第83回 「基本」「原点」を重視し過ぎる会社のデメリットの話

新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの人が新しい働き方を体験し、従来の働き方との使い分けを意識するようになった一方、「基本が大事」などと以前どおりのやり方を求める人もいますが、その行き過ぎはさまざまなデメリットを生み出します。

「基本」「原点」を重視し過ぎる会社のデメリットの話

コロナ禍を機に、在宅勤務をはじめとしたリモートワークを、多くの人が経験しました。中でもオンラインを介したウェブ会議は、出社の有無にかかわらず、使われる頻度が飛躍的に増えています。同じ社内でもあえて会議室に集まることなく、それぞれが自席からウェブ会議に参加することもあります。

会議室の埋まり具合でスケジュールが左右されることがなくなり、社内のちょっとした場所の移動も、実は意外に非効率だったことが分かりました。さらに会議の中身によっては、会議ツール上に用意された機能を活用した方が、効果的な場合があることも分かりました。

私は最近いくつかのウェブセミナーに参加しましたが、ただ講演を聴く形式のセミナーであれば、オンラインの方が圧倒的に便利で効率的です。
主催者に話を聞いても、リアルな会場では収容することが不可能なほど多数の聴講予約があるそうで、たぶん普通に集まれるような環境に戻っても、セミナーイベントのオンライン化は止まらないだろうと思われます。

その一方、リアルでなければ足りないことも、たくさん見えてきました。やはり外食はお店で出来たてを食べるのが一番おいしいですし、旅行はその土地を訪ねてこそ意義があります。

仕事のうえでも同じで、直接顔を合わせて、一堂に集まってのコミュニケーションは、状況に合わせて確実に必要ですし、視界の中に相手がいれば、そこから得られる周辺情報は格段に増えます。

しかし、そういう部分を取り上げて、「やっぱり顔を合わせて話さなければダメだ」などと言い、そこだけに過度にこだわる人たちがいます。昨今のウェブ会議などに限らず、昔からのやり方を「基本」「原点」といって、それに固執するようなことがあります。

「基本」や「原点」を適切に実務と照らし合わせる

経理業務の例

ある会社の経理部長ですが、経理システムは既にIT化されているにもかかわらず、若手部員には並行して手書き帳簿の作成を命じていました。「簿記会計の基礎を覚えるには手書きが一番」なのだそうです。ただし、実務上の必要性は一切ありません。

プログラミング研修の例

また、あるシステム会社では、最近の開発ツールは一切使わせず、かなり古い手法によるプログラミング研修を行っています。「基本を身につけるため」とのことですが、実務で使われる方法ではないので、その研修のためだけに覚えるようなものになっています。研修担当が元技術者で、その人が現場にいた時代のやり方に引きずられているようです。

製造部門の例

さらに、ある部品製造会社ですが、今は全て自動化された工程を、経験が浅い社員にはあえて以前の手作業で体験させています。「昔は大変だったことを知る」という目的だそうですが、そのことに結構時間をかけるので、生産性が下がってしまうようなケースがあるようです。

「基本」の位置づけ

私はこれらが全く無駄な行為だとは思いません。「基本」「原点」にあたるものを知ること、体験することが、実務の理解を深めることは確かです。

ただし、その「基本」「原点」が、今の実務に照らしたときに果たして適切なものなのかを、いま一度よく考えなければなりません。
時々見かけて気になるのは、「個人の興味や趣味以外で、そんなに昔のことが今の実務に必要か」ということです。

簿記を理解するのに、帳簿の手書きや二重管理まではやりすぎと思いますし、同レベルの理解がもっと早くできる方法はあるはずです。
技術進化の早いITでは、いつの時代の技術を「基本」に位置づけるかで、やる内容は大きく違います。そもそも、新しいものを追いかけて順応する能力の方が、実務のうえでは大事でしょう。

以前の苦労を知ることは悪くありませんが、そこに多くの時間を費やすことに意味はありませんし、例えば、 たき火を作る方法として、火打ち石までさかのぼる必要がないように、どの時代のことを知らせるのかという問題があります。

非効率な組織にならないために

「基本」「原点」を重視し過ぎる会社は、それを言い訳にして新しいものを拒んでいるようなところがあります。
このコロナ禍で、官公庁が通信手段でいまだにファクスを多用していることを知り、私には結構な衝撃でしたが、「前例踏襲(とうしゅう)」「今までどおり」が基本になってしまった組織では、そんな無駄や非効率が当たり前となってしまいます。

「基本」や「原点」は大事ですが、それは時代と共に少しずつ変わっていきます。
新しいものを拒み、保守的で非効率な組織にならないためには、そのことをよく理解しておかなければなりません。
「基本」「原点」を重視し過ぎることが生み出すデメリットがあります。

次回は8月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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