第84回 「自分の食いぶちは自分で稼げ!」という社長の話

昨今では終身雇用が崩れて「キャリア自律」がいわれ、ある社長の「自分の食いぶちは自分で稼げ!」との言葉は的を射ているように聞こえます。しかし、私は会社と社員の関係の認識がまだ古いままのように感じてしまいます。

「自分の食いぶちは自分で稼げ!」という社長の話

最近、「キャリア自律」という言葉をよく耳にします。会社からの指示や押しつけでなく、社員個人が自分自身のキャリアに興味を持って、自律的にキャリア開発をしていくことをいいます。

特に日本では、終身雇用のもとで一度就職したら定年まで一社で勤めあげる流れが主流だったことから、自分のキャリア形成は会社に任せておくという考え方が一般的でした。

会社は長期雇用前提で人材育成を行い、社員はそれに従って教育を受け、会社から決められた配属先で仕事をこなす、それがキャリア形成をしていくという形でした。

終身雇用の崩壊による「キャリア自律」の必要性

今は終身雇用が崩れて転職は当たり前になり、会社も長い視野での人材育成は実施しづらくなりました。社員の側も、いくら自分が希望したとしても、その会社で確実に定年まで勤められるかは分かりませんし、自分にとって望ましいキャリア形成が保証されているわけでもありません。自分のキャリア形成を会社任せにすることのリスクが大きくなりました。

私は「キャリア自律」はこれからの必然だと思っています。誰もが自分のキャリアについて、自律的に考えなければなりません。

現在、日本ではキャリアの会社任せから抜け出せない社員とそうでない社員、相変わらず社内ゼネラリスト育成の発想で、専門性を考えない人事異動などをし続ける会社とそうでない会社が混在しています。終身雇用の発想から抜けられない部分がまだまだ残っている状態ですが、これも徐々に変わってなくなっていくことでしょう。

ある会社の社長の口癖

これはある会社の社長ですが、その口癖は「自分の食いぶちは自分で稼げ!」です。

「キャリア自律」という点から考えれば、自分にいったいどれだけ稼ぐ能力があるのかを知ることは大切ですし、仕事に対する責任感や当事者意識といった点からもあってよい考え方です。

正論だとは思いますが、もし私が社員の立場で社長からこういわれたとしたら「それならば会社を辞めて自分で独立しよう」と思います。

会社に入って組織の中で働くということは、決められた労働条件に従って、労働力を会社に提供するのと引き換えに、それに見合った生活安定や報酬を得るということです。ですから決められた時間に出社しなければなりませんし、業務時間中に自分勝手に抜け出してはいけませんし、会社や上司の指示に基づいて働かなければなりません。

これはあまりよい言い方ではありませんが「自分の食いぶちを稼ぎきれなくても、他の誰かに稼いでもらえる」という考えで、自分の生活をリスクヘッジするために会社勤めをしているともいえます。

また、会社にいれば「自分だけでは作れない仕事環境を用意してもらえる」「会社の看板やブランド、人脈が使える」「会社に蓄積されたノウハウが使える」「会社が予算を用意してくれる」など、自分の力だけでは得られない仕事環境が得られます。「会社にいれば自分の食いぶちは稼げるが、自分一人ではそう簡単には稼げない」という面があります。

ただ、それを逆手にとって、経営者や管理職が「自分の食いぶちは自分で稼げ!」と社員にいうのは、他人に頼りすぎないという心構えとしてはよいとしても、それを本気で社員に要求しているとしたら、社員が会社に属している意義や目的を否定しているように聞こえてしまいます。

会社と社員の関係は「お互いさま」

私は会社と社員の関係は「お互いさま」だと思っています。会社は社員のおかげで稼げるわけですし、社員も会社があるから仕事ができるわけです。お互いが会社という組織を利用して、それぞれの立場にメリットがある形でビジネスをしています。

会社は「社員を雇ってやっている立場」で、社員は「それに報いるように働かなければならない立場」という考え方もありますが、これは主従関係の考え方で「お互いさま」ではありません。

「自分の食いぶちは自分で稼げ!」という言い方も、同じようなニュアンスを感じてしまいます。

最近はブラック企業などで見られるような会社と社員が「お互いさま」の精神ではない会社が増えているように感じます。

その一方で、今まで以上に「お互いさま」を強く意識して、さまざまな人事施策を打ち出している会社も増えていて、この二極化が進んでいる状況が見えます。

会社としてどちらが望ましい方向なのかは明らかなはずですが、まだまだそう考えていない会社も多いようです。そのまま会社と社員の「お互いさま」の関係を軽く見ていると、いつか大きなしっぺ返しがきてしまうのではないでしょうか。

「自分の食いぶちは自分で稼げ!」という社長の会社が、どこかで「お互いさま」ということに気づいてくれればと思います。

次回は9月29日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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