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第24回 「変わらなければいけない」とわかっていても変われない会社のお話
企業人事に関する課題に取り組んでいくと、どこかで必ず組織上の問題に行き当たります。俗に言われる組織改革、組織変革にも手をつけなければならないということです。
大きなものでは、組織の構成や階層を変えるような組織体系の変革、指示命令系統や職務権限の改革、社内基幹システムの変更、人事制度の中でも等級制度や給与体系、評価制度といった基幹部分の改訂といったものから、日々の報告資料や申請書類の書式変更、ルーチン的な作業の手順変更、担当業務レベルでの職務分掌の変更といった小さいものまであります。
変革、改革といったものは、問題解決やメリットを生み出すために行うものである一方、どこかに必ず痛みを伴う部分があります。当然のことですが、メリットとなる部分を増幅させ、痛みやデメリットとなる部分をいかにして抑えるかということで、さまざまな工夫をします。
こういうことを繰り返しながら、組織変革や改革ということを行っていくのですが、その中でもやはり「変われる会社」と「変われない会社」があります。
今回は、私が見た中での「変われない会社」の一例というお話です。
当初は「人事制度改革」というテーマでご相談を受けた会社で、お話をうかがった経営幹部は、オーナー会長と、その配下に社長、さらにその下に部長が数名でした。
皆さんの課題意識は明確で、やらなければならないことの方向性は共有されています。まずは進め方を提案してほしいということで、いくつかの参考資料を頂き、それに沿って検討した結果を後日お話させていただきました。
その際、たぶんもっとも影響力が強いであろうオーナー会長がおっしゃるには、「うちの会社に合う制度の概要を、もっと具体的にはっきりと提示してほしい」と言います。そして「もしも人が辞めてしまったらどうするんだ」とも言います。
はっきりとお話ししてもらえませんでしたが、把握していた情報を見る範囲では、これまで現場に過剰な気を遣い、甘やかしたと言われても仕方がない状況を変えられないまま今に至り、いよいよどうしようもなくなり、さまざまなところに相談をしている、そんな様子に見えました。
どうも、制度を変えることによる痛み、特に社員からの反発を恐れ、痛みも反発もできる限りゼロに近い状態で改革を行いたい、それを判断するためにできるだけ具体的な制度の姿を事前に知りたい、そんな思惑のようでした。
ただ、制度改革を行う上で、着手する前段階から完成予想図までを示すことは、少なくとも私はしていません。身の丈に合ったより良い制度を目指すという観点では、できないと言った方が正しいかもしれません。
制度改革の進め方として、まずは関係者の話を聞き、内部資料を集め、表向きには話されていないような社員の意識、組織風土も考え、その上で関係者との利害調整を重ねながら検討を進めます。もちろん方向性を示し、ゴールを想定しますが、制度の概要というのは、前段の事前調査が済んでから初めて出せるものです。
この件では、結局は経営トップが「痛みが起こらないように改革しろ」と言っている訳ですが、残念ながらそれを実現することは、ほぼ100%できません。その後、お話は平行線となってしまい、ご支援する機会はいただけませんでしたが、私の力不足とともに、経営幹部の考え方がこのままでは、誰が何をやっても「変われない会社」から脱することは難しいだろうと思いました。
例えば、成果主義を取り入れたとすれば、給料が増える人はいますが、よほど原資の積み増しでもしない限り、当然減る人もいます。その人にとって、改革は痛みでしかなく、取り返すには制度に則った成果を上げるしかありません。
このように、どこかに軋轢は出ますが、これを緩和する施策を実施したり、よく話をして納得させたりということが、本来やるべきことであるはずです。また、改革を進める中での痛みには、継続的にならざるを得ないものもありますが、多くの場合では、メリットとの相殺効果、慣れなどによって徐々に消えていくものがほとんどです。
「変われない会社」は、“変わらなければならないが、変わることを恐れていて、変われない”ということが多いように思います。変えることのリスクに向き合い、それを克服しようとする姿勢が無ければ、“変わらなければならない会社”は、いつまでも「変われない会社」のままになってしまうのではないでしょうか。
次回は9月29日(火)更新予定です。
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