第81回 組織の余力は「余裕」か「無駄」かという話

効率化を求め過ぎて組織の余力をなくし、それが想定外の事態に対応できない一因になることがありますが、強い組織には適正な余力が必要で、それが「余裕」か「無駄」かは常に意識しておかなければなりません。

組織の余力は「余裕」か「無駄」かという話

新型コロナウイルス感染症への対応の中で、さまざまな場所で混乱の様子が見られます。医療現場のひっ迫は一番大きな問題ですし、給付金などの生活支援策も、決定の遅さだけでなくその後の手続きでも、現場で滞ったり戸惑ったりしている様子があります。
想定外の事態ということで、環境整備ができていなかったことも多々ある中で、現場で働く方々はみんな最善を尽くそうと一生懸命です。本人も不安な中で頑張っていただいていることには、本当に感謝しかありません。

効率化を求めすぎた組織の現状

この現場の苦労や混乱について、その一因に「効率化を求め過ぎてきた」という指摘があります。
病院などの統廃合や診療報酬ほか医療費削減などを目指した「医療の効率化」、公務員の人員削減や給与削減、職員の非正規化などによる「行政の効率化」のように、組織の余力を徐々に切り詰めてきたことが、今回のような非常事態の対応に悪影響を及ぼしているといいます。IT化の遅れが作業の非効率につながっていますが、「予算の効率化」を優先しすぎたことは否めません。
行動自粛要請の中では、働き方も在宅勤務をはじめとしたリモートワークが急激に進み、対面でなければ進められない仕事と、リモートでも問題なく対応できる仕事がはっきりしてきました。そこから見えてきたことを「仕事の非効率」「組織の無駄」と判断すれば、人員削減をはじめとしたリストラが進む可能性もあるでしょう。

短期的視点と中長期的視点

これらはどれも「組織の余力」に関する話ですが、以前ある知人からこんな話を聞いたことがあります。

社員数名の小さな設計事務所。その年は急激に仕事が増えて、決算では事務所として過去最高益だったそうです。それ以前の数年は本当に仕事が少なく「社員に辞めてもらうしかないのではないか」「事務所を継続できるのだろうか」という厳しい状況だったそうですが、みんなで協力して何とか持ちこたえているうちに、景気の潮目が変わって急激に良い方向へ転換していったそうです。

この所長は、転換にうまく乗れたのは「社員がいてくれたこと」が大きな理由だったといいます。専門的でコアな業務をこなす能力がある社員がいたことで、案件があればすぐに取り組める体制があり、そのおかげで迅速な対応を取ることができたということでした。
もしも社員を最小限、もしくは抱えない形で会社をスリム化して、社外に仕事を流しているような会社だったとしたら、決してうまくはいかなかったといいます。
技術を持った人材を新たに集めることは、景気が良い循環になってからでは難しく、迅速に仕事を請け負う体制を作れずに、受注を伸ばすことはできなかっただろうとのことでした。

経営的な視点で、業務量に応じた弾力的な人員体制を取れるのは、好ましいことのようにいわれます。無駄な社員を抱えずに済まそうと非正規雇用を増やすのでしょうし、ここ最近出てきている「解雇規制緩和」の話にも、同じような意図が含まれています。効率を重視してできるだけ人を雇わず、何でも外注やアウトソースで処理しようという動きも、考え方は近いでしょう。

「働かないアリ」の話

ただ、無駄をなくすということは、裏を返せば組織の「余裕」や「のりしろ」の部分を減らすことでもあります。
これに関連して、少し前に話題になった「働かないアリ」という話があります。
アリのコロニーの中には必ず働かないアリが一定割合で存在していて、それらを排除しても同じように一定割合の働かないアリが出現するそうです。
最近の研究では、アリの行動を一匹ずつ観察すると、初めによく働いていたアリが休むようになると、それまで働かなかったアリが働き始めるそうで。勤勉なアリだけのコロニーでは、アリが疲労で一斉に働けなくなるのでコロニーが滅びるのが早く、一定割合で存在する働かないアリは、コロニーの長期存続に不可欠なことが分かったといいます。
人間の組織でも、短期的な効率や成果ばかりを求めると悪影響が出ることがあり、組織を中長期的な視点で運営することの重要性を示唆する結果だとされています。

「人を雇う」ということ

特に景気がマイナス方向のときは、コストや無駄を減らすことに意識が向きがちですが、そこで新たに何かが起こっても、そのことに対応する余力はありません。逆にプラス方向であればなおさら、組織に余力や余裕がなければすばやく波に乗ることはできません。
特に「人材」という観点では、必要な人材がある日突然に都合よく現れることはほぼありません。先を見据えた採用と地道な育成、発注先企業との継続した良好な関係など、中長期の取り組みがあってこその人材です。仕事があるから「人材調達を」などと考えても、それはなかなかうまくいきません。

「人を雇うこと」には責任が伴いますし、それを維持するのは経営的にも大変ですが、会社にとっての社員は仕事上の一番身近なパートナーであり、味方でもあります。懇意にしている協力会社なども同じです。
そんなパートナーや味方は多いに越したことがありませんが、会社が効率を追求するあまり、最近はこういう相手を、ないがしろにする動きが多いように感じます。

強い組織には、必ず適正な余力があります。それは過剰な「余裕」でも不要な「無駄」でもありません。
組織にとって最良、最悪の両方の状況を想定して、自社にとって何が「余裕」で何が「無駄」かということは、間違わないように常に考えていなければなりません。

次回は6月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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