第39回 全体最適を考えない管理職の話

人事制度など、現場が運用する仕組みを導入しようとする時や、組織改革のように、現場にいる人たちが主体的に動かなければ取り組みが成立しないような時、私たちコンサルタントは、現場の方々のヒアリングやアンケートなどを通じて、現場からの意見聴取を行い、できる限り的確な状況把握をしようと努めます。

そういう中でときどき出会うのが、管理職クラスの立場であるにもかかわらず、組織の全体最適を考えずに、自分とその周辺からの一方的な意見ばかりを述べる人です。
現場の実態を知りたくて意見を聞いているので、その立場から述べてもらうことには全く問題ありませんが、話の内容として、自分たちが望ましいと考える姿に、会社や他部署が一方的に合わせるべきだというようなことを、本当に真顔でおっしゃいます。
現場主義と言えば聞こえが良いかもしれませんが、狭い範囲の利益代表になってしまっていて、ともすれば自分たちのことしか考えていないように映ります。

こういうマネージャーの周辺で、一般的に思い浮かぶ構図というのは、部下にとっては“物分かりが良い上司”、会社から見ると“全体最適を考えない上司”というように、部下からはそれなりに認められていても、会社から見るとそうではないというような場合です。
しかし、私がこのところ何度か続けて目にしていて、意外に多いと感じたのは、部下たちが実はこういう上司をあまりに評価していないということです。

ある会社に、何かにつけて会社の規定をねじ曲げなければならないような、ちょっと理不尽な要求を頻繁に出してくるマネージャーがいらっしゃいました。
「現場が大事」が口癖で、「現場が動きやすくするためにはこうすべきだ」「現場ではみんなそれを望んでいる」と言って、いろいろな要求をしてきます。その内容は、会社から見るとわがままに近いような、組織のルールはさて置いて自分たちを特別扱いしてほしい、そうするべきだというような自己中心的なものばかりです。

いつもそんな調子なので、ある時現場にいる部下の人たちに、「あの要求は本当に必要なのか?」「みんなが望んでいるというのは本当なのか?」と尋ねたことがあります。
その時に返ってきた答えは、「あの人はたきつけると盛り上がって動くから、どうでもいいこともあえて挙げている」「あんなこと、簡単にはできないですよね?」などと言います。

部下たちの立場からすると、“たぶん通る訳がない理不尽なこと”を“試しに上司に投げかけてみた”ところ、“思いのほか真に受けて動きはじめてしまった”ということのようです。ダメもとで上司に言わせるだけ言わせて、多少でも認められればラッキーという感じがあったようです。

そんな上司部下の関係で、本当の意味での信頼関係があったのかを問うと、部下たちは、「そこまで信頼している訳ではない」という答えでした。自分たちの上司を「思い込みで勝手に走ってしまう」「話を聞いているようで聞いていない」「動き方が違う」「ゴリ押しが過ぎる」などと見ていて、現場の仕事の中でも、好ましく思えないことが多々あったようです。

このように、管理職が現場の意向ばかりを意識しすぎて、組織の全体最適を意識できなくなっていることで、かえって部下の信頼を失っているという例は、他の企業でも見ることができるものです。こういう上司のもとでは、部下たちの方が社内での横のつながりから、よほど全体最適の意識が高かったりします。

「組織の全体最適を考える」ということで言えば、本来は上司の方がよりふかんした立場で見なければならないところですが、現実にはそうでない場合があります。
マネージャー本人は、「現場をよく理解し、部下から信頼されている上司」と自己評価をしていても、部下からそう思われていないことは少なくありません。現場の意見を吸い上げて配慮しているつもりでも、それだけでは部下の信頼は得られません。
やはり管理職として、組織の全体最適を考えた上での判断が伴っていなければ、本当の意味での部下との信頼関係は築けません。

そんな状況に陥らないように、管理職の皆さんは、ご自身と現場の部下たちとの関係性を、今一度見直していただければと思います。

次回は12月27日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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