第82回 「差がつく評価制度」の良し悪しという話

新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの人が「安定」を求めている中、企業の評価制度では必ずしもそれを目的とせず、「差をつけること」を目指している部分がありますが、その良し悪しは会社の風土や環境によって大きく異なります。

「差がつく評価制度」の良し悪しという話

新型コロナウイルス感染拡大の影響による解雇や倒産という話を、私の身近でもいくつか耳にするようになりました。自分の意思に関係なく職を失ってしまうのは、本当に大変なことです。そんな不幸な事態が一件でも少なくなることを望んでいます。

こういうときほど多くの人が安心や安定を求めますが、実際に何が安心・安定にあたるかというのは、明確に言い切れるものではありません。個人の主観による感じ方なので、100%の安心・安定というのはたぶん存在しないのでしょう。

会社事情が影響する評価制度

そんな「安定」が求められることが多い昨今ですが、企業における評価制度は、必ずしも「安定」を目指しているものではありません。評価制度の目的には、人材育成などの面もありながら、主なものは「成果に見合った報酬を決める材料にすること」です。それは「安定」というよりは、働きに応じて「差をつける」というものになります。

最近は減りましたが、成果主義が強くもてはやされていた頃は、社長や幹部社員から「うちの会社は同年齢、同じ社歴でも、年収で最大○百万円の差がつく」などという話をされることがよくありました。能力主義や実績主義であることを強く言いたかったからでしょう。

私が今まで評価制度の検討に関わった経験の中でも、主に社長や経営幹部から「もっと差がつくような制度にしたい」といわれることがあります。「能力がある者を厚く処遇したい」「結果を出している者に報いる制度にしたい」と要望されることが多いです。

これは一般論としてごく普通の考え方ですし、もしも社内に「悪平等」といわれるようなことがあるのだとすれば、それは決してよいことではありません。しかし、ただ単に給与の金額や昇格スピードなどに差をつけることで、「悪平等」が解消されるかといえば、そういうわけではありません。

私が今まで多くの会社の評価制度に関わってきてあらためて思うのは、「差がつくこと」の良し悪しは、会社事情によって大きく違うということです。

会社の風土や環境で異なる評価制度の例

アパレル系会社の例

これはあるアパレル系の会社ですが、スタッフ個人の売上に基づくインセンティブが大きかった制度を、店舗ごとのチーム成果を重視した制度に変更しました。

その理由は、確かに個人能力による売上の違いはあるものの、店舗の立地、人員体制、顧客層、商品の品揃えなど、それぞれの店によって環境が大きく違い、そんな中では、例えばスタッフの能力に関係なく商品力だけで売れてしまうようなものもあり、新人スタッフがたまたま大きな売上を上げてしまうようなこともあったそうです。そんなさまざまな事情を全て加味して個人評価をするのは難しく、個人の売上目標自体は設定するものの、チームとしての成果反映の比率を上げることにしたそうです。

営業系会社の例

また、別の営業系の会社では、優秀な営業スタッフが、毎月確実に目標達成するものの、それ以上の活動は抑えて自分の売上が突出しないように調整していたという例がありました。変に称賛されて他のメンバーと仕事がやりづらくなるのが嫌だったといいます。

こちらもチーム成果を重視する方向に切り替えたところ、自分の頑張りがみんなの成果にもなるということで、能力の高い者は周りを引っ張り、みんながそれに協力していく好循環ができたそうです。

不動産関連会社の例

逆に、これはある不動産関連の会社ですが、グループ評価やプロセス評価を取り入れたものの、かえって評価があいまいになり、社員から不満の声が出たそうです。

人の出入りが激しい会社でしたが、将来は独立を考えているような者も多く、みんな相応の能力を持った「稼ぎたい」人たちでした。

そこでこの会社は、100%個人の売上利益に基づく歩合給のような制度に切り替えたところ、評価がクリアになったとして社員からの不満は消えたそうです。

自社の特性に基づいた評価制度を考える

評価制度というのは、どんなに精緻(せいち)な仕組みであっても、あくまで自社の価値観を元に作られ、今の仕組みで評価した結果でそうなったというだけです。この評価で差がつく度合いが大きいほど、納得できる説明がなければ社員の意欲は下がり、不信感が高まってしまいます。

ともすれば「差をつけること」で、多くの人のやる気につながるように思いがちですが、もしも競争の苦手な人が多い職場であれば、あえて「差をつけない」仕組みで落ち着いて協力し合う環境を作った方がよい場合もあり得ます。もちろん、競わせて明確に「差をつけること」が好ましい会社もあります。

評価制度の目的は、ただ、初めから「差をつけること」ではありません。社員を活性化して業績を上げるためのものです。

企業風土、仕事の進め方のスタイル、社員の性格傾向などを見極めたうえで、自社の特性に基づいた評価の仕方を考えていくことが必要です。

次回は7月28日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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