありました。

このような「社内価値」を極めると、それを持った人は会社にとって必要不可欠な人材になります。少なくとも会社が存続している限り、よほどの環境変化がない限りは「辞めてほしい」などとは言われないでしょうし、余人をもって代え難い人材として評価されるでしょう。

また、その「社内価値」として持っているスキルやノウハウは、その後の「市場価値」につながることもあります。前述の社員情報の話でいえば、記憶するコツやどんな情報が求められたのかというような経験は、他の場所でも生かせるスキルやノウハウということができるでしょう。一般的な「社内価値」には、自社商品やサービスに関する知識、明確に記録されていない過去からの経緯などがありますが、どれも必要なもの、あれば好ましいものばかりです。

身近な出来事に注目し、具体的な取り組みをする

どこに行っても通じるような「市場価値」はもちろん大切です。ただし本当の意味でそれを身に付けるには、それなりの経験や努力、運なども必要ですし、当然時間もかかります。また、勉強したり資格を取ったりすることは大事ですが、それが必ずしも実務と一致するとは限りません。

一方の「社内価値」は、当面の実務で必要なことがほとんどで目的も明確です。そのことを中途半端にせず、社内で一目置かれるほどに極めれば、それは立派な実力ということができます。

危機感だけを膨らませて、むやみに「市場価値」を追いかけるより、目の前の身近なテーマでもある「社内価値」を高めることを考えた方が、結果的に自分の評価を向上させて本当の意味での「市場価値」につながることがあります。まずは、身近で実際に起こっていることに注目して、それに対する具体的な取り組みをしてみることも大切ではないでしょうか。

次回は5月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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