第23回 「厳しさ」を取り違えていると感じる会社のお話

ある会社のマネージャーと、人材育成に関するお話をしている中で、「部下を育てるには甘やかしてばかりではダメなので、ビシビシ仕込むように配下のリーダーたちにはいつも言っている」とおっしゃっていました。

普通に聞いていれば、特に異論もなく、「それはそうだろう」と思えるのですが、こういう言い方をする方々を見ていて思うのは、この“ビシビシ”の中身に問題があることが結構多いということです。「厳しさ」ということを取り違っているように思うのです。

どういうことかというと、「目標が高い」「要求レベルが高い」というビジネス本来の意味での厳しさではなく、「言い方がキツイ」「フォローがない」「威圧的」といった接し方や当たりの厳しさが前面に出てしまっていることが往々にしてあるということです。雰囲気にピリピリ感を持たせることを「厳しさ」と考えているのです。

実際にこの会社では、一見するとけじめがあって統制が取れているように見えますが、上司に物が言いにくい雰囲気や、上意下達の傾向が強く、社内のコミュニケーション不良と見られるような状況が散見され、若手社員が定着せずに辞めてしまうという問題が起こっていました。

一昔前の体育会系クラブなどを属したことがある人ならば、先輩にはうかつに話しかけられない、厳格な上下関係、理不尽なしごきや体罰など、多少なりとも経験があるのではないかと思います。それを今になって思えば、人間関係を学べた、精神面が鍛えられた、チームにけじめがあったなど、それなりに良い経験だったと捉えている部分があるでしょう。

しかし、最近の流れでいえば、コミュニケーションを阻害するような上下関係は好ましくないとされますし、体罰などは当然厳禁、トレーニングや育成には論理的な裏付けが必要となります。メンタル強化も単なる根性論ではなく、その人に応じて意図を持ってやります。

もちろん「黙って指示通りにやれ!」ということが必要な場面はあるでしょうし、何でも理屈ばかりではありませんが、権威や威圧で一方的に押さえつけ、有無を言わさずにやらせることは、どんどん少なくなってきています。そうした方が結果につながるし効果的だからです。

部下や後輩への接し方というのは、どうしても自分の経験則に引きずられます。経験則を肯定的に捉えていて自信があるとすれば、なかなかそこから離れられません。自分がキツイ当たりの接し方をされてきて、今はそれが良かったと思っているとすれば、どうしてもそういう傾向が出ます。

また上司のやり方に反感を持っていたとしても、いざ自分が上司の立場になると、いつの間にか同じことをしていたりします。意識していることは反面教師にできますが、そうでないと意外に同じことをしています。過去に上司からされていたことが、無意識のうちに自分のノウハウとなり、自分の引き出しにしまわれているのです。経験したノウハウがそれしかなければ、結局は同じことしかできません。

キツイ雰囲気の中でも力を出す人はいますし、そういう人の方が扱いやすい面もありますが、それぞれのメンバーが最良のパフォーマンスを出すことがチームのためと考えれば、それぞれの人に対する接し方は違ってきます。自分の感覚では“甘い”接し方でも、そうした方が力を出せるなら、その人に対してはそうするべきです。

いろいろなリーダーシップ論、部下育成論がありますが、方法は一つではありません。そう考えると、一人一人のリーダーが、自分だけの価値観や経験則にとらわれず、いかに多くの引き出しを持てるかということが、実は一番重要ではないかと思います。

次回は8月25日(火)更新予定です。

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この記事の著者

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小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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