ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第38回 「個人商店からの脱却」と言いながら、なかなか進められない会社の話
中堅・中小企業では、組織化があまり進んでいない会社もまだまだ多いですが、特にオーナー企業で、「自分の個人商店からの脱却が課題」とおっしゃる社長に出会うことがあります。
組織化が進んでいない状態をもう少し具体的に言うと、社内コミュニケーションは「社長と社員の一対一」の形が多く、それに対して社員同士の横の連携は少し希薄ということです。社長を通さない指示命令やコミュニケーションは、圧倒的に少ない様子が見受けられます。
こういう会社では、社長をはじめとして、今のままの体制ではダメだという問題意識を持っていて、各社ともそれなりの取り組みを行っています。それによって、ここから脱却できる会社もありますし、反対にそれができないという会社もあります。
このうまくいくかいかないかの差として、私が見てきた中で感じているのは、結局は「オーナー社長がうまく権限委譲をしていけるかどうか」にかかっているということです。
中堅・中小企業の社長には、「何でも自分でやらないと気が済まない」というタイプの人が意外に多く、人材育成のためには、部下に仕事を任せなければいけないと分かっていても、まだ任せられない、自分でやった方が早いなどといって、ついつい自分でやってしまいます。
ここで、「本当は部下にきちんと任せなければならない」という意識があればまだ良いですが、本人は任せているつもりでも、実際には全然そうではない場合があります。
先日もある会社であったことですが、社長自身は「部下に任せている」とはおっしゃるものの、その中身を見ていると、到底任せているとはいえないような関与の仕方をしています。
例えば、任せているのは“手足を動かすような作業の部分だけ”で、考えることや決めること、判断を要するようなことは、全部社長自身がやっています。
さらに、任せたはずの作業レベルのことでも、場合によっては途中でいろいろ口出しをしたり、やり方や手順を事細かに指示したりします。
一時は任せてみたものの、「やっぱりできない」としびれを切らして、任せた仕事を取り上げてしまうこともあります。こうなると、任された側の部下たちはやる気を無くすだけで、何一つうまくいきません。
これは、結局「任せている」のではなく、ただ「やらせている」だけということです。
実は私自身も、自分でやらないと気が済まない傾向があるのですが、かつての自分の部下に対しては、どうしても自分にこだわりがあることだけを自分でやるようにして、それ以外のことはできるだけやってもらうようにしていました。そして、その結果が自分の思うとおりではなくても、大きな問題でもない限りはそれで良いとある意味、あきらめるようにしていました。
自分がやらないことで、仮に一時的にレベルダウンしたとしても、相手に責任感を持たせたうえで経験を積ませなければ、絶対に人は育ちません。その責任感は、本人に考えさせ、本人に決めさせなければ、決して生まれてきません。
そうやって、本当の意味で「任せた」上うえでの指導、アドバイスでなければ、本人は聞く耳を持てないですし、やはり身には付きません。
現場への思い入れが強く、ご自身が現場に細かく入り込んでいくようなタイプの人や、いろいろなことを自分でやらないと気が済まないマメな人ほど、このあたりがうまくいかないように感じます。
「個人商店」と言われるような会社の社長は、特に自分のやり方にこだわりがあったり、他人に対しても、細かなところで自分と同様の動きを要求したりして、それに合致しないと「こいつには任せられない」となります。
社長としてのこだわりは大事なことですが、やる人間が違えばやり方が異なるのは当たり前で、ここを許容できないことが意外に多いです。物事へのこだわりが強い人、些細なことでも気になる人は、やはり「人に任せる」ということが苦手のように思います。
「個人商店からの脱却」で必要なのは、社長は社長しかできないことに集中するために、自分しかできないことを絞り込み、その他の仕事を他人に任せられるようにしていくことが第一歩です。さらに、まずは相手のやり方を尊重し、本当の意味で任せることが必要でしょう。
多くのことにこだわりがありすぎて、人に任せることができないのであれば、残念ながらこれからも「個人商店」のままでいくしかありません。
社長や管理職の中には、「任せている」と言いながら、実は「やらせている」だけという様子をよく見かけます。
自分自身の振る舞いはどうなのか、今一度振り返ってみてはいかがかと思います。
次回は11月29日(火)更新予定です。
次の記事を読む